第9話 少しだけ前を向く

「九百!」

「はちまるよん!」


 数だけでなく、声量でも競うかのように負けじと張り上げる。ただ爽快で楽しい。しかしそれを遮るようにアラームが私とユーイチから鳴り響く。あらかじめセットされたタイマーだ。

 ユーイチが「ふう」と一息ついた後、私と向かい合った。


「うむ! もう大丈夫だな。たまには息抜きしろよ。んじゃ、俺は弟子も待ってるから帰るよ」

「おう。俺はもう少し振り回してから帰るよ」


 私は「ふへ」と息をついた。緊張が解けていた。そこで私は半年近く、顔をこわばらせ続けていたのを理解したのだ。




 私は理解する。人には向き、不向きというものがある。圧倒的に劣る能力で、他者と同じやり方が通じる訳がない。私は私のやり方を模索するべきだったのだ。

 大丈夫。活路はある。私には見えていないだけだ。一つの物事に執着することなく、前を見続けること。

 私は自分に問う。まず、何をしたいのか。その為の手段は。

 そして行動する。

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