第17回「タイタニック・オブ・ザ・デッド」

「タイタニック・オブ・ザ・デッド」

2023年 アメリカ

監督 ジョージ・P・ベイカー


あらすじ……1912年にイギリスを出発しNYへ向かった豪華客船、タイタニック号。処女航海の最中、氷山に激突して沈んだ悲劇の船だったが、その話には衝撃的な事実が隠されていた。ルポライターのヘンドリックスは、タイタニックの生存者が残した手帳の中に「真実は政府に歪められ、嘘が伝えられた」という一節を発見する、やがて、ヘンドリックスは事実を調べるうちにタイタニックは氷山ではなくゾンビによって沈められたという真実へとたどり着く。タイタニックに乗り込んだ青年、ウィリアムの残した手記から、驚愕の事実が明らかになる。


[レビュー]

 今までクソな映画は散々見てきたつもりだったが、今作に関してはその中でも一際異彩を放つ作品である。この作品も例によってクソがクソをしてさらにその上にクソしてまたクソをしたような作品ではあるが、本当にひどい映画である。傑作「クルーズ・オブ・ザ・リビングデッド」の成功を受けて、当時の映画業界は模倣映画を作る事で「海洋ゾンビ映画ってイケてんじゃん!」と成功を確信していた。その中でジョージ・P・ベイカー監督は見事に「こんなもんイケてねえ、オリジナルが面白すぎた」と観客の目を覚まさせた。


 これは今から200年近く前、氷山にぶつかって沈んだタイタニック号の悲劇について触れている。予備知識までに説明しておくと、タイタニックは氷山にぶつかって沈んだのであって決してゾンビに沈められたわけではない。あれから2世紀近い時が経って、これを再見した愚かな映画好きが「タイタニックはゾンビに沈められた!」なんて馬鹿を言い出しているからこう説明するしかない。


 今作はゾンビに沈められたというバカげた話をさぞ実際にあった事のように話している。さて、ここまで見ていて大半の読者はゾンビが豪華客船を襲うスペクタクルを想像するだろうが、勘の良い読者ならお気づきだろう。「どうせそんな事なくて予算ケチったクソ映画なんでしょ?」と。大正解だ!


 まず物語の大半は沈没から110年後が舞台で、隠蔽されたタイタニック号の真実についてルポライターがそれを追って行くという物語で進んでいき、肝心のタイタニック号を舞台とする回想・再現シーンは107分という本編時間のわずか18分!残り90分近くを、主人公のルポライターの取材や分析、モノローグで語るだけという非常に退屈極まりない映画に仕上がっている。


 この真実を追い求めるドラマが最高に安っぽい。ロケ地の選択肢が予算の都合でほぼ映画スタジオ内部やスタッフの自宅、出演者が通う学校の図書館などありふれた場所で撮影されているので絵がぜんぜん引き締まらない。また、俳優たちも無名で演技は雑だったり控えめだったり大げさすぎだったりとバランスは最悪。音楽はそのへんのフリー音楽にも劣る迫力もドラマ性も感じない出来で、真実を追っていく物語は非常につまらない。


 さらに、タイタニック号が出てくるシーンはもっとひどい。合成ならわかるが、20世紀初頭の格好をしたエキストラたちが現代の船(セットではない、あきらかに当時運行していたフェリーや貨物船)に乗って、ひどくチープなメイクをしたゾンビたちに襲われ食われていく様が足早に描かれている。タイタニック号の沈没シーンに至っては当時流通していたプラスチック模型をそのまま使い、適当に沈めるというあまりにも酷すぎる撮影方法で、逆にここまでくると清々しい気持ちになってくる。


 総製作予算は、当時の基準で3ヶ月安アパートで暮らせる程度の金額という恐ろしいほどの低予算ながら、怖いもの見たさやパッケージやポスターに騙された客、さらに口コミによって今作はそれなりに稼いだそうだ。しかし、見た人間の怒りは頂点を極め、ジョージ・P・ベイカー監督は「クソ映画の王」というありがたくない名前を頂戴するに至っている。この映画を見るくらいなら素直にほかの映画を選んだほうがいいだろう。

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