ぶっ生き直す‐とある人生のやり直しかた‐

恩田 裕

第1話 すべてのコトに納得しない男



 ここは死後の世界、その中でもここは死人の生まれ変わりを担う転生処である。この世界の生まれ変わりとは、1人乗りの電車に乗って新たな目的地に向かうこととなっている。そのため、転生処という場所は大きな駅のプラットホームのような外観をもつところであった。そのプラットホームの片隅に、30代のスーツを着た細身の清潔そうな男が見える。その男が天にむかってつぶやいた。

「こんにちは、私はカスミこの場所は死後生まれ変わりを待つ待合室の様な場所です。」

「その場所のなかでも、この片隅は生まれ変わりを拒む人があつまる所なので吹きだまりと呼ばれています。」

「まぁ私もその一人なのですが・・・、あそこにもほら生まれ変わりを拒む人がいますよ。あそこの小太りの男性が・・・」

 

 その男性は、ジーパンと白のパーカーを着た小太りであり、名前はタクトと言った。年齢は27才、現世では無職、いわゆるニートであった。

彼は2年前、交通事故によって死亡し、この場所に来た。そして現在、この場所に現世の時間で2年ほどとどまっている。

「おれは、全然納得できねぇ。」タクトはひとりごちた。「いつも、そうだった。はじまりは、大学4年生のときに行った就活だ。」

「おれは、○○ナビが100社面接を受けたら内定がもらえるというから100社面接を受けた。しかしもらえたのは内定ではなく、100回のお祈りだった。」

「次に、俺がアルバイトをしていたコンビニの店長、俺の動きが遅いという理由で1カ月で俺をクビにしやがった」「納得いかねぇ、すべて納得いかねぇ・・・」



 「タクトさん、でしたっけ。何をぶつぶつ言っているのですか。すこし静かにしてもらえますかここに居ても、何も起こらないですよ。生まれ変わりの場所ならここを出て右にまがって突き当たりの部屋ですよ」

「いきなり話しかけてきて説教ってなんなのですか。それと一体あなたは誰なのですか。」

「いきなり、説教をしてすみません。すこし、気にかかったものですから。あと、紹介が遅れました。私は、カスミ。この場所の管理人を自称しています」

「じっ、自称ですか。ハハハ、その自称管理人が俺に何の用ですか」

「そうですね。タクトさんがここを出て、気持ちよく生まれ変わってもらうためになんでこの吹きだまりにとどまっていているのかを教えてほしいのです。そうしないと私も、生まれ変わることができないみたいなので」

「ほぉー、そうなんですか。お気の毒に。なんか、カスミさんがかわいそうなんで、話してあげますよ。」

そうして、したり顔をしながら、タクトは吹きだまりにいる理由を自慢げに語り始めた。

「いいですか。俺は、クソみたいな現世の社会が納得できないんです。」

「なぜならこんなに頑張っていた俺が、社会で認められないなんてありえないからです。」

「その理由としてこうだ。大学4年生の就活・・・(略)だから生まれ変わることによって現世の社会に戻るのが嫌でここにいるのです」

声を荒げ、顔を真っ赤にしながらタクトは語りを終えた

「言いにくいことをお話頂きありがとうございます。タクトさん。」

「少々きついことを言いますがよろしいでしょうか」

カスミは真顔でタクトに問いかけた。

「いいですよ、何でもどうぞ。俺の言うことに何も間違いはないのですから」

「タクトさんは就活で頑張られたたとおっしゃられましたが何を頑張られたのでしょうか」

「大学の就職課の人に履歴書の内容を見てもらったり、面接対策のセミナーに出たり、しました」

「それで、うまくいきましたか。」

「うまく、いきませんでした。」

「では、うまくいかなかった後に就活のやり方を変えたのですか」

「いいえ、やりかたは変えませんでした。もっと、履歴書の書き方や面接のやり方がうまくなれば、企業から内定をもらえると思ったので」

「ありがとうございます。今のやりとりでタクトさんが現世の社会をクソだという理由がわかりました」

カスミは少し間をあけた。なんともいえない緊張が2人の前におとずれた。

口火を切ったのはタクトであった。

「で、何があるのですか。」

タクトは、おまえに何が分かるのかという苛立ちを隠せず、カスミをにらみつけた。

それに対してカスミはしっかりタクトの目をみつめこう言った。

「わかりました、お教えします。理由はタクトさんが自分のやりかたを変える勇気を持てなかったということです。」

「それは、タクトさんがいままでの就活のやり方がうまくいかないとわかりながら、そのやり方に固執しつづけたところに現われています。ちがうやり方はやろうとおもわなかったのですか」

「ぐぬぬ」タクトは歯をかみしめ眉をよせた。

「そこでタクトさん、この場所でぶっ生き直してみませんか。ここでやり直して来世をより良くしてみませんか」

「わかった、やるよ。やればいいんだろ」

タクトは唾を飛ばしながら叫んだ。



「ありがとうございます。では、ぶっ生き直すためタクトさんにはロウソク問題を解いていただきます。」

そして、カスミは、カバンから画びょう1箱、ロウソク1本、マッチの箱1箱を取り出した。

「ここに、紙箱一杯に入った画びょう、マッチ1箱、1本のロウソクがあります。タクトさんには、ここにある道具を使ってロウソクを壁にとりつけてもらいます。ただし、床にロウをたらしてはいけません。」

「わかったよ。やればいいんでしょ。やれば」

上から目線のカスミに苛立ちを感じながら、タクトは気だるげに課題にとりかった。

「こんな課題簡単だよ。画びょうを使ってロウソクを壁に刺しちゃえば良いんだよ」

そう言いながら、ロウソクを壁にたてかけ、ロウソクの中心を画びょうでさして壁にとりつけようとした。しかし、ロウソクが太すぎて画びょうの針が壁に刺さらなかった。

「これは、俺の刺し方が悪かったんだ、もっと良い刺し方があるはずだ。色々挑戦してみよう」その後タクトは、ロウソクの両端を画びょうを刺したり、ロウソクの下に画びょうを刺して台にしようとしたり、様々な方法に挑戦をしてロウソクを壁に刺そうとしたが、結局ロウソクの太さが原因で画びょうを壁に刺せなかった。

そこで、タクトはロウソクの太さが原因だと気付いた。

「そうだ、ロウソクが太くて無理なら燃やして細くすればいい」

タクトは言ったことを実行に移した、しかし、今度はロウソクを細くする作業の最中にロウが床に落ちてしまった。これも様々な方法を試したが成功しなかった。

「もうっ、無理。わからん。寝る。」

そう言ってタクトは床に横になり、目を閉じた。

そして、30分ほど眠った。眠ったことにより、頭がスッキリしていることをタクトは感じた

「でも、このままではカスミって奴に負けたことになる。それだけは嫌だ。」

タクトは、カスミのことを想像していると以前のカスミの言葉が頭をよぎった。

「タクトさんが自分のやりかたを変える勇気を持てなかったということです。」

「うーん、この課題もやり方をかえることが必要なのかなぁ。」

タクトはひとりつぶやいた。

そして、カスミの言葉からロウソク問題の解決には他のやり方が必要であることに気付いた。

「うーん、ロウソクを細くすることが無理なら。ロウソクを支える受け皿が必要だなぁ。」

そこで、偶然画びょうを入れている紙箱がタクトの視界に入った。

そして、そのこと、タクトはぼんやりひらめいた。

「ちょっと待てよ。この紙箱はただの画びょうの容器だけど、画びょうで壁に刺すことでロウソクの受け皿になるんじゃないか」

「ええい、ヤケクソだ。ちょっとやってみよう。だめならだめで良いし」

そして、タクトは、紙箱を画びょうで壁に刺し、その上にロウソクを乗せた。

そうすると、ロウソクは紙箱のうえに静かに乗り、床にロウたらさず壁の上にとりつけられたのである。

「やったぁぁぁ。できたぁぁ。ロウソクを壁にとりつけられたぁぁ」

タクトは課題を解決できた喜びのあまり周りを飛び跳ね、カスミに課題の解決を報告した。

「おめでとうございますタクトさん、ぶっ生き直しましたね」

「この課題はタクトさんに自分のやりかたを変える勇気を持ってもらうためのものだったのです。」

「もう、生まれ変わっても大丈夫ですね」

カスミは満面の笑みでタクトを励ました。

「俺も今考えると、就活やアルバイトでの不満は今までのやり方を変えることが必要だったんじゃないか、昔の自分はワガママだったんじゃないかって思います。」

「これで私の悩みが解消したので、心おきなく生まれ変わることができます。カスミさん、ありがとうございます。そしてさようなら」

そしてタクトは、満面の笑みでこの吹きだまりを生まれ変わりを目指す電車に乗り込んだ。

「タクトさん、生まれ変わったら良い来世を送ってくださいね」

そこにはカスミのエールがこだました。

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