ハッピーエンドは殺されていく。
唯希 響 - yuiki kyou -
Chapter1
『 ■■ ■■ 0 』
音は、なかった。
ただ、その初めて出会う感触に、指先、そして体全体が虜になっていくのを感じた。
凶器は、かすかに抵抗を感じさせながらも、静かにその肉体に沈んでいく。
するとそこから水風船に穴が開いたように、赤い液体が吹き出し、自分の体を赤く染め上げる。
控えめに言って、——最高に気持ちが良かった。
何度も、何度も、抜いては刺し、確実に“それ”の生命活動を停止させる。
この日本という国では、疑いようもなくほとんどの人間が体験したことのない貴重な体験。
それを今、自分は経験しているのだ。
それから、何分たっただろうか。
しばらく後、立ち上がり、その「人間であったもの」を、見下ろす。
はたして、そこに殺意はあったのだろうか。
自分は、この人間に恨みはあったのだろうか。
…………おそらく答えは、否だ。
そんなくだらないものなど、自分の中にはなかった。
あるのはただ、この不特定な世界に対する疑問だけだった。
……ああ、ごめんごめん。そろそろ自己紹介をしておこうか。
名前は秘密で、性別も秘密で、年も秘密で、ましてや身長も体重も秘密で、性癖も好きなAV女優も秘密だ。最後のは正直、具体的な名前が出てこないだけだ。
ごめんごめん、君をからかっているつもりはないんだ。
……でも、これが今の精一杯。
いつかちゃんと君は、全部を知ることになる。ただ今はその時じゃない。ってことだ。
大事なのは、自分が殺人鬼であることを君に知ってもらうことと、
そして、誰もこの世界の本当の形を知らないってことだ。
————形がわからなきゃ、それを撫でることだって、当然できない。
だから、こんな形でしか、「 」を伝えられない。
さて、そろそろ行くよ。
バイバイ。
×月×日 午後4時頃、〇〇市〇〇区の住宅街にあるアパートの一室で、
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