第8話 ロバート・ベイカー その2

「米国では政府が非常事態宣言を発令、ロメロ大統領は『人類の存亡の危機』と言っており・・・また、イタリアでも同じく非常事態宣言が発令され、フルチ首相が『これは地獄だ』などと・・・」


ラジオから流れてくるのは各国の政府が非常事態宣言を出したニュースばかりだった。ゾンビ化することを知らずに海外出張に行った日本人が、海外でゾンビ化して現地の人間を襲う事態があった。そのせいで世界中が日本と同じような状態になりつつあった。


イギリスでは、内務大臣のボイルが早朝のジョギング中に噛まれ、当日のうちに「通りすがりの人に噛まれた。最近のドラキュラは日光に耐性ができたのかな?」などと笑い話にしていたが、翌日の閣議中に発症して何人かの閣僚が犠牲になった。また、アメリカでは首席補佐官のオバノンが消息不明だと報じられている。


ベイカーは何日もかけて北上していた。車はとっくにガソリンが無くなっていた。それ以降は運転手を失って放置された車や自転車、徒歩で北海道に向かっていた。


途中、秋田県の駅前で銃剣の付いた銃も拾うことができた。ただ、殆どの銃は弾切れだった。唯一弾の入っていた弾倉が装填されていた銃もせいぜい15発ほどしか残っていなかった。他に、放置されていた非常食や、落ちていた血まみれの鉄帽も拾い上げて頂戴することにした。


自衛隊の部隊がここで全滅したんだろう、とベイカーは考えた。事実、たった1日前にこの駅前で部隊が全滅していた。


ベイカーは持てるだけの物を持ち、ボロ布で鉄帽の血を拭きとって被った。そして、道中で見つけてここまで乗ってきたスバル・レガシィに乗り込み、青森へ向けて走らせた。

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