第12話 少女に憧れて

 私の奴隷達は私が居ない間、二人でダンジョンに潜っていたらしい。田村さんから怒られてしまった。奴隷はどうやら田村さんと面識があったようだった。しかも指摘された際、私がダンジョンに少女と二人で遊んでいる時に田村さんに出くわしてしまったのも印象が悪い。

 そろそろ逃げるのも駄目かと諦め、義務を果たさなければと感じた。奴隷に仕事を与えるのは主人の義務らしい。面倒で捨てたいが、管理もまた義務だ。誰かに押し付けたい。


 愚痴りながら少女に説明する。

「だからまた嫌な奴隷とダンジョンに行かなくてはならないんだけど」

「お留守番だね。実力違い過ぎるし」

「一人で行く方がよっぽど効率いいんだよなあ」

「仲間とする事で、相乗的に効率が良くなるかも知れないけど。話聞く限り、どうも足の引っ張り合い」

「効率主義の俺にはマジで苦痛。奴隷は勿論、管理者も縛る奴隷契約本当に厄介だ。規定も曖昧で明確じゃない」

「私とするのはあくまでも遊びだもんね。管理者は大変だねー。頑張ってね」


 二ヶ月以上も遊び呆けたのだ。しばらくは頑張れるだろうと腹をくくる。

 その間。私はダンジョンなどに潜る際、助けを求める者が居れば、積極的に助けるようにした。以前も人助けはしていたが、それよりも積極的に、今の大事な作業を放棄しても、助からなかったとしても、とにかく誰かを思える行動を徹した。全ては少女に感化されたがためだ。

 私は少女に憧れているのだ。



 ある時。誰かを助けたあとの事。身なりのいい青年がリーダーのグループから食事を誘われた。エルフの奴隷ばかりに青年は話しかけていた。

「奴隷達、君らも一緒に同行させてやろう!」

 もしかすると、エルフに気があるのでは無かろうか。もしかすると、このエルフを引き渡す事ができるかも知れない。と私は思った。彼女が私からの奴隷解放を望んでいるのは明白なのだ。それに冒険者としてもエルフは実力が高い。この青年がエルフの実力を引き出すことができるなら、青年も利点がある。うまくいけば、皆が幸せで丸く収まるかもしれない。

 私達は、青年に言われて私の妹の店に来ていた。


「貴族だって来る凄くいい店なんだ。二階からは、貴族だといってもアポイントメント無しでは軽々とは上がれない。僕は上客として」リーダーの青年はうんぬんかんぬん。


 私は妹の店のシステムを一切理解していなかった。世間話も含めて妹にこっそり三階で食べさせて貰った事はあったが、それ以外は一階でしか食べたことが無かったのだ。


 店に入れば、夜もあってか賑わっている。従業員の誰かが私達が店に入った瞬間、とびっきり笑顔を向けて何も言わずに階段をのぼるように案内してくれた。青年は顔を覚えられており、なかなかの常連らしかった。

 こちらの奴隷達もなかなか馴れているようで、鎧などの装備を外して従業員に預けたりしている。猫の奴隷も同様に慣れていた。

 私の妹の娘、姪が私の姿を見て満面の笑みで手を振ってくれる。身長は私より大きくなっていた。

 エルフは鎧の着脱に時間が掛かっているのか、エルフを除いた私達は誘導される。二階の場所でも、見るからにVIP専用の区画だ。中々この青年、ただ者ではないようだ。

 青年は店長を呼ぶように従業員に伝えている。店長を呼んだかと思えば、この席を用意してくれたことについて感謝しているようだった。青年は、なんかどっかの偉い貴族の三男坊らしい。

 因みに店長は私の義理弟である。私は私の事に気が付いていないことを必死に祈っていた。何故なら私は妹夫婦から嫌われているのだ。空気を悪くしたくないし、もしかしたら追い出されるかもしれないのだ。


「おじさんいらっしゃい」

 まだ幼い声が聞こえた。姪が店長の近くで、えへへと、見てるこちらが照れてしまいそうになるくらいの愛らしい笑顔を皆に振り撒いている。

「お、おじさんっ!?」と貴族の青年の隣に座る別の男性が反応した。店長は「おじさんじゃない!」と自分の娘に言う。きっと義弟は、私を居ないことにしたいのだろう。

「何で怒るの? おじさんだよ? じゃあ、おじさんをおじさん以外になんて呼べばいいの?」と姪は返したが、叱りつけてVIPルームから追い出すのだった。

 突き出しが持ってこられた。まだエルフは来ない。フィンガーボールも無く、見慣れぬ料理。お通しという文化も有るのだろうか。それとも私の言ったことを反映したと言うならば少し嬉しい。

 私はなんとなくお通しで出された料理をフォークで突っついた。微妙な味。

「おいガキ!」

 VIPルームに怒鳴り声が響く。遅れて、私が怒鳴られていることに気が付いた。

 他の誰よりも先に手をつけたのがいけなかった。とても怒らせてしまったのだ。軽率だった。

「調子に乗るな! 今すぐ出ていけ!」と言われる。私が周りを見れば、皆が非難の視線を私に向けていた。

 弁解も意味がない。言い訳したところで機嫌が直るように思えなかった。私の奴隷を引き渡すというもくろみは消え去ってしまったのだ。私が席を立つと同時に、姪が駆け込んできた。

「おじちゃん! じゃなくておじさん! 抜け出して来ちゃった。って、あれ? どこ行くの?」

「ははは。追い出されてしまったよ。それにしても、僕より大きくなったね。おみやげ。じゃあまたね」

「え? 嘘。もう? 折角来たのに! 待って! そうだ! お話! お話聞かせて! ねえ! 聞いて! 話聞いて! 折角来たんだから!」

 無視して通り抜けようとしたが、姪は私の腕を掴み、引き留めてくる。私は声が大きいといさめるのだが、姪は静かにする気配はない。軽く振り払うだけでは、姪は離れない。強く振り払いたいが、可哀想でどうもできない。困っているところに、従業員がきた。


 食器が砕ける音が響く。落としたらしい。

「兄さん!」

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