池袋Smoking Area

本屋 雄人

第1話 だいたい、普段はここ

 社会人2年目と同い歳、今年で23歳。

いまだ大学生。今年で3回生。フリーターでは決してない。

そして、人生の春は来る予感がしない。

バイト帰りに池袋に寄っては、ラウンドワンで鉄〇をやってストレス発散し、

アニメイト本店の方面に向かって歩いて行く。

すると、目の前にコンビニと「中池袋公園」が見えてくる。

別段何かあるわけではないのだが、ここは立地上多くの人が休憩したり、待ち合わせをする場所として選ぶ。


そして、俺はというと、遊んだ帰りに公園の喫煙所で一服してから帰るのが日課となっていた。


今日も今日とて、サンシャイン通りに面する駄菓子屋にコーラを安上がりに買って、公園のコンビニでチキンを買い、そのまま喫煙所へと足を向けていた。


最近は、鉄〇が1クレで2ゲームできるから、ついつい長居しがちになっている。

「レオきゅんの足技、何回やっても繋げられないんだよなぁ。あと、一美嫌い」

オンライン対戦で同じ相手に2回も負けると、さすがにへこむ。

「一服して、帰りますか…」


公園の喫煙所の前には時計があるから、一々時計やら、スマホを確認しないでも時間がわかるのがありがたい。

ゲームで腕が疲れてるし。


とりあえず、肉とコーラで空腹を満たす。

ジャンク極まりないが、家に帰って自炊はする気がない時はこれにおにぎりが付くくらいだ。


「よーやく明日で水曜か…。最近しけてんなぁ。華とか全くねーよ」

内心、愚痴をこぼすが、こうやって一人で軽食を取って、ぼーっと人間観察をするのは嫌いじゃない。


だからこそ、人の多いこの公園に煙草を吸いに来てるのだ。


愛してやまないマルボロメンソール、ニコチン0.8㎎、タール12㎎のこいつは、

俺にとって欠かせない相棒だ。他のメンソール系も吸ってみたが、こいつが一番俺に合ってた。


大学時代に誕生日プレゼントで貰ったジッポライターを使う。

キンッ、と金属音を鳴らしてケースを開けて、フリントホイールと呼ばれる部分を回して火をつける。俺は一般的なオイルを使っているから匂いは普通だが、

人によってはレーヨンという、油を染み込ませる綿の部分に香水を少しばかり混ぜる人もいる。


「ふぅー」


すっきりとしたメンソールの味が肺と鼻から抜けていく。


正直な話、8割はこいつを吸っているが、給料日前や金欠等で金が無い時は別の銘柄を吸っているのだが、それはまた別の機会に。


ふと、対面の人を見ると、女性だった。

別によくある光景だから全く気にしないのだが、今回は思わず2度見してしまった。


黒髪ロングのストレート、サングラスをかけた美人さんは、vapeを吸っていた。

「まじか、生でvape吸ってる人初めて見たよ!」

ロックな雰囲気の女性は、口から大量の白い煙を吐き出しながら、スマホをいじっていた。

これから飲み歩くのか、はたまた彼氏さんと待ち合わせ中なのか、状況は分からなかったが、ものすごく興味をそそる人だった。


ちなみに、vapeというのは、いわゆる水タバコと電子タバコを合わせたような物で、リキットと呼ばれるフレーバーのついた液体を、蒸発させて吸うタバコのこと。

水蒸気を吸うわけだから、それはもうすごい量の煙になるんだよね。


と、チャラい兄ちゃん登場。

彼氏さんかな?と思っていると、


「すいません。今お暇ですか?もし時間あるなら、いい水タバコのお店知ってるんですよ。これからどうですか?俺がお店代払いますし」


完全にナンパだった。


いや、気持ちは理解できる。俺も自分の外見に自信があれば、

正直、声を掛けてみたい。vapeがどんなものか聞いてみたいし、何より美人さん。間違いなく美味しい酒が飲める(ま、ビール以外で)


「………」

「これから、どっすか?ちょうどこの後暇で、どうしようか悩んでたんですけど、お姉さんみたいに綺麗な人見ちゃったら、声かけずにはいられなくて」


この手の誘い文句で『この後暇で…』っていうのは男の俺からして、

相手に「暇だから声かけた」っていう、「じゃあ、暇じゃなかったら声かけないわけ?」と裏の意味で取られるような言い方は、よろしくないんじゃないかと思う次第です。まあ、彼女いないですけど。


「ダメかな~?時間あんまりないなら、軽くご飯だけでも!どう?」

このチャラ男、話し方がどんどんフランクになるな。

ナンパってそういうものなの?


と彼のナンパがどうなるかを見ていると、

「んっ!うぉへっ!げほっ!」

「あのさ、シカトしてるの分かんない?煙まずくなるから、どっか行って」


その女性は、チャラ男君の顔に直接大量の煙を吹きかけた。


思わず、鼻で笑ってしまったがために、鼻から予測しなかった煙草の煙が出て行った。おかげで俺もむせてしまった。


チャラ男君は、いそいそと喫煙所から退散。

ドラマのようなワンシーンが出来上がっていた。

これが本当にドラマなら、ここで件の女性が俺に話しかけてきて

「さっき、笑ってたでしょ。気分悪いからさ、ちょっと付き合ってよ」

とか、言われちゃって、お酒でも飲みに行くんだろうけどー


vapeをしまって、俺のほうに歩いてきた。

しかも、俺の事ガン見してる。

ま、まじか⁈まじでドラマみたいなことになるのか?


「あんたさ、さっきからずっとアタシのこと見てたでしょ。キモイからやめてくれない?」


吐き捨てるように言われました…


そんなさ、確かに見てたけど、そんな言い方ってないじゃない?

娯楽の提供をしてたみたいだから、一部始終はしっかり見てたけどさ?

他にも吸いながら見てた人おるやん?

何とも言えない気持ちを抱えて、自宅への道を歩き出しましたわ。

トホホ…



今日の喫煙所教訓【吸いながら、人のことを注視してはいけない】

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