第7話 鬱憤(妹編その2)
私は最初、直接、卵や牛乳、小麦粉といった物を妹の店に卸していた。所詮、妖精どもによって作られた物だ。質は良いが、安くて問題ない。むしろただでも良かった。
「いつもいつもありがとう」
そう言って抱き締めてくる妹。子供の頃からの癖だった。世間の目もあって成人してからは自重していたが、彼女は二人きりになると素が出てしまうようだった。
「毎日幸せに感じているかい?」「不都合なことは?」「今日はどんな事があった?」その時の私はよく彼女の話を聞いた。
当時、理性が保てる時間は今より短く、限られていた。その限られた時間の殆んどは、彼女の為に費やした気がする。どうか彼女の中だけでも、優しい兄であり続けたかった。
客として、卸し業者として、妹の店に頻繁に関わる毎日。彼女に空いた時間があればおしゃべりをした。
ある時。
妹の夫。つまり義理の弟から言われた。
「うちの妻が迷惑している。勘違いしているかも知れないから言っておく。嫌々ながらしゃべっているんだ。無視するわけにもいかないから困っていると言っていた。うちの妻が言い出せずにいるから代わりに言っている。卵も小麦粉も、別のところから買い付けるから来ないでくれ」
それもそうか、と私は不思議と納得できた。もはやストーカーと思われても仕方がない執着ぶりだったのだ。気持ち悪がられても、無理は無い。
それから、行かないように自分をいさめた。
しばらくしたある時のこと。偶然、妹と街で会った。妹は疲れた表情をしていた。私が色々聞いても、あまり話そうとしなかった。隠そうとするかのように、私に質問ばかりするのだ。
「大丈夫かい? 多少の金額なら工面できる」
「そんなんじゃないから。あはは。全然大丈夫よ」
私は、その時の店の経営が良くないのを知っていた。
どうして打ち明けてくれないのだろうか。頼りないのだろうか。どうか頼って欲しい。助けになりたい。彼女と関わっていたい。
嫌な考えに至る。
もしかして、なにがなんでも、私なんかとは関わりたくないというのか。
私は追及する事もできず、そのまま彼女と別れた。
私から距離を取りたがっているのは確かだ。だが、私は彼女がどうか幸せであってほしかった。私は裏から手を回し、店の経営がどうにかいい方向になるように根回しをするのだ。
それを機に、私は彼女と顔を合わすのはやめた。
それでも時折未練がましく、私は彼女の顔を店の裏からこっそり眺める。
そうだとも。私は彼女のことを好いているのだ。兄と妹、という関係などではなく、歴とした異性として好意を寄せているのだった。
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