18 終末期における反社会的行為

 差し迫った危機の数々は、ひとつも解決されずに現実のものとなっていった。

 世界中にウイルスが蔓延し、ゾンビで溢れ、残された生者たちは食料や水、武器を巡って不毛な争いを続けた。

 それらを撮影してインターネット上にアップロードし、ただアクセス数を伸ばすために過激な行動に出る者が続出した。

 どこまでゾンビに近づけるか、という系統のものが大抵人気で、半分くらいは不用意に接近しすぎて食べられた。あるいは、敵対する生存者への暴力行為を動画にしたり、自作の楽曲を歌ったものもいくつかあった。ゾンビと化した友人知人を撮影してそのあと撃ち殺すといったものも多かった。

 そこで、これはあまりにもモラルがひどい、というので、啓発運動をする者もいたが、この危機的、末期的な世界情勢において、そういうモラルとかについていろいろ言うほうがどっちかというと変じゃない? みたいな傾向もあって、なぜかそういう啓発的なことをする人たちのほうが迫害されてしまった。

 ゾンビはどんどん増えた。生存者たちもそのうちゾンビと化して、ネットの使い方を忘れてしまった。

 今回、ドロシーは人類最後の生き残りとしてこの世界に紛れ込んだ。

 どちらかというとドロシーは良識派だったが、他の人間が全員生きた屍と化してからは何も気にしないで非道なことをやりまくった。

 ところかまわずものを破壊し、汚い言葉を吐き、公序良俗に反する非道な主人公の出てくる小説をネットにアップロードした。

 その主人公は、ダークヒーローとかいうわけでもなく、ただの悪党で、教訓とかもなく、怪傑、好漢というわけでもなく、ただひたすら、暴力、殺人、殺戮を行うだけだった。特定の団体に属する人への誹謗中傷もあり、極めて挑発的な示唆もあり、これは皆に怒られるだろうな、という感じはあった。

 しかし誰もそれを見ず、何も言わないので、ドロシーは拠点である高層マンションの上から、プリントアウトしたそれを下界にばら撒いてやった。

 そのあと空虚すぎてドロシーは身投げした。地面にぶつかる前に、ビルの壁面にヤモリみたくへばりついた緑色の竜を、ドロシーは真っ二つに両断し、そのまま着地すると密集したゾンビを掻き分けながら去った。

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