第六話;不良グループのリーダー

 勇気の、本当の母親は莉那ではなかった。彼女には、半年ほど前に死別した姉がいた。

 姉は誰かに追われ、命を失ったと莉那は言う。彼女は死ぬ直前に、勇気を守って欲しいと彼を莉那に預け、何処かに消えた。

 姉の死に疑いを持った莉那は勇気を守る為に、とある小さな町に逃げ込んだ。


 尚人は、ヴァンパイアは世界に1000人ほどいると言ったが、実はそうではない。血の比率を見た時、ヴァンパイア寄りの者が1000人ほどいて、『祖の程度』が薄い者は、それよりも多くいる。


 ---


「裕也さん!助けて下さい!」

「………。」


 溜り場で昼寝をしている俺に、町の不良が助けを求めて来た。昨日、仲間連中がやられたと、その仕返しをして欲しいと言う。

 この小さい田舎町に、骨のある男はいない。こいつらのケツを拭くのも、そろそろ飽きてきた。


 俺は裕也。人とは違う能力を持っている。

 この町に来て大分と経つが、そろそろ潮時だ。俺より若かった奴らが歳を取っていく。


「俺はもう、お前らの面倒を見ない。そろそろ町を出る。」

「えっ!?マジっすか?何でですか?」

「………。」

「お願いします!気に食わない奴がいるんです。仲間が、4人もやられたんです。」

「……お前らが弱いからだろ?いちいち俺に擦り付けるな。」


 俺は、この小さな町の馬鹿共を従えている。何処の町にも、頭が悪い連中はいる。そいつらを束ねて、金や必要な物を貢がせていた。


「裕也さんには、毎月お金払ってるじゃないですか!?お願いしますよ。」

「……………。」


 その台詞を聞いて俺は、目の前で泣きつく男を睨んだ。

 男は勘違いしている。俺は用心棒じゃない。こいつらに金を貢がせる為に、守ってやっていただけだ。


 俺の睨みに体を小さくした男だが、それでも頭を下げてくる。


「大事な仲間がやられたんです。お願いします!俺じゃ…相手にならないんです。ひょっとしたら、裕也さんより強いかも……。」

「!!」


 俺は頭に血を上らせた。同時に男は、数メートルほど遠くに飛んだ。

 そして俺の目は…赤くなっていた。


(俺は…ヴァンパイアだ。人間ごときが、舐めた口を利くんじゃねえ。)


「相手してやるよ。俺より強いかどうか、お前が確かめろ。そいつは何処だ?案内しろ!」


 俺より強い奴はいないと証明してやる。それを証明したら……嘘をついた罰だ。血を全て頂く。

 俺の血は分けない。そのまま死んでしまえ。



「どんな奴だ?お前らを負かせた男ってのは?」

「食堂で働く女の彼氏らしいんですけど、カッコ悪い話、俺達5人が束になっても敵いませんでした。俺を片手で軽く持ち上げ、一瞬で他の4人の骨を折りました。」

「………何??」


 こいつは…奇妙な話を耳にした。俺が知る限り、そんな事が出来る『人間』はいない。

 俺は、あり得ない可能性を考えた。


(この町にもう1人、ヴァンパイアが現われたか……?)


 しかし、あり得る話でもある。


 俺達は、なるべく目立たないように生きている。人の数に比べてヴァンパイアは少ないが、住む場所は似ているのだ。

 俺は町を数年束ねてきた。どうやらそいつは、最近この町に現われたようだな…?




 俺は、300年ほど生きてきた。

 俺をヴァンパイアにしたのは、当時の悪者だ。今の俺のように頭が悪い連中を束ね、優雅に生きていた。

 そいつが気に食わなかった。だから従った。気に入ってもらい、血を分けてもらうまで本心を隠した。


 血をもらった後に隙を見て、昼間の内に銀のナイフで男を刺した。

 男は悲鳴を上げ、最期は灰になって死んだ。

 男は興奮すると、容易くヴァンパイアになった。その血を受け継いだ俺だが、『祖の程度』が薄くなった分、仕留めるのは簡単だった。




「この食堂で働く、莉那って女の彼氏です。女に話を聞けば、男の居場所が分かると思います。」


 案内されたのは2階建ての、古臭い食堂だった。


「………。」


 やっぱり、俺は町を出る。俺ほどの力の持ち主が、こんな小さくて廃れた町で暮らす必要もない。

 しかし、その前にこいつの頼みを聞いてやろう。俺が最強のヴァンパイアだ!それを証明してやる。


「ありがとうございました!」


 店に入ろうとすると、中から誰か出て来た。背が高くて細めな男と、店の従業員……。

 こいつが、莉那って女か?


「裕也さん!あいつです!あの男です!」

「…………。」


 そうか、こいつか…。確かにヴァンパイアだ。こんなひょろっとした男が、5人の男を相手出来るはずがない。


 正体を確認する為に、俺は1つ質問をしてみた。


「………何の用だ?」

「お前の目も……赤くなるのか!?」

「!!」


 細い男が反応した。間違いない。ヴァンパイアだ。


「何の事だ?」


 男が、惚けた顔で返事する。……下手な芝居だ。


「お前に用がある。昨日、こいつらを痛い目に合わせたってな?その仕返しを、して欲しいんだとさ。」

「…………分かった。人がいない所に行こうか?」


 男はそう言うと、女を店に帰した。


(…………?女が負ぶっている赤子……。何処かで見た気がする………。)



「お前が場所を選べ。そして……そこの腰抜けは帰してやれ。」

「そうは行かない。仕返ししたところを、見せてやらんといかんだろ?安心しろ。こいつは他言しない。」

「????裕也さん?」


 細い男は2人きりの場所を求めるが、そうもいかない。

 …要らん心配だ。


(お前を灰にした後、こいつの命も奪う。)


 俺は、今直ぐにでも変身しそうだった。興奮を抑えきれない。

 しかし目の前の男に、感情をコントロールしている様子はない。その時点で勝負は決まった。

 男の、『祖の程度』は薄い。俺の勝ちだ。




「本当に、大丈夫なのか?」


 いつもの溜まり場に戻った。側には細い男と手下がいる。男はそれを不安がっている。


「大丈夫だ。他言はしない………。死人に口無しってやつだ!」

「!!」


 俺は抑えていた興奮を開放し、目を赤く変えた。

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