17 メルゲンの独白

 仕事終わり、休憩所で相変わらずドロシーが草臥れた顔をしていると、同僚のメルゲンが大剣を担いでやって来た。彼も今しがた仕事を終えたところで、「いやあ疲れたな」などと言うが、まったく困憊した様子はなく、むしろ気力に満ち溢れていた。メルゲンは二メートル近い長身で、褐色の肌と金色の両目を持つ精強な男だ。危険な〈状況〉に飛び込んでいく高給取りだが、竜化したり秘術の代償としてタンホイザーのように消耗することもない。彼に言わせると、〈竜の侵食を押さえ込むことができている〉という状況を引き込んでいるからだと言う。どうすればそんなことができるのか分からないが、彼が竜狩りとして凄まじい才能を持っているのは間違いなかった。

「いや、オレはな、そんなすごいわけじゃねえよ、だけど、先人に対する尊敬の念、謙虚さ、感謝、両親・祖先への感謝な、そして、上司とか同僚部下とか、あとまあ世界そのものっていうか、あと神、我らが神ローギルやほかの偉大な人たち、例えばテクノロジーとかを発展させた人、日々頑張っている人たち、あとまあなんだろう。そこら辺の樹、樹とかも尊敬したほうがいいと思うわけよ。植物ってのはあんなに退屈に突っ立ってるだけなのに文句を言わねえのは偉いしそれには、尊敬、崇敬の念を抱くべきなんじゃねえかな。そうやって仕事をしていくと、自己実現というか、自己洞察した上での、段階的な目標に対して、到達できる、それはつまり、新しい誕生日みたいなもんで、それでいいと思うわけ。オレは殆ど死んでるようなもんだし、っていうかさっきも死んだし、オレじゃなくオレが紛れ込んだ状況の当事者なんだけど。銃殺刑だったし、その前は火あぶりだった。あと隕石、今日の朝やった仕事は、隕石がぶつかって来て生物全員死んだっていう状況だったな。拷問とかもあったし。まあそれでも大丈夫だよ、だいたいオレは一瞬だし。それこそ〈神話〉とか〈永劫〉のやつに比べればましだよ。〈永劫〉の人は本当に才能ないと無理。あれはもう精神的に神だと思う、あの人たちは。例えばメイプルソープさんっていう先輩知ってる? オレと同郷なんだけど。メイプルソープさんは普通に一日三本とか仕事受けるんだけど、それが、恒星が誕生して死ぬまでの時間とかに紛れ込んで、それでああ疲れたなあ、飲み行くか、とか普通に言ってくる人だったよ。オレは退屈すぎてたぶん無理だし。いやでも、ハヴォックもすごいと思うよ。なんていうか、気品があるしね。ちゃんと親御さんに育てられたんだって気がするから、それでもう、栄光があると思うよ。お前はこの仕事にうんざりしてるだろ? それは知ってるよ、でもうんざりしながらもちゃんとやるし、そういう、英雄的な仕事でなくても、気品があるわけよ。尊厳があるんだ。分かるか?」

 メルゲンの話は相変わらずよく分からなかったが、ドロシーは彼に対しそれこそ尊敬の念を持っていたので、分かる、と答えた。

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