14 作業中の思案について
ドロシーは工場にいた。目の前をずっと豚の手が流れていく。豚足という食いものがあるけどこれは手だ、と説明されている。真横を向いて流れていくがたまに斜めに置かれているものがあって、それを直すのがドロシーの仕事だ。そしてそういうものは五時間に一回くらいしか来ない。音楽を聴いたり、暇な時間に本を読んだりするのは許されず十二時間立ちっぱなしだ。このままあと何百もの豚の手を見つめているのだと思うときつい。もちろんこの苦慮はドロシーが紛れ込んでいるこの状況の登場人物、一人の工員、イアン・スタントンという名前だが、彼のものである。しかし、このスタントンになった上で何時間もこうしていると、気持ちに隙が生まれて、ドロシー本来の思考が明確になっていく。あまり望ましいことではないがしかたがない、とドロシーは思う。
ドロシーは自分の人生が辛い、きつい、その理由について考える。それは自己矛盾にあるのではないかと彼女は思う。ハヴォック家は本来の、英雄としての竜狩りの末裔だ。竜は世界の破壊者で、竜狩りは守護者だった。それは恐ろしく古い時代の話だ。そうした英雄的な狩人たちは、最初は己の力と知略、団結をもってして竜を倒していたが、あるとき竜から抽出した力を使い始めた一派がいた。彼らは糾弾されたが、〈状況〉、〈世界のあり方〉〈観測する力〉を用いる秘術は極めて効率的で、仕舞いには竜と対峙するだけで、自動的に彼らを屠ることができるというところまで行った。そしてこの効率的なやり方を覚えたときから、彼らは英雄の資格を失い、単なる働き手になったのだ。
ドロシーはこの邪道なやり方が竜狩りの正式技術となり、竜たちが他世界に逃亡することを許してしまってから、数世紀後に生まれた。そして過去を知って自分の祖先に失望し、しかし同時に誇りに思い、そして現在のうらぶれた竜狩りとして就職し、そのやり方を良しとせず、草臥れながら、それを続けている。これこそが自分がここまできつい気分になっている原因なのだ、とドロシーは思った。自分は恐らく英雄的になりたいのだろう、あるいは、そこまで傲慢でなくとも、その残り香、後裔たる誇りを見出したがっている。それで少しでも何か意味があると思いたいのだろう。もちろんそんなものはないし、この空虚な徒労感は今後も続いていくだろう、と彼女は確信していた。
竜が潜んでいるところまではあと何時間もあった。ドロシーは仕事に集中しようと、再びスタントンとして、豚の手をうんざりしながら見ることに専念し始めた。
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