ハッピーエンドは殺されていく。

唯希 響 - yuiki kyou -

Chapter1

『 ■■ ■■ 0 』






 音は、なかった。


 ただ、その初めて出会う感触に、指先、そして体全体が虜になっていくのを感じた。

 凶器は、かすかに抵抗を感じさせながらも、静かにその肉体に沈んでいく。

 するとそこから水風船に穴が開いたように、赤い液体が吹き出し、自分の体を赤く染め上げる。



 控えめに言って、——最高に気持ちが良かった。




 何度も、何度も、抜いては刺し、確実に“それ”の生命活動を停止させる。

 この日本という国では、疑いようもなくほとんどの人間が体験したことのない貴重な体験。

 それを今、自分は経験しているのだ。


 それから、何分たっただろうか。

 しばらく後、立ち上がり、その「人間であったもの」を、見下ろす。


 はたして、そこに殺意はあったのだろうか。

 自分は、この人間に恨みはあったのだろうか。


 …………おそらく答えは、否だ。


 そんなくだらないものなど、自分の中にはなかった。


 あるのはただ、この不特定な世界に対する疑問だけだった。


 















 ……ああ、ごめんごめん。そろそろ自己紹介をしておこうか。


 名前は秘密で、性別も秘密で、年も秘密で、ましてや身長も体重も秘密で、性癖も好きなAV女優も秘密だ。最後のは正直、具体的な名前が出てこないだけだ。


 ごめんごめん、君をからかっているつもりはないんだ。

 ……でも、これが今の精一杯。


 いつかちゃんと君は、全部を知ることになる。ただ今はその時じゃない。ってことだ。

 



 大事なのは、自分が殺人鬼であることを君に知ってもらうことと、

 そして、誰もこの世界の本当の形を知らないってことだ。






 ————形がわからなきゃ、それを撫でることだって、当然できない。






 だから、こんな形でしか、「  」を伝えられない。









 さて、そろそろ行くよ。










 バイバイ。 














































 ×月×日 午後4時頃、〇〇市〇〇区の住宅街にあるアパートの一室で、神田遼子かんだ りょうこ(37)の惨殺遺体が発見された。第一発見者はそのアパートに一緒に暮らす娘で、学校から帰宅した際、母親がリビングで血を流して倒れているのを発見した。遺体に何度も刃物を突き刺した形跡があり、犯人の強い殺意が感じられる。アパート周辺では不審な男の人影が度々目撃されており、その男を重要参考人として捜索している。






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