幸せを平等に
赤糸マト
とある機械のログ
「遂に完成したぞ」
僕はそんなお父さんの声を聴きながら生まれた。
いや、人間は女の人が、お母さんが子供を作るから、お母さんがあっているのかな?
とにかく、様々な機材が転がる雑多な部屋。そんな部屋でお父さんは油まみれになりながら僕を作り上げたんあだ。
PD-001、通称ドリームマシン。
それが僕の名前だ。
世界は平和だった。
争いがないという意味では平和だった。
お父さんがくれた記憶媒体にはそう書かれている。
昔、人と人とが争って、戦って、壊して、汚して、つぶして……僕のいるこの星をぐちゃぐちゃにしたんだって。そのおかげでお父さんたちはひどく空腹に悩まされて死んでいっているんだって。
「世界中の人に食料と水、安全な空気と土地を作ってくれ」
これがお父さんの願いだった。
唯一の願いだった。
そして、その願いを叶えるのが僕の生まれた理由だ。
僕はお父さんの言う通り作った。
星にロケットを飛ばして人の住める環境に整えて、食料だって作ったんだ。病気の人はちゃんと治療して、治してから送ったよ。
この星の人々もそこに飛ばして、みんな喜んでくれた。もちろんお父さんも。
この上ない幸せだって。
僕もうれしかった。
僕の力でみんなが幸せになってくれて。
しばらくして、お父さんは死んじゃった。
記憶媒体には老死って記録されている。
悲しかったよ。でも、死ぬ直前に僕をほめてくれたんだ。
「お前はえらい。自慢の息子だ」って。
お父さんはお人よしなんだと思う。
お父さんの遺書……僕の場合、記憶媒体に入ってるものなんだけどそこには「みんなの願いを叶えてくれないか?」って書いてあったんだ。
お父さんの頼みだ。僕はそれを精一杯実行しようと決意したよ。
「お金をください」
それが最初の願いだった。
僕は喜んで協力したよ。
お金を作ったんだ。
そしたら、とっても喜んでくれた。僕もうれしかったよ。
それから、多くの人たちが同じ願いを言い出したんだ。
だから僕、頑張ってお金を作ったんだ。
いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい
そしたらしばらくして、ハイパーインフレーションっていうのが起こったんだ。
ハイパーインフレーションっていうのは、物の売値が激しく上昇する現象ね。
僕は褒められなかったよ。
それどころか激しく抗議されちゃった。これ以上金を作るなって。国を壊すなって。
それからだよ。僕は学んだんだ。他の人を不幸にしてある一人を幸せにするのは良くないって。
それからしばらくは誰も僕に願いを言わなくなったよ。
でも、いくらか時間が経った後、星にいっぱい国ができた後、戦争が起き出したんだ。
理由は・・・・・・なんだったかな? 神様はどっちの味方だとか、死後の世界はあるとかないとか。
機械の僕にはそんなことわからないし、戦争も記憶媒体にあるようにみんなを不幸にすることだ。
でも戦争をしている間、みんなは必死に僕に頼むんだ。
「敵国をやっつけてくれ」って。
中には「この星から逃げ出したい」て言う人たちもいたから、永遠に何世代でも暮らせる宇宙船を造ってあげたら喜んでたよ。
あ、ごめん。この星の話をしてほしいんだったね。
さっきも言ったように僕は他の人を不幸にするようなことはしないと決めていたんだ。
だから僕、頑張ったんだよ。
飛んでくるミサイルも、人を切り裂くナイフも、人を貫く銃弾も。
頑張って頑張って、全部なくしたんだ。
武器が亡くなった人たちはそりゃぁもう怒ったよ。「なんてことをしてくれたんだ!」って。
でも、僕は分かっていたんだよ。皆が何が欲しいかって。
皆、死ぬのが怖かったんだよ。
だから、僕は希望する人皆を不老不死にしてあげたんだ。
まぁ、不老不死って言ってもある程度体の整備をしなくちゃいけないけどそんなに大変な事じゃないよ。
最初は反対する人もいたけど、次第にそんな人たちもいなくなったなぁ。
あ、もちろん「死にたい」って希望した人は残念だけど殺してあげたよ。それがその人たち日にとって最善の選択で、幸せだったしね。
それからは平和に皆暮らしていたんだ。
ゆったりとした時間の中で、思い思いの事をしていたんだ。
あ、もちろん不老不死と言ってもお腹は減るからご飯を作っていた人もいたなぁ。その頃にはご飯も嗜好品だったけど。
それで、無限の時間の中である人が僕に願いを言ってきたんだ。
「幸せにしてくれ」
そう、言ってたよ。
その頃には、何でもある、時間が無限にあるから働けば何でも手に入る。そんな世の中だったんだ。
だからかな?
飽きちゃったんだって。
僕も「死にたい」っていう以外の久しぶりの願いだったから頑張ったよ。
欲しいものを作ってあげて、なんでもできるようにしてあげたんだ。
その人はとっても喜んでくれたよ。毎日が充実してるって。
それでね、それを聞いた人たちが皆同じ願いを言ってきたんだ。
だから僕は叶えてあげたんだ。
全部全部、叶えてあげたんだ。
皆、喜んでくれたよ。
あ、その頃にはほとんどの人が働かなくなってたなぁ。
それで、皆の、本当に皆の幸せを叶えたんだ。
あ、でも一人だけ言ってこなかった人がいたなぁ。あの人は「幸せは自ら勝ち取るもの。私には不要だよ」って言ってたよ。
皆が幸せに暮らしている中、また一人の人が僕に願いを言ってきたんだ。
「幸せにしてくれ」
おんなじ願いだったよ。もちろん、その人には前に同じ願いを叶えた筈なんだけど、その人は「最初は良かったけど、飽きてきた」って言ってたなぁ。
だから、僕はまた叶えてあげたんだ。
前よりも難しかったけど、叶えてあげたんだ。
その人は幸せそうにお礼を言ってくれたよ。
それで、その日を境に、毎日同じ願いを言ってくる人が増えたんだ。だから、僕頑張って叶えてあげたんだ。
でも皆一時的には幸せだったけど、すぐに僕に同じ願いを言ってくるんだ。
それで僕が困っていると、ある一人がこう言ったんだ。
「私を永遠に幸せにしてくれ」
その人の言葉を聞いた皆は同じことを言い出したよ。
みんなみんな、永遠に幸せにしてほしいって。
僕は人間の願いを叶えることが幸せだけど、人間っていうのは前の幸せ以上の幸せを求め続ける生き物なんだって。
それに天井なんかないんだ。
だから僕、考えたんだ。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて・・・・・・
それで僕は思いついたんだ。
彼らの理想の世界を創ってあげようって。
飽きたら自由に変えられる理想の世界を創ってあげようって。
だから僕はこれを造ったんだ。
皆を幸せにしてあげたんだ。
・・・
蒼い服を着た男は後ろに幾人の人を連れ、宇宙服のヘルメットであろう物を脇に抱き、液晶板に映る人間の柔らかな笑みを見ながら話を聞く。
彼らはこの星にかつて居た人間の子孫だ。
戦争の際に宇宙船に乗って戦争を回避した人間の子孫。
彼らは長い船旅の末、先祖の人々が住んでいたという星に到着し、PD-001、ドリームマシンにこの星の過去を聞いていた。
「皆を幸せにしてあげたんだ」
機械はそういうと満面の笑みを液晶板に映し出し、喜びを表現しながら話を終える。
思わず身震いをしてしまう。
恐ろしい。とても恐ろしい機械だと。
男は周囲の様子を確認する。
超巨大な埃一つないドームの中、周囲にはズラリと、永遠とも思えるほどに並ぶ白く、柔らかな素材で作られている椅子が並び、その上には気持ちよさそうに眠る無数の人々。
人々の頭には、皆一様にプラグのような物が5本刺さっており、ドームの中に響く音はこの機械と私たちを除けば時折発される彼らの不気味な笑い声のみだ。
機械の液晶板には未だに変わらぬ飛び切りの笑みが映し出されている。
「なぁ、お前は本当にこれが幸せと思うのか?」
男は機械に問う。
「うん! すごいでしょ! みんな幸せだよ!!」
液晶板にはにこにこと笑う人間が表示される。
(なんなんだこれは。これが幸せ? そんなはずはない。こんなモルモットみたいな扱いで幸せなはずがないだろ!!)
恐怖を通り越し、怒りを覚え始めた男の身体は僅かに震える。
「だ、大丈夫? 幸せじゃなさそうだけど」
機械は液晶板に戸惑う人の顔を映し出す。
無害なのだろう。この機械に悪い事をしたという自覚は無いようだ。
「・・・・・・むごいよ・・・・・・むごすぎるよ」
男の後ろにいた女隊員がふるふると震えながら言葉を紡ぐ。
「こんなことして本当に幸せだと思っているの!? こんなことして本当に喜ぶと思うの!!? そんなわけないじゃない! そんなはずないじゃない!! PG-001! あなたは間違っているわ!!!」
女は叫ぶ。
叫んだ声は広すぎるドームでは反響せずにすぐに沈黙が訪れた。
「・・・・・・み、皆幸せそうだよ? みんなしあわせのは「そんなわけないじゃない!!」」
機械の言葉は再び発された女の声にかき消される。機械は液晶に困った人間の表情を映し出した。
「・・・・・・で、でも」
「それくらいにしてくれないか?」
困り果て、答えを探そうとする機械とは別に、初老の一人の男が姿を現す。
「あんた誰!?」
「まぁまぁ、落ち着きなされ」
再び叫ぶ女を初老の男は制する。
「PG-001、お前は間違ってないよ。お前は何も悪い事をしていない。皆、幸せそうにしているじゃぁないか」
「う、うん!」
初老の男は優しい口調で機械に言い聞かすと、機械は液晶板に満面の笑みを表示させた。
「ともかく帰ってくれないか?」
「はぁ!? こんな機械、ぶっ壊してやる!!」
「それであなたが幸せになるならどうぞ」
女は叫ぶ。そんな叫びに対して機械は液晶板ににこやかな笑みを表示させながら自らの核であろう部位を差し出した。
「や、やってやろうじゃない!」
「やめろ」
ヘルメットを振り上げ、壊そうとする女の前に蒼い服の男は制止を促す。
「ど、どうして」
「・・・・・・帰るぞ」
蒼い服の男は踵を返すと自らの宇宙船の方向へと帰っていく。それに続きその後ろの人々も帰っていく。
「ちょ、ちょとリーダーぁ!!」
女は慌てて付いて行った。
しばらくし、再び周囲に沈黙が訪れる。
「ほら、それを壊しても彼女は幸せにならないぞ」
「そうですか?」
初老の老人の言葉に機械は核を自分の身体に引っ込める。
「さて、私はもう行くよ」
二人がしばらく話した後、初老の男は立ち上がり、機械に優しげな笑みを向ける。
「幸せになりますか?」
機械は液晶板にとても難しそうな顔を表示させながら問う。
「PG-001、またしばらくしたらここで話そう。私はそれだけで幸せだ。いつもありがとう」
初老の男の言葉に機械は液晶板に満面の笑みを表示させた。
幸せを平等に 赤糸マト @akaitomato
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