第5話鬱憤(妖精編)
私は娼館建ち並ぶ夜の歓楽街を抜ける。通り抜ける途中に街娼の何人から、「来る場所間違えている」と言われた。ここは元々スラム街だったのだ。いつの間にか、こういった店が建ち並ぶようになっていた。
私はその先の森に用事があった。歓楽街がいきなり途切れ、そこからすぐに森である。この森は、魔の森の入口にあたるのだ。この魔の森は、洞窟のダンジョンと違って成果をあげにくい。だというのに、しっかりと死の危険性は変わらない。それどころかもっと恐ろしい場所と言っても間違えではないと思う。洞窟は層になっているのだが、魔の森は層になっていない。その違いもあるのだろう。とにかく誰も踏み入れない場所だった。
私は森に入る。青々とした植物はすぐに途切れ、枯れ果てた木々が鬱蒼とした場所になる。枯れた森の中にある毒々しい沼やモンスターは中々に気持ち悪い。中には人魂とか、十数メートル程のうごめく汚泥と、見るからにヤバい、と感じさせるものが多い。
三十分ほど歩いた先で、緑が見えた。更に少し歩けば門がある。こんな魔の森に、集落のような場所があった。
と言っても、私がこんな枯れ果てた魔の森で無から発展させたのだ。
踏み込めば、黒電話のようなジャリリリンという音が響く。奴等の音だ。
出迎えたのは、ここに住む妖精どもだ。私はこいつらをコロボックルと内心呼んでいた。
コロボックルは、私が連れてきた牛や鶏、蚕を家畜として育てており、その成果を絹やら牛乳やら卵やらで献上してくる。しかし、それ以上の付き合いはコロボックルにはなかった。献上してるんだから文句は無いだろ、と言いたげな反応なのだ。奴等は本当に受け渡し以外では関わって来ない。コロボックルと呼ぶのは、これが理由だった。
私はいつものように巡回する。所々突き刺さる杖の管理が私の役目であった。この杖は浄化の杖。魔の森に対する結界と同時に、魔の森の瘴気だとかを綺麗するような感じの永久機関だ。奴等は、花畑と綺麗な水があれば勝手に繁殖する。しかし、そもそもこの土地と私のふざけた杖が無ければたちどころに成り立たなくなるのだ。奴等は理解してるのかしてないのやら。
このコロボックルどもの集落の中心に、綺麗な泉がある。その中央には、綺麗な女性の姿をかたどった変なスライムが一匹住み着いている。私の数少ない遊び相手だ。
私が泉に飛び込むと、無邪気な様子で水底に引き込んでくる。この女性をかたどったスライムは、気に入った相手を水の中に引きずり込む習性を持つのだ。
その為、コロボックル達はこの泉を恐れている。綺麗な水が無いと生きていけないくせして、なんとも愉快な事だと私は思っている。
一匹のコロボックルが、怯えたように様子をうかがいながら、恐る恐る水を泉の端っこで飲みはじめた。おそらく深くに潜る私とスライムの姿が見えないのだろう。一匹が飲み始めると、他も脅威となるスライムが見えないことからどんどん飲もうと集まりだした。
タイミングを見計らい、中から水鉄砲をみまってやる。すると蜘蛛の子を散らしたかのように恐慌状態に陥るのだ。その様を見て、声をあげて笑い飛ばす私。
ひとしきり女性のスライムと戯れたあと、ようやく陸に上がった。少し気分が晴れた気がした。コロボックルを嫌う私が浄化の杖を引き抜かないのは、この泉で遊ぶのが楽しみだからである。浄化された土地が広がると、このスライムはどうも感情豊かに、元気になっていくような気がした。言葉はしゃべれないけども。
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