第13回「スターシップ・ラブ」
「スターシップ・ラブ」
2041年 アメリカ・イギリス
監督 スティーブン・マッキンリー
あらすじ……火星への本格的なテラフォーミング計画が開始され、520名の移民を載せた宇宙船「ディスカバリーⅣ」を衛星軌道から発進させ、火星に送る事が決定する。国連航空宇宙局の職員で、このプロジェクトの飛行士訓練教官であるリズは宇宙船パイロットの問題児、マットの対応に手を焼いていた。父親が宇宙飛行士だというマットは、お調子者でトラブルメーカーだが、訓練の成績に関してはトップクラスである手に負えない若者だった。そんなマットを一人前の宇宙飛行士として育てようとするリズはマットとしばしば衝突するが、問題を乗り越える度に絆は深まり、やがて2人は恋人同士になっていく。それから1年後、計画が実行に移されディスカバリーⅣは地球の衛星軌道から外れて火星へと向かい、リズは管制官として地上へ残り、マットを見送る。だが、航行開始から152日後、ディスカバリーⅣに隕石が衝突、520名の命に危機が迫る。リズとマットはこの危機を乗り越えるため奔走していくが……
[レビュー]
人類史上初、宇宙空間での映画ロケを敢行した、映画史に残るスペースラブロマンス巨編。当時の資料によれば、人類史上もっとも金のかかった映画(後に78年の「ジーザスリベンジ!~ゴルゴダの死闘~」が記録を抜く)と言われるが、完全なる大失敗に終わった作品であり、その影響か、その年のハリウッドは壊滅的な打撃を受けてブロックバスター映画はほぼすべて空振りに終わり、さらに脚本家が5年後に自殺までしでかしたという曰くつきにも程がある映画だ。
まず題材がラブロマンスで、史上最悪の宇宙事故というパニック部分を添え物程度で考え、かなり雑に扱ったのがまずかった。明らかに520名の命よりもボンクライケメンパイロットの方が大切と言わんばかりの脚本と、ヒロインの何も考えていないトンチキな行動がとにかくパニック描写をひどくつまらない物にさせている。
当時一番の売りだった人類初の宇宙ロケに関しても、最悪と言わざるを得ない。便宜上は宇宙ロケといわれているが、実際はスタッフがNASAのミッションに同乗し、その過程でEVAの合間を縫って現役の宇宙飛行士たちに演技をさせ、それに主演の顔をはめ込むというあまりにもお粗末な方法が話題となり、結果的に「単に資料映像へ手を加えてロケをしたと言い張ってるようなもの」と批評家からこぞって叩かれた上に、科学的・政治的考証共に雑な描写が目立ったためSF映画目当てに来た客の大半を失望させて終わってしまった。
また、これは創設間もない国際宇宙開拓機構団の評判を落とすような作品であるとその組織から名指しで批判を受けた作品でもある。劇中では数百名近い人員が死亡し、救援に向かったNASAとヒロインが恋人を救い、火星へ到達し、2人は真実の愛で結ばれる……なんていうオチだったから怒るのも当然であるし、いかにもアメリカ中心な話で終わる事や、劇中で死亡するのが大体アメリカ人“以外”だけだった事も批判を加速させたと言われている。何にせよ風評被害が甚だしかったのは言うまでもないだろう。
また、キャスティングも最悪であり、キャサリン・G・バセットがヒロインを、その恋人役をアラン・ゼルドマンが演じたが2人の演技は明らかに最高額をぶっこんだ作品からは程遠いレベルの演技力であり、観客から壮絶に叩かれた事も有名である。ハリウッドの出世コースから外れたキャサリンは鳴かず飛ばずの状態が続き女優を引退してモデルになるも、それでも成功せずヨーロッパへと移住し消息不明に、アランは45歳で再ブレイクするまでB級映画やTVMの常連脇役として細々と活動を続け糊口をしのぐなど、2人のキャリアにまで大きな影を落としている。
とまあ完全な駄作で終わってしまった作品であるが、この映画のすごい所は大量の金をつぎ込んだ結果、興行収入で惨敗したという点であろう。史上初の宇宙ロケを敢行して映画という偉業もあるが、後世のレビュワーたちはそんな事よりも大災害のような作品の背景を語り継いでいる。
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