第2話 小峰和樹

小峰和樹は目の前の状況に困惑の様子を隠せなかった。突然近くに立っていたサラリーマンが体を痙攣させながら倒れたのだ。自分以外の人もこの倒れた男を見つめている。その時、男が嘔吐した。小峰の靴に吐瀉物がかかったが、彼は「大丈夫ですか!?」と男に声をかけた。


男は小峰に助けを求めようとしたが、急に心臓を抑えて声にならないような声を出して間もなく動かなくなってしまった。


小峰は腰を下ろしておそるおそる動かなくなった男の首筋に触れた。

「死んでる・・・」


だが、小峰が手を離そうとしたとき男の体がいきなり跳ねた。最も男の近くにいた彼は尻餅をつき、周りの乗客はみんな後ずさった。男の腕や脚が動き、ついには体を起こした。だがその顔に生気は無く、瞳孔が収縮した目が小峰を睨んでいた。


その瞬間だった。男の腕が伸びて小峰を掴み、一気に引き寄せられた。そして男は小峰の首筋に噛り付き、肉を動脈ごと噛み切ってしまった。


男が小峰を離し立ち上がった瞬間、彼は何が起こったのか理解できないまま前のめりに倒れてしまった。小峰は自分の首筋に手を当てて、ようやく自分が重傷を負っていることに気付いたが、噛み切られた動脈から大量に血が流れていることは手で傷を塞いでも止めることが出来なかった。


薄れゆく意識の中、小峰の耳には唸り声と助けを求める悲鳴、断末魔ともとれるような声が聴こえていた。彼の意識が完全に闇に落ちるまでそう時間はかからなかったし、男のようにまた動き出すまでには先程より時間がかからなかった。

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