11 深夜のガソリンスタンドでの怪談或いは与太話

「そういやこの前、ちっちゃいオッサン見たんすよ。十センチくらいの」

 深夜のガソリンスタンド。客の来ない中、馬鹿話に花を咲かせていると、急に後輩の神田がそんな世迷言を口走る。

 は? 何言ってんのお前。あり得ねえだろ。ドロシーは一蹴した。

「いやハヴォックさん、ちゃんと聞いてくださいよ。マジですって」

 マジなわけねえだろ。何お前、何かキメてんの? LSD?

「ほんとですって。なんでハヴォックさん、そう頭ごなしに否定すんすか」

 この前はゴム人間だかを見たっつてたろ。

「それもマジですって」

 はあ、じゃあ話してみろよ、そのちっちゃいオッサンについて。

「ええ、この前夜勤終わって疲れてうち帰って、ビール飲んでもう、すぐ寝ようと思ったんすよ」

 ああ。

「そんで布団に横になってたら、ほんと、ちっちゃいオッサンが床を走ってるんす」

 どういう外見だ?

「スーツ着た七三わけのオッサンですよ」

 なるほど。

「あ、ハヴォックさん信じてないでしょ!」

 いや信じるわけねえだろ。

「なんでですか、マジで見たんですよ」

 そういうふざけた感じの都市伝説はどうもなあ。

「ふざけてないですって」

 まだ血まみれの幽霊とかのほうが信じられるぞ。

「あ、そうなんすか。じゃあそっちの話をすればよかったな」

 なんだ。まだストックがあるのか、与太話に。

「与太話って言わないでくださいよ」

 与太話は与太話だろ。

「ほんとですって! いや、マジで見たんですよ、血まみれの女」

 なんだお前、全部網羅してくのかよ。次は宇宙人とかネッシーとか口裂け女、モスマンとかを見たって言うつもりじゃねえだろうな。

「なんすか、モスマンって」

 モスマンってのはな……あ、いらっしゃいませー! こちらへどうぞ! オーライ、オーライ、オーライ、ストーップ。はい、大丈夫です!

「ハイオク満タン」

 畏まりました。

 客は白い毛に覆われた巨人、いわゆる雪男、イエティに背負われている。ドロシーは給油ノズルを雪男の口に咥えさせてガソリンを入れた。

 補給を終える前に次のイエティが二台入ってきた。急に忙しくなりやがって、とドロシーは思う。一台ずつ来てくれれば神田の馬鹿話を聞かずに済んだんだけどな。

 合計三台のイエティが去ったあとでドロシーは屋根の上へと跳躍し、そこに佇んでいた竜を剣で討伐し、雪男たちの行きかう幹線道路に沿って歩いて行った。

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