Chapter2
『 瀬戸 フミカ 1 』
あたしには、大切な友人がいる。
その子のためなら何だってできるような。
その子が笑うなら何だって犠牲にしたくなるような。
そんな友達がいる。
「やあ、フミカ」
今は深夜、灯りも乏しい。こんな道端で話しかけてくるような奴は、あたしの思いつく限り、二人に絞られる。
一人は警官。大学生といえど、あたしは女。こんな時間に外を出歩いていれば、そりゃ警官に声もかけられるだろう。実際、何度も声をかけられている。
しかし、今背後からかけられた声には聞き覚えがある。つまり第二の可能性の人物というわけだ。いや、警官の場合でも何度も声をかけられるから、聞き覚えがないわけじゃないんだけど。
振り返り声が聞こえてきた方を向くと、まだ蒸し暑い十月上旬に真っ向から喧嘩を売るような、明らかにサイズが合ってないXXLサイズの黒い長袖パーカーを着て、そいつは立っていた。深くフードを被っていて、しかも、この暗がりの中だ。表情は読み取れないが、おそらく気味悪く笑っているのだろう。
こいつはシュウ。あたしの希少な友人の1人だ。
「……シュウ。お前、こんな時間、そんな格好で歩いていたら職質されるぞ。……今巷で話題の殺人犯に疑われてもしらないからな」
「あははははは。すごく面白い冗談だね。そんときはそんときだよ。それに疑われて困ることなんてないじゃないか。——だって君もわかっているだろう? 」
知っている。……そうだ、あたしは、こいつが数週間前、一体「何」をしたのかを知っている。……だけど、
「…………あたしが困るだろ」
「ほほう、こんな絶世の美少女に身を案じてもらえるなんて僕は幸せ者だな。そのこと自体は冥利につきるが、大丈夫、……君は困らないよ」
さっきコンビニで貰ったレシートと同じぐらい薄っぺらい、感情というものが一切含まれていないような、こいつはそんな言葉であたしが納得すると思っているのだろうか。
「そうだそうだ。お友達は元気かい?」
わかりきったことを聞いてくれるな。
「……お前のせいで生きる気力を無くしてくれてるよ。どうしてくれるんだ」
別段、本気で責めるわけではない。とりあえず、言ってみただけだ。
「それはそれは。心が痛んでしょうがないね。ああ、僕は今にも罪悪感に押しつぶされそうだよ」
おそらくこいつと初めて出会う人でも今の発言はまるっきりの嘘だとわかるだろう。レシートよりはるかに薄っぺらい。たとえ、軽い力で縦に引っ張ったとしても水に濡れたティッシュのように簡単に破けてしまいそうだ。
「それに、お前はあいつと毎日会っているだろう」
そうあたしがいうと、またしてもわざとらしく、考え込むふりをする。
「……瀬戸フミカさん、「会う」ってなんだか、わかるかい?」
「いや、会うは会うだろ」
「互いが互いを認識して初めて、「会った」ことになるんだ。だから僕のは邂逅ではなく観測。僕が一方的に彼女を見ても、話しかけたり、あいさつしたりしないと彼女は僕という人間を認識すらしない。つまり、本当の意味で僕と彼女は、まだ出会ってすらいないんだ」
「……あっそ」
お前の
「だからこそ、彼女が健やかな暮らしを行えているか否かは、彼女の親友である君に聞かないとわからないというわけさ」
「……さっき言った通りだよ。かなりショックを受けている。……母親が死んじまったからな」
だけど、それは……。
「世界の本当の形を知らないまま、大概の人は生き続けている。だけど彼女はあまりにも、滑稽すぎやしないかな」
「お前は……、」
「おっと、それ以上はダメだよ」
それ以上、そいつは私の疑問には答えてくれない。
「とにかく、彼女が
「だから、あたしが本当のことをあの子に……」
「それもダメだよ。僕は君にこれ以上傷ついてほしくないんだ。そして何より、美しくない」
……っ! こいつは。いつもそうやって。
「それに、まだ終わりじゃないよ。大事なのはここからだ、せいぜい君はそれを邪魔しないでくれよ。まあ、まだ早いから行動を起こすのは先になるだろうけど、今日はそれを言いに来ただけさ。あと一つ、女の子なんだからこんな夜遅くにあんまり出歩かないでおいたほうがいいよ。いつ僕みたいな殺人鬼に襲われるか、わからないからさ」
そういってそいつは、また闇の中へ消えていった。まったくいつもながら自分勝手な奴だ。
人の気も知らないで、
…………いや、あいつの場合それは違うな。
あたしのこの感情など、多分あいつにはお見通しなのだろう。
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