第9話
冬休みが終わった頃、翔にはまた彼女が出来ていた。と言っても3年間のうち3人~4人くらいだと思うが、それでも私からしたらチャラいと思う。しかし、またすぐに別れてしまい一緒に過ごす日々が続いた。
翔と一緒に帰るのが当たり前だと思っていたが、また翔に彼女が出来れば一緒に帰れなくなる。高校を卒業したら翔は他県へ行ってしまう。そう思えば思うほどやはり一緒にいたいと思ってしまった。
そんな思いを抱えたまま春休みに入ろうとしていた。いつも通り寄り道をして、家まで一緒に帰っていた。このまま春休みが終わり卒業してしまえば翔とは簡単には会えなくなる。私はソワソワしていた。
「ねー、卒業したらさ、こうやって一緒に帰れなくなるね。」
「そうだなー、、、春休み遊ぼうな。」
「うん。」
辺りはすでに暗くなっていた。いつもならどうでもよい事を話してバカ笑いして帰る帰り道。それなのに、この日はお互い静かだった。
「あのさ、うち、翔と離れたくない。」
家が見えて私は焦ったのかとっさに言ってしまった。
「え。」
「好きとかなのか分かんないけど、その、なんかさ」
「そうだな、会えなくなるしな」
「寂しくなるね」
「付き合うか」
「え、」
「一緒にいるのがなんか当たり前かなって」
「うん。よろしく。」
「よろしく」
お互い好きとは言ってないけど、それでも心が通じたみたいだった。
付き合ってからも何も変わらず過ごした。
公園で何時間もお喋りしたり、ショッピングモールでご飯を食べたり、自転車で2人乗りしたり、帰り道に雨に降られてお互い制服がビショビショになったこともあったっけ。初めて手を繋いだ時はドキドキした。友達から恋人になった事を改めて確信した。高校を卒業して遠距離になったとしても私たちなら大丈夫だと思っていた。
でも、私たちの関係はすぐに終わった。
「やっぱり友達のままがいい。」
そうメールが送られてきた。
ちょうどメールが来た時、私は都内で舞台の本番があり無事に千秋楽を迎え打ち上げをしている最中だった。
3日前に舞台本番の為に都内に向かう電車を一緒に待っていてくれた。いつもとなにも変わらない翔だった。本番には行けないけどがんばれよと言って見送ってくれたのに、今日が千秋楽だと知っているのにたった一言、友達のままがいいとだけメールが送られてきて終わってしまった。
ショックと言うより、理解出来ず先輩にこのメールを見せた。先輩は40代の大人の女性だった。固まっている私に携帯貸してと携帯を奪われ、数分後にこれを送りなさいと携帯を返された。
「分かった、今までありがとう。」
たったこれだけだった。
「良い女になりたいならこの男を見返すくらいになりなさい。」
そう言われ、私はそのままメールを送信した。返信はなかった。
春休みが明けてから1度も翔とは会っていない。初めて振られ失恋を味わい引きづると思ったが案外そうでもなかった。先輩に言われた言葉は今でも覚えている。
翔と過ごした高校3年間がたった一言で壊れてしまった。
あの時、私があんな事を言っていなければお互い笑って卒業おめでとうと言えていたかもしれない。春休みももっと一緒に過ごせていたかもしれない。恋人でもないのに一緒に居すぎたせいか、私は一緒にいることが当たり前だとおもっていた。そんな考えが子供だった。
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