崩壊

第9話 田上芳樹

田上は、世間では引きこもりと言われるようなニートだった。彼は、高校を中退して以来3年間ずっと引きこもっていた。そんな彼にとって外の世界というものは、既に断絶されたものだった。


しかし、そんな田上にも外を知るべき時が来た。母親も父親もいつからか帰ってこなくなっていた。ずっと引きこもり続けていた彼も、誰も部屋の前にご飯を置いてくれないことに気付いた。部屋から出て冷蔵庫の中の食べ物や、棚のお菓子を漁ってここまで凌いできたが、ついに食料が尽きたのだ。


そして電気もガスも、何もかもが使えなくなっていた。だが田上には外で何が起きているかは分からなかった。ゾンビがいる、ということすら彼は分っていないのだ。彼はパソコンこそ持っているが、SNSを一切やっておらず、ネットニュースも見なかった。そのかわり、ひたすらネットゲームに勤しんでいたのだ。


田上は何も知らずに、1000円しか入っていない財布を持って不用心に玄関のドアを開けた。目の前には彼の母親がいた。しかし、顔は血まみれで腹のところからは臓物がぶら下がっていた。もちろん、既にゾンビ化していた。しかし彼にはそんなことは分からなかった。

「母さん、どうしたのその姿。まあいいや、メシ作ってよ。母さんも父さんもずっと帰ってこないからまともなもの食べてないんだって」


そう言った直後、田上はかつて母親だったゾンビに喉笛を噛み千切られた。彼は痛みのあまり仰向けに倒れ込んだ。声を出そうとしても、気管を噛み千切られたため、甲高い息の音しか出ない。もう彼は、なされるがままになっていた。腹を裂かれ、肉や内臓を食べられていく。


田上は、ゾンビが彼の臓物を半分ほど食べ終えた頃には既に息絶えていた。そして彼もゾンビとして生き返り、裂けた腹から臓物をだらりと下げながら、同じ生きた屍だらけの外の世界へと足を踏み出した。

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