第十三話;100年振りの再会

 尚人の思惑とは違ったが、莉那は彼の秘密…ヴァンパイアの存在を信じた。


 そして彼女は尚人の素性に恐怖を抱きながらも、恋心を強くして行く。


 同時に姉の事情を知る男、アキの存在も知る事になる。彼は尚人と同じく、ヴァンパイアであった。


 そして尚人も、勇気を探すヴァンパイアはアキだと知らされた。アキは150年前から50年ほど、彼と行動を共にした仲間だ。


 尚人は、突然聞かされたアキの消息に動揺を隠せなかった。


 ---


(あいつが言ってたアキってヴァンパイアは、俺が知ってるアキなのか……?)


 俺はあの子を家に送った後、自分の家で1人考え事をしていた。

 さっきあいつを灰にしたのは間違いだった。もう少し話を聞くべきだった。

 あの子の前でも失態を見せた。また怖い思いをさせてしまった。あの子を送り返してから話を聞き、それから灰にしても遅くなかった。



 アキが……あの子の姉と関わりがあるのか?しかしあいつが、人間やヴァンパイアを好きになるとは思えない。

 いけ好かない奴だった。人もヴァンパイアも見下していた。頭が良くて探究心も強く、ヴァンパイアに関して色々知っていた。ヴァンパイアは、神が作り上げた芸術品だとも話していた。

 何よりも…あいつの血は、相当濃い。


(もし成り行きで争う事になれば……。)




 あの子と勇気の関係は大体分かった。勇気の本当の母親は、あの子の姉だ。そして、姉は死んだと言っていた。警察は事故だったと言い、あの子は誰かに殺されたと信じている……。

 勇気を探すヴァンパイア…つまりアキは、あの子の姉を自分の女だと言ったようだが……アキが誰かを愛したとは信じ難い。

 もしもそれは、勇気を見つけ出す為の嘘だとしたら?


(あの子の姉を殺したのは…アキか?まさかと思うが、否定も出来ない……。)


 アキは周りを見下していたが、誰かを殺すような奴じゃない。…いけ好かない奴だったが、優しい男のはずだ。それでも100年と言う年月が、アキを変えてしまったのかも知れない。


(それにしても、アキが勇気を探す理由は何だ?勇気に何がある?……それともやはり、勇気はアキの息子なのか?)


 あの子は週末にでもアキの居場所に行きたいと話していたが、それは止めておこう。あの子の命が危ないかも知れない。

 若しくは、アキに従順なヴァンパイアにされてしまう。


(…………?何故だ?少し胸が苦しい……。)


 取り合えずは、明日1人でアキの下に向おう。それが懸命だ。




 次の日、俺は昼過ぎに目覚めた。

 あの子の事が気になったので、1度食堂に足を運ぶ事にした。


「あら?いらっしゃい!今日も豚生姜定食?」

「……お願いします。」


 食事をする気はなかったが、メニューの名前を聞くと腹が減った。

 あの子はいなかった。聞く話に寄ると、昼はスーパーで働いているらしい。……健気な子だ。


「はい!お待たせ。ご飯は特盛にしておいたからね。私からのサービスだよ。これからも、遠慮しなくて良いからね。」

「……………。」


 思った通り、俺へのサービスであの子の給料が減る事はないようだ。

 冗談のつもりでそのまま好意に甘えていたが、こうなると申し訳ない。今度からは普通盛で食事をしよう。



「……ご馳走様でした。」

「いつもありがとうね。それにしても毎回毎回、豚生姜定食ばかり食べてるね?こっちは嬉しいけど……飽きないかい?」

「美味しいです。飽きたら、別のメニュー食べます。他のメニューも美味しいって、あの子から聞いてます。」


 ……久し振りに、人の温かみに触れた。あの子とは違う、母親のような温かさだ。



「また来てね!」


 食堂を出て、アキがいると言う町に向う事にした。ひょっとしたらさっきの豚生姜が、最期の食事になるかも知れない。


 町までは、電車に乗って3時間は掛かる。急がないと夜になる。争おうとは考えていないが、もしもの時の為に、会うなら昼の内でなければ……。




 町は、かなりの繁華街だった。こんなところで悪さでもしたら、直ぐに噂が飛び交うだろうに………。


(やはりアキは、昔のままなのか?あの子の姉を殺したのは、アキではないのか?)


 居場所は、この町で一番背が高いビルの最上階だと言う。何となく奴らしい。あいつは、周りを見下す事が好きだ。


「……………。」


 しまった。ビルに来たは良いが、セキュリティーが掛かっている。エレベーターに乗るには、カードキーが必要だった。

 相変わらず御高く留まった奴だ。こうなると間違いなく、ここにいるのは俺が知っているアキだ。


(……………。)


 まさか、あいつとこんな形で再会するとは…。事情に因っては、灰になる事も覚悟しなければならない。


(と、その前に…どうやって最上階に登るか…だ。)



「最上階にいる奴に、用があるんだが……。」


 俺は人間らしくマナーを守り、ロビーの受付に声を掛けた。


(しかし…ここはオフィスビルのようだが、何故ここにアキがいるんだ?)


「代表に、何かご用件でしょうか?」

(代表………?どう言う事だ?それにこの女……ヴァンパイアか?)


 人間には分からないが、この女は俺に警戒した。少しだけだったが、目が赤く光った。例え直射日光を避けた場所とは言え、昼間から頂けない態度を執った。


「アキ……って奴だ。そいつがこの会社の社長か?」

「………………。」


(また目が赤くなった。穏やかじゃない……。)


「尚人……あっ、いや、新之助が来たと伝えてくれ。……150年前の、悪ガキと言えば分かるはずだ。」

「……………少々お待ち下さい。」


 女はそこまで聞くと警戒を解き、黒い目に戻った。そして内線電話で誰かと話した。


「ご案内します。」


 受話器を置いた女は俺をエレベーターに案内し、最上階に向った。



 新之助と言う、昔の名前で話が通った。やはり上にいるのは、アキで間違いない。


(…覚悟を……決めた方が良いな……。)


 ここまで来ても、アキが誰かを殺したとは考え辛い。しかしこの100年で何かが変わったのだとしたら……。

 俺の血では、あいつには敵わない。


 エレベーターが開いて通路に出ると、部屋の扉は1つしかなかった。

 女は扉を開き、俺を中へと案内した。




「まさか…君ともう1度会えるとは思ってもいなかったよ。」

「!!アキ!」

「どうやって僕の居場所を知った?懐かしいな。」


 目の前に現われた男は、やはり俺が知るアキだった。奴はここで生きていた。



 …………相変わらず気取った野郎だ。こっちを見て、両手を広げて笑っていやがる。再会の抱擁って事か?紳士的な行動を執ろうとする、いけ好かない性格は1つも変わっていない。

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