第四話;救出
ヴァンパイアは、善か悪か?
その質問は愚問である。ならば人間は、善か悪か…?
彼らは単なる、人間の突然変異だ。吸血鬼を悪と位置付けたのは時の権力者達の、勝手な都合である。
もし人間が善ならばヴァンパイアも善だろうし、人間は悪だと言うのなら、彼らも悪である……。
結局、善か悪かはその者の性格で決まる。
尚人は……善だ。
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全く、世話が焼ける女だ。近づくなと言った相手に、まんまと騙された。
俺は、夜道を散歩しようと外に出ていた。食事をしようとしていた訳じゃない。腹の中は豚生姜で満たされている。
元々、夜の散歩が好きだ。ヴァンパイアの習性かどうかは知らないが、真っ暗な所を歩いていると、何故か心が安らぐ。
この町は、星空も綺麗だ。いい気分だった。
…だから感謝しな。その代わり、今度はご飯を特盛で、味噌汁もお代わり自由にしてもらう。
「……そこまでだ。」
「!?お前は…昨日の!」
「!!尚人さん!」
散歩を終えて、人もいない公園で星空を眺めていたら、辺りが騒がしくなった。
声が聞こえる方を見ると、食堂のあの子と不良共がいた。
あの子も不良連中も、何故俺の忠告を聞かない?
「調子に乗るなよ!?昨日は、手を抜いてやったんだ!」
「………そうか?それじゃ、今日は本気で来い。俺は手を抜いてやるから。」
「!!舐めんな!」
(明日…早速町を出るべきか?それならあの子の為にも、今日、キッチリとケリを付けてやろう……。)
俺は、目を赤く変えた。ヴァンパイアに変身したのだ。
とは言っても、目が赤くなる事の他には、犬歯と爪が、少し尖る程度だが……。
(出来れば気付かれたくない。あの豚生姜定食を捨てるには、余りにも惜しい。)
今日は奴らもやる気だ。5人で掛かって来た。
……お陰で、あの子は開放された……。
「逃げろ!」
俺はそう言って、不良連中と遊んでやる事にした。
姿を変えると、動きが全てスローモーションに見える。銃にでも撃たれない限り、俺がダメージを受ける事は先ずない。勝負は一瞬だ。
だから俺は当分、奴らの攻撃を避けるだけにした。やっぱり、あの豚生姜は捨てられない。遊んでやって、疲れるのを待ってみる事にした。
「はぁはぁ………。こいつ、逃げるのだけは上手いな…。」
相手がそろそろ疲れて来たみたいだから…………
(やはり終わらすか……。)
俺は先ず、4人の男の手足を折ってやった。あの子の左手を掴んでいた男の左腕、右足を掴んだ男の、右の脛の骨を折ってやった。
でかい悲鳴が聞こえる……。蝉か?こいつら?
「さて……お前はどうされたい?」
「!!」
さて……どうしよう?殺してしまうか?忠告も守らない奴らだ。か弱い女に手を出す……世間のクズだ。
人はこんな連中を差し置いて、何故ヴァンパイアを恐れる?
(……人間こそが恐ろしいんだ……。)
慌てふためくだけの男に近づき、首元を掴んだ。骨をへし折るか、頭蓋骨を粉々にしてやるかのどちらかだ。
(!!?何だ…?銀か!?)
昨日は何もなかったのに、今日は銀のチョーカーをしてやがる。俺の手は火傷を負い、力は抜けていった。
火傷は数秒したら治るが、銀は頂けない。まぁ、刺さらなかっただけ幸運だ。
(仕方ない……。人の姿のまま相手してやろう。)
俺は自分を抑え、黒目に戻った。
戻って直ぐは目が慣れない。少しの間は、全てが早回しに見える。
残念ながら俺は、奴のパンチを受けてしまった。
「おらっ!さっきまでの威勢はどうした!?」
「……。」
調子に乗った男は何度も俺を殴りつけ、蹴り上げたが……
目はもう慣れた。先ずは男の足を掴み、さっきあの子にしたみたいに、地面に倒して上に乗った。両膝で腕の自由を奪い、両手で顔を掴んだ。
人間に戻ったから、骨をへし折る力はない。だから、両目を潰してやる事にした。
それとも、やはり命を奪うか?もう少し力を入れれば、指先は脳まで達する。
(これで、豚生姜ともお別れか………。)
「止めてーーー!!」
「!?」
止めを刺そうとした時、後ろから叫び声が聞こえた。あの子の声だった。帰れと言ったのに、帰らなかったようだ。
声を聞いて動きを止めると、あの子がこっちに向って来た。
「もう、止めてあげて下さい!充分です!」
「………何故だ?お前は、これ以上に酷い事をされそうになったんだぞ?」
「…………。それでも、もう止めてあげて下さい。お願いします!」
「…………。」
俺は男を解放した。男は腰を抜かしたまま、仲間がうずくまるところまで、四つん這いで逃げて行った。
俺は後を追いかけ、最後の忠告をした。
「町から出て行け。もう1度お前達を見かけたら……殺す。」
「ご免なさい!もうしません!!」
(………何だ?こいつら……。調子が狂う。)
威勢が良いのは最初の内…昨日もそうだったが、負けを認めた時の態度が気に食わない。演技でもしているのか?謝り方が大袈裟過ぎる。
「忠告は本当だ。守れ。」
「………町から出て行くのは、勘弁下さい。俺達には、この町しかないんです……。」
「???お前ら何歳だ?」
「………19です。」
「…………。」
(………そうか……。)
歳を取らない俺は、人の歳を見抜くのが難しい。こいつらは…ただのガキだったんだな?
あの子は匂いで処女だと分かったが、こいつらも、人間としては若かったのか……。
「それじゃ、2度とあの子に近づくな。あいつは俺の女だ。分かったな?」
「!!済みませんでした!2度としません!もう近付きません!」
謝る姿が、演技なのか本気なのかは分からない。それでも俺は、男達を逃がしてやる事にした。あの子がそう頼んだんだ。
但し、こっちは演技じゃない。本気だ。今度あの子に近づいたら、確実に殺す。
…何百年も生きていると、人が本当に馬鹿に見える。罪や犯罪、殺し合いや戦争を繰り返して、反省もしない。人を殺す事にも、躊躇いを感じない。その残酷さは、ヴァンパイアの上を行く。
今日の男達も、きっとまた同じ事をするだろう。あの子じゃなくても、他に痛い目に遭った女がいるはずだ。
………しかし、あの子が許して欲しいと言うなら、俺はこれ以上何もしない。次に下手して痛い目に遭っても、それはあの子の責任だ。
あの子は、まだ人を知らない。男も知らないんだから当然だ。
(人間ってのは……自分達が思っている以上に、腐った存在なんだ……。)
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