第10話 新たな奴隷

 私は宿に戻る。奴隷たちは部屋には居ないようだった。食事にでも行っているのだろう。その間にいつものように部屋を掃除したり、いつものようにベッドのシーツとかベッドメイキングをしっかりしておく。因みに、私はベッドを使わない。これは奴隷のベッドだ。


 面倒だ、何で同じ部屋で過ごすんだ、と思って気が付いた。何も、同じ部屋で過ごす必要も無いのだ。何故かそういう物だと考えを縛られていた。

 田村さんの奴隷のおかげだ。「あんな狭い、ボロ宿に押し込んで!」と言ってくれなければ馬鹿な私は気が付かなかった。


 因みに私は、この今住んでる宿がお気に入りなのだ。いい宿と言うのは、転じて人の出入りが激しくなる。更に私は、このような見た目の為に、たかりや喧嘩に絡まれる事も少なく無いのだ。

 私はこの人通りの少ない宿をとても気に入っている。厨房を借りたりするし、庭で勝手に洗濯もさせてもらっている。とにかく住みやすいのだった。


「宿をかえる。友人に紹介してもらった宿だ。一流の冒険者もそこで過ごしているそうだ。世間一般、普通の宿。取り合えず部屋数が一つしかなくて、二人で住むことになる」


 エルフに伝えると、いつもの無表情で聞いていた。私はエルフに引っ越す予定の宿に来てもらい、文句が無いことを確認した。

 私からでは話を聞かないだろうと、猫の奴隷に伝えておくように頼んだ。


 色々あって、私の部屋は広くなる。「気持ち悪い」「ゴミを増やすな」と言われる事もなく、作品を隠されたり捨てられたりする事も無い。まさに私だけの城である。

 一つの問題が解決すると、心のゆとりが増えた。今は他に何をしたいか。とにかく暴れたい。しかしダンジョンに行くには、私の風貌は些か問題だ。また田村さんにでも見つかれば、入場料を払っただけで帰らされるという意味の無い事になる。見た目だけでも護衛が欲しい。


 私は奴隷に休暇を与える。ちゃんと金は与えたので、その間は好き勝手にするだろう。私はその間に、傭兵を探した。しかし、やっぱりすぐに逃げようとするのだ。


「待て待て待て! もう十層に来てるぞ!」「まだ十層ですけど。取り合えず、二十層についたらしてもらうこと伝えます。まずは二十層についてから」「ふざけんじゃねえ! 金にみあわない!」「と言うことは、つぎ込んだらついてきてくれるんですね。しょうがないですが、倍までなら払えます」「馬鹿言え! 死にに来たんじゃない!」といった感じだ。


 私はどこかに活路が無いものか、街をぶらぶらする。治安が悪い街に寄った時、子供の声が聞こえる。大人と言い争っているようだ。

 様子が見えるところまで行ってみれば、少年が男に棒で叩かれている。


「奴隷の癖に反抗的なんだよ!」

「馬鹿を馬鹿って言って何が悪いんだよ!」

「んだと! まだわからないのか!」


 どうやら少年は奴隷であるらしい。少年は私と同じような身長であることを見れば、中々に幼い筈だ。結構反抗的な少年で、奴隷としてはあまり良くない性格に見えた。

 そこで私は、敢えて自身の勘に逆らって見た。私は人を見る目が無いのだ。


「そこのガキ! 何見てやがる!」私に向かって男が怒鳴る。

「いきなりですまないが、その奴隷を金貨三枚で売る気は無いか?」

「は?」


 金貨を見せながら私は言った。「私の主人が肝のすわった奴隷を欲している」と敢えて私では無い言い方をしてみた。

 男は私が渡した金貨を噛んで確認する。なんか怪しむ目線がムカついた。これで買えないのであれば他をあたる、と言って金貨を引ったくるように返してもらい背中を向ける。

「待て待て!」

「無理をする必要はないよ。別のところでは金貨一枚で買えるところもあったので」

「だから待てと!」

 焦った男を相手に、有利に交渉ができた。悶着が限り無く少なかった。

 私はその新たな奴隷少年を引き連れていたが、あまり人のいないところまで来て振り向いて少年に言ってやる。


「さっきの! 君やるねえ! そんな歳で大男に強く言えるなんて!」

 しかし少年は表情を歪ましたかと思ったら、わーっと泣き出したのだ。私はひどく驚いたのだが、良く考えたらこれが普通なのだ。

「ははは! 大丈夫大丈夫! 俺はそんな酷い事はしたりしないって」


 私は少年を宿に連れていこうと思ったが、あまり奴隷としての少年を連れている姿を見られたくなかった。そこで私は、少年をまずコロボックルの所に連れていくことにした。そこには、あまり人に見せられないふざけたコスプレやネタ装備が数多く置いてあるのだ。そこから適当に服を与えようとも思った。

「ば、ば、馬鹿にすんな! もう十二歳なんだ! 年下に頭撫でられたくない!」

 さっきまで泣いており、いまでもまだ半べそだ。しかしやはり半泣きだと言えども中々に威勢が良かった。

「ちょっと待てよ! ここって、魔の森だ!」

「ふふふ。怖い? 手を繋いだけようか?」

「そんな! ふ、ふざけ、うぅ」

 少年はからかいがいがあった。


 私達はコロボックル、もとい妖精のすみかにやって来た。数匹の妖精どもがジャリリリと、黒電話の音を出す。これは、奴等の警戒行動、警告音みたいなものだ。

「なんだっての、ここ。さっきもあんた、魔法みたいな。あんた、凄いのか? なあ! 教えろって!」少年がわめいている。


 変だ。コロボックル達のジャリリリという音が長い。いつもなら、私の姿を確認するとすぐになりやむ筈だというのに。

 ある一匹の妖精が、斬撃の魔術をいきなり私達に向けて放ってきた。正確には、少年を狙っている。

 私はすぐさま少年を庇う。周囲の地面、木々がズタズタに切り裂かれた。私ならばなんとも無いが、この少年が受ければ確実に即死だ。

 私はそのクソ羽虫をバチッと払いのけ、地面に転がったところを踏みつけてやった。手加減完璧、死んでいないし、気も失っていない。クソ羽虫が私の足下でもがき苦しむ。

 慌てたように、周りの羽虫がチャリチャリという金属音に近い音をたてながら私にたかる。何匹かは、踏みつけられてもがく羽虫を助けようと、私の足をどかそうとし始めた。それを見て、更に足に力を込める。踏みつけられている羽虫が声とは思えない、空気が漏れたような変な叫び声を上げた。初めて妖精の声を聞いた気がして、私は笑い声を上げるのだ。

「はひひひひ!」

「何やってんだ! 苦しそうにしてる!」

「は? 君わかってる? これに殺されかけてたんだぞ? これに」足をひねりこみ、更に力を加える。

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