第15話 裏切り?前編

 私はある時、田村さんに出会う。最後にあったのが、奴隷を押し付けた日。つまり怒鳴りちらし、巻くしたてて謝らずのままだったのだが、意外にも田村さんやその連れの女性からは色々話を聞けた。もしかしたら口も聞けず、話もできないとも思っていたが、気にしていたのは私だけだったようである。

 私の奴隷だったエルフの少女は、立派な大人の女性となっているらしかった。責任感を持ち合わせ、魔術も剣技も優れている。私の所に居たときより、ずっと笑っている時間が増えていると言うのだ。田村さんの所に行ってから頭角をあらわし、今や田村さんのチームでも三番目の地位にいるのだとか。

 私はそれを聞いて嬉しくなった。私はもとよりエルフの少女は素晴らしい素質を秘めているのを感じていた。しかし私ではその素質を感じながらも引き出せずにもどかしい思いをしていたのだ。こうなるのであれば、もっと早くに田村さんに託していれば良かった。


「手元に戻したいと思っても、あの子はあんたに戻る事は無いわ! 後悔しても、もう遅いのよ!」

「ははは。もうそんな可哀想な事はしませんよ。あの時は理性を失って怒鳴り散らしてお恥ずかしい限りで。きっとあの人も私と顔を合わすのも不愉快なことでしょう。本当に色々とすみませんでした。でも、それが良い結果に繋がっているのですし、これからも良好な関係を築いていけましたら。おそらく、単純にウマが合わなかっただけなんです」


 今や前向きになっている私は、素直に田村さんに謝れたし、これからももっと仲良くしたいと思えていた。私は素直な心を言葉にして、田村さん達と別れたのだった。




 ダンジョンにて、私はユーイチと魔物の殺戮をしながら遊んでいた。休憩がてらに会話をする。

「護衛の嬢ちゃん、どんな様子だ?」

「帳面や行政、税務管轄に提出する書類を教えてみたけどヒーヒー言ってる。結構疲れやすいのか今日も早めの就寝さ」

「詰め込みすぎじゃね。この町は納税とかしっかりしてんだな。治安も凄く良いよな。だけど、金、金貨に対してだけ異様に物価が高くない?」

「それ、俺の仕業。この世界が嫌いだって時があってな。経済的崩壊を目的に、金貨を独占しようとしたことがあったんだ。歴史でもあるじゃん。ゴールドラッシュで紙幣が紙くずになったあれ。皆が金貨を手放そうとするように情報操作したんだ。そこで俺がかき集めて独占した。でもさ、案外普通に通貨は巡るんだよな。全く面白くなかったよ」

「お前それで世界恐慌にでもなってみろよ。怖すぎ。っつーか自分がしようとしたこと自覚した方がいいって。本当に最低だよ」

「ま。過ぎた事はなんとやら。独占したウン十トンウン万トンの金塊が入った魔法の鞄もどこへやら」

「おい!」

「冗談だって。ちゃんと管理してるって」

 そこで、「再開しようか。次は罰ゲームありね」とユーイチが言う。罰ゲームあり、つまりウォーミングアップは終了で本番だ。

「負けたら酒場で、お客全員に向けてロボットダンス」「じゃあ、お前は一人ラピュタ」「あれは辛い」「結構好評だったぜ。紙芝居してるみたいだった。嫌なら女装」「うん。一人ラピュタするわ」「嬢ちゃんと一緒に歌ったのも結構良かったし、それでも良いぜ」「逃げてるようで癪しゃくだ。良かろうとも。ムスカ大佐を演じきって見せてやる!」「女装という選択肢は無いのな。つか、負けるの前提じゃねえか」


 合図と共に私達は走り出す。最早風。吹き抜けた後には魔物の残骸ばかりが残されていく。

「三百二十!」

「よんにーまる!」



 競うかのように声をあげる。しかし、私はふとある光景を目にして、事前に決めていたコースから外れた。

「おいおいケースケ! 今はお題、高級部位の数比べだぜ。雑魚処理したってポイントにしねーって」

 ユーイチが遅れて来て、私に声をかけた。

「違う違う。要救助っぽいよ。ほらそこ」


 そこには何人かが固まって魔物と応戦している。見るからに怪我人もいた。私達は遊びを止めて、取り敢えず魔物を皆殺しにする。


「ケースケ! この子が一番ヤバイ。チアノーゼ! 退いて退いて!」

 ユーイチは慌てたように怪我人に駆け寄る。私も状況を察して、慌てて道具を取り出した。

「気胸? どれくらい時間が経ってる? 取り敢えず穿刺に適当に注射針どうぞ。大丈夫そだね」

 私は危なそうな人をユーイチに任せ、適当に治療していった。


 一息ついたのだろうか。ユーイチが怪我人の誰かに言う。

「実力にみあわないよ。命は大切にだよ。自分だけでなく他の五人も危なかったんだし。ってかリーダー誰よ?」

 説教だった。

 私の方も落ち着きはじめたので、少し説教を受けてる人達に対してフォローしてやることにした。

「まあ説教もそこそこにしたらどうだ。事情も事情だし。リーダーグループと分断されたんならしゃーなし。つまるところ、俺らが通った。助かった。運が良かった。以上! さあもう帰ろ。夜が明けちまうし、店の下準備とかすることあるし」


 帰りは少し長いため、私が一番重傷の女の子を背負って帰路を辿る。


「ってかね。怪我する時点で引き返す事を考えないといけねーのがフツーなんだよ。俺らは怪我人のテメーらに合わせてちんたら帰らなくちゃなんねーし」

 ユーイチの説教は続いている。というか、愚痴だった。それもしょうがないのかも知れない。何故ならば私達は日頃のストレスの発散の為に遊びに来ていたのだ。

 しかも治療中、怪我をする様を見かねてユーイチが注意を促せば、怪我人は「我らをなんと心得る! 我こそは名だたるうんぬんかんぬん」と、反抗的な反応。

 大雑把に説明すればこんな感じだ。ユーイチの機嫌が悪くなるのも致し方なし。私もその反抗的な女には立場を弁えてとしか言えないのだ。

 だが、他のメンバーは、それなりにわきまえているようだった。私はおもむろに素手でミノタウロスの頭部を握り潰しながら、わざとふざけた感じでユーイチに話し掛けた。

「ユーイチ軍曹殿! ここからは一層警戒する必要があるようです! 指示を!」

「むむっ! ケースケ一等兵! 後方の警戒を!」


 そこから無駄にハンドサインをしたり、無駄にキビキビと警戒した風な兵隊ごっこをしながら出口に向かうことにした。私もユーイチも、こういったおふざけが好きなのである。少なくともこの間はユーイチは愚痴も発しないのだ。


「安全地帯確保!」といいながら私達は小休止することにした。

 怪我をした人も、背負われっぱなしだと負担になる。適度に休んでいないと良くないのだ。

「ごめんね。僕らは肝心な水や食料は持ってきて無くてね」

 と、私が言えば反抗的な女は「ダンジョンをなんだと思ってるんだか」と挑発するのだ。

 私はユーイチが返すより早く答えた。喧嘩は良くないのだ。それに居心地が悪いのも嫌いだった。

「遊び場。僕らにとってはダンジョンは遊び場なんだよ。こう見えて僕らはちゃんと本業があるんだ。ユーイチは診療所。僕は工房で。これも何かの縁。僕のビジネスカード。今更だけど、僕の名前はブチっていうんだ」

 話題になればという思いもあって、名刺を配ってみた。

「あの駄菓子屋、名前があったのか」ユーイチが言う。「有限会社新風工房。お前、株式会社とか有限会社とか理解せずに適当に有限会社とか書いたろ。2006年から新会社法ってな。だから有限会社ってより合同会社って入れるべきなんだ」

「よくわかんないけど、うちの親の会社に有限会社ってあってね。その響きを真似てみた。因みにしんぷうは、新しい風を運ぶって意味で。ちっちゃく下に『OtherWind』って入れてるんだ。洒落てない?」

「知らん。ってかてすきの和紙を名刺に使ってんのを評価したい。金印が入ってるしカッケー!」

「そだ! 医療道具詰め合わせポーチとか使えない? これも僕の店で売ってるんだ。銀貨五枚!」

 高い! というツッコミ待ちだったが反応が悪かった。滑ったのだ。

「テメーは営業してんじゃねえよ!」

「どうせ金のならない慈善事業なんだから、口コミの広告くらいに、話題にして欲しいさ」


 私とユーイチのふざけた掛け合いを見てか、少女がクスリと笑った。私が先程まで背負っていた女の子だ。

 少女は骨折しているのだが、薬が効いているようだった。その様子を見て私達は早めに脱出するのだ。


 

「ううぇ! 流石に仕込みがこうも遅れるとヤバい! じゃあね!」「俺も診療所に顔出さねえとか示しがねえや。あんたらのリーダーに怒鳴ってやりてーけど、感動の再会に水をさすほど野暮なことはしねーよ。連絡がついたんなら視界から消えろ」とか言いながら私達は別れた。

 因みにユーイチは「炎症止め。定期的に飲むように」と、私の薬をちゃっかり怪我人に与えているのだ。ユーイチはツンデレなのである。

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