Chapter4
『 瀬戸 フミカ 2 』
「あざっーしたぁー」
誠意のかけらも感じない接客用語を背に受け、コンビニから立ち去る。太陽はしばらく前に沈んだというのに蒸し暑さがかすかに残っていて不快だ。早いところ冬になってはくれないものだろうか。
「——?」
あたしは背後に気配を感じて振り返る。しかしそこには誰もいない。
……つけられている? 誰が? 一体何のために?
目をいくら凝らして闇を探ってもそこには人影などないし、風の音しか聞こえない。
「……気のせいか?」
殺人鬼といい、この町は物騒だから過敏になっているのだろうか。
「——君」
「うひゃう!」
背後から突然声をかけられて、変な声を出して少し飛び上がってしまった。
「…………って、また君か。今何時だと思っているんだ……」
そこには呆れ顔の見覚えのある警官がいた。何度も深夜に遭遇している背が高い痩せ型の男。
「2時……すぎですね」
「そうじゃなくて……、はあ……、最近は物騒なんだから、こんな夜遅くに出歩いちゃだめだよ」
「……はあ、すみません」
「まったく……あんな事件があったというのに君は怖くないのか?」
警官にして覇気がないそののっぺりした顔。そのせいであまり怖くない。歳も私とそれほど変わらなく見える。20代中盤ぐらいだろうか。
「……まあ、人間、死ぬ時は死ぬんで」
「そのセリフを言うには君は若すぎるぞ……。せめてあと30年は我慢してなさい……」
「……まだ捕まってないんですか?」
「ん? ああ、僕も直接関わっているわけじゃないから詳しくは知らないんだけど、目撃情報も現場証拠もゼロだったらしいからね」
「……はあ」
「とにかく、こんなに夜遅くに出歩くもんじゃないよ、送っていこうか?」
「家、すぐそこなんでいいです」
「…………ちゃんと帰れよ?」
「い、いやだなぁ。ちゃんと帰りますって」
お兄さんの疑いの目を掻い潜り、あたしは再び1人になる。
「…………」
やっぱ気のせいなのだろうか。もう誰かが背後からつけているような違和感は感じない。
「暗殺とか、されたくないなあ……」
殺される心当たりなんてこれっぽっちもないし、死ぬことが怖いわけでもないけど。
「……痛いのは、嫌だからな」
まあ、別に深夜徘徊が趣味なわけじゃないし、コンビニへ行くという用事も済んだわけなので、あたしは大人しく帰宅路につく。
それにしても、今は深夜ってことを考慮したとしても、コンビニの店員と警官のお兄さん以外、さっき家を出てから人に遭遇していないのは異常だな。
深夜といってももう少しひととすれ違っても良さそうなものだが。この町には引きこもりしか住んでいないんじゃないか? あのコンビニの深夜バイト、さぞ楽なんだろうな……。
ああ、そういえば、
……今日は、会えなかったな。
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