第16話
翔と別れてから私は二人の人と付き合った。ひとりは、3つ上の横浜に住む大学生。出会いは、当時流行っていたmixiのコミュニティ。お互いWILLCOMも持っていた為毎晩電話するようになった。聞く音楽も似ていて、お互いフットサルもやっていたのですぐに仲良くなった。私に人気が出る前のONE OK ROCKを教えてくれて、YUIを弾き語りするセンスの良い人だった。彼の家は2LKの木造アパートの2階。ボロボロのアパートは今にも崩れてしまいそうに見えたが、そのおかげで仕送りと自分で稼いだお金で家賃が払えるくらい安いという。当然、隣の部屋の声は丸聞こえだった。部屋にはアコースティックギターとエレキギターが置かれ、至る所に譜面がばらまいてあり、壁には沢山写真が貼り付けてある大きなコルクボードが掛かっている。料理が好きだった彼の台所は男の一人暮らしとは思えないほど沢山の種類の調味料が置かれており、最初は本当にひとりなのかと疑うほどだった。しけし、彼の作るメニューはどれも本当に美味しかった。私がお気に入りだったのはミートソーススパゲティ。何が食べたか聞かれれば必ずミートソーススパゲティをお願いした。舞台の稽古をして帰れば必ず夕ご飯とお風呂を用意して待っていてくれて、階段を登る時は必ず私を先に行かせ降りる時は彼が先に行き、車道側を絶対に歩かせない、優しい人だった。そんな彼に私は甘えすぎてしまった。そして、遠距離だった為会う度に、私のことが好きかどうか聞いてしまう重い女になっていた。その結果、好きかどうか聞いても、嫌いじゃいよ、と言う返事をされ、私のために作ってくれてた料理もいつしか私が作るようになり、挙句の果てには、掃除をさせるためだけに私を横浜まで呼び出すようになっていた。彼に気持ちがないことは既に気づいていた。それでも、彼に呼ばれれば横浜まで行くのだった。
そんな曖昧な関係が3ヵ月続き、会えば一応はセックスをしていたが気持ちなんて入ってないのはすぐに分かる。する回数も減ったのだが前回会ったときに買ったコンドームの数と私たちがした回数以上に数が減っているような気がした。確信を得ようと帰り際にコンドームの残りの数を数えて帰り、彼に呼び出された時にもう一度数えてみた。やはり、数が減っている。その事実を知った瞬間私の中でなにかがスーッと引いていくのが分かった。その日の夜もセックスを求められたが私は断った。この関係を終わりにしなくては。コンドームの数が減っていることを確信した時私は思った。朝方、彼がまだ眠りについてる間に起床し私物をまとめ彼にお別れのキスをし、家を出た。最低な男なのは分かっていてもドアノブを開けようとした瞬間涙が溢れてきた。後ろから彼が引き止めてくれるのを待ったが、彼は眠ったままだった。私は彼の家から駅まで泣きながら歩いた。通いなれた道がいつもより遠くて、荷物が重く感じた。
改札出たら右に出てまっすぐね。銀行の前の横断歩道を渡ったらずっとまっすぐ歩いて、突き当たりを右ね。公園を通り過ぎたら左に曲がって突き当たりを右。しばらく歩くと大きい道に出るからこの道をわたってずっとまっすぐ歩くと到着。ちょっと遠いけど、いつでも来ていかいから、はい、これ合鍵。なくすなよー。
初めての彼氏の家だった。初めての合鍵だった。初めての人だった。ずっと、優しい人だと思ってた。初めてが沢山の人と過ごした時間は最悪な形で終りを迎えてしまい、この彼との出来事を笑い話として話せるようになるまでかなり時間がかかった。彼を最低な男にしてしまったのは私だ。こんなに人を好きになることができるのかというくらい彼が好きだった。
今でも、ふと彼のことを思い出す。
ヨリを戻したいなんて思わないが、元気でやっているのか、ちゃんと仕事をしているのか、なんとなく思い出しては、あの頃は若かったと思うのだ。
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