第15回「デスゲームTV」

「デスゲームTV」

2020年 日本

監督 森屋鋼三


あらすじ……あるテレビ局で新しくスタートするクイズバラエティ番組の収録が始まり、出演が決定した芸能人・タレントたちがスタジオに集められる。収録が開始されるが、事前に聞かされていた内容とは違う空気にスタジオの空気はざわつき始める。そんな中、突如としてスタジオのセットの前に死体が現れスタジオはパニックに陥る。集められたタレントたちは、カメラが回る中でデスゲームの餌食にされた事を知らされる。スタジオから逃げ出そうとした者は死に、仮面を付けた謎の“司会者”に歯向かえば死ぬという不条理なデスゲームを生き延びるには「クイズ」に答えて最高得点を叩き出す必要があるが、生き残れるのは集められた20人中たったの1人。文字通り命を掛けた戦いに参加するタレントたちは、己のエゴや本性をむき出しにしてクイズから生還しようと試みるが……


[レビュー]

 21世紀初頭の日本のテレビ番組を痛烈に風刺したホラー映画。監督の森屋鋼三は元々テレビ番組の制作に携わったアシスタントディレクターであり、その当時から、テレビ番組の裏側で繰り広げられる嫌な光景を目の当たりにし、面白さとはかけ離れたつまらなくて中身の無い番組を作らされた経験を今作に落とし、当時のテレビ業界、ひいては芸能界を徹底的に批判する作品を作ろうと思い立ち、この作品を作ったと言う。


 資料やインタビューによれば、今作に登場するタレントはすべてモデルとなった人物が存在しており、それに関する批判を避けるためにあえて複数の人物の性格をモデルにしたキャラクターを用意し、うまくぼかしたとの事である。また、監督は今作の製作でテレビ業界や芸能界から弾圧や批判される事を考え、あくまで劇場公開せずネットでの配信を行い、ソフトスルーで公開するという方式を取り、それに伴い出演者も劇団員などテレビに関わらない人たちを起用したり、あるいは既に芸能界を引退した人物に協力を呼びかけて出演させるという徹底した配慮の元で製作されている。


 話自体はオーソドックスなホラー映画であり、最後の1人まで戦わされるという不条理なゲームと、それによって犠牲になるタレントの壮絶な死に様、さらにはスターの顔を捨てて本性をむき出しにする者たちの醜い描写が連続して描写され、圧巻の描写となっている。枕営業で駆け上がったアイドル、裏社会と太いパイプを持つ傲慢な大御所タレント、一発屋で売れて天狗になっているコメディアン、ニュース番組でコメンテーターという肩書きを持ちながら悪質な持論を垂れ流す作家など、唾棄すべきような者たちが所狭しと登場し、殺されていく。


 クイズに答えられず、点数を稼げなければ死ぬという以上、テレビ番組のような脱力したノリでやっていたタレントたちが必死になって頭を動かしていく様は滑稽ではあるが、“司会者”がふっていくクイズの内容が、それぞれ生き残った個人の汚点や隠したい過去の悪行へ迫っていくにつれて物語は地獄絵図に陥っていき、心霊やモンスターなどを介さない、純粋な人間の恐ろしさやおぞましさを説いて行く流れはまさにホラー映画監督として実績を重ねた森屋鋼三の本業が発揮されている。


 そんな中でも、ピン芸人としてたくましく、そして強かに、それでいて謙虚に生きていた主人公のコメディアンは一種の清涼剤であり、彼が逆境の中でクイズに答えていき、必死に生き残ろうとしていく様を応援したくなり、一概に後味の悪い作品として終わらないのもエンターテイメントとしての面白さとして活きている。もちろん、ホラー描写も盛り沢山で、脱落したタレントがスタジオに仕掛けられたギミックで無残に惨殺されてくシーンはバリエーション豊かである。バケツ一杯分の硫酸を頭から掛けられて死んだり、煮えたぎる熱湯に落とし込まれて殺害されたり、ワイヤーで全身を縛られて千切られるなど、ショッキングなシーンが連続していく。


 公開後の反応は絶大であり、あえてタブーとされた芸能界の闇を徹底的に風刺した作品は批評家に受け、目新しいホラー映画に飢えていたホラー映画ファンからも好意的に受け止められたが、テレビ業界はこれを良しとせず、監督のみならず映画に関わった全ての人物を公共の電波に載せない・触れないという方法でこれに抗議を示した。非情な話であったが、逆に監督はこれをチャンスと捉え、ネット配信サイトと提携し、インターネット配信映画専門の映画配給会社を設立し成功を収め、日本の映画業界にそれなりの功績を残したという。


 その後の日本のテレビ業界は視聴率低迷や視聴者のテレビ離れが深刻化し規模を縮小し、芸能界もそれに合わせて活躍の場を大きく変更せざるを得ないという転換期に回ったのは歴史の通りであり、その点では監督の意図したテレビ番組に対する戦いは勝利を収めたと言っても過言ではないだろう。

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