第1章 エルフの森
1
僕の名前は富永裕一。ファンタジー小説とRPGゲームが好きな平凡な高校生だった。ところがある日、新しく買った小説を読みながら眠気を感じたかと思ったら、気がつくと見知らぬ森で寝ていたのだ。
(あれ?ここは…?)
2、3回瞬きして、周囲を見回そうと首をあげたその時、
「動かないで!」
と、僕の行動を制する声が聞こえてきた。高く澄んだ女性の声のようだけど…?
「下手に動くと、あなたを射るわよ!」
視線だけ動かしてみると、声のした方には弓を構えた金髪の少女がいた。しかし、彼女は明らかに人間と違う美しさを持っていた。それに、金髪から見える長い耳。
(エルフ……?)
状況を飲み込めていない頭をフル回転させ、僕は彼女がエルフでないかと考えた。しかし…
(僕は、自分の部屋のベッドにいたはずじゃあ…)
と、彼女の姿を見回していると…
(あっ…!)
ひゅう、と風が吹き、裾の短いスカートから、まぶしいばかりの太ももと、純白の下着が見えてしまった。僕があわてて顔を背けると、
「な、何!?まさか……のぞいたのね!!」
身の危険を感じた僕は、とっさに地面を転がった!(汗)
「こんの、どスケベ人間!!」
案の定、下着を見られたと知った彼女は、逆上して矢を射掛けてきた。すんでのところで矢の直撃を回避した僕は、受け身を取りながら起き上がり、近くの木に身を隠す。まるでアクション映画さながらの身のこなしだったけど、とっさのことでそんなことを考えている余裕は一切なかった。しかし、やっぱり日ごろの運動不足は否めず、
「いって~…」
右腕から赤いものが流れ出していた。彼女の放った矢がかすったらしい。しかも、傷はそこそこ深かったらしく、左手で押さえても出血が止まらない。(汗)
「隠れても無駄よ!観念して出てきなさい!」
元々抵抗する気はないんだけどな~。(泣)
しかし、下手にじっとしていて相手に警戒されてもしょうがないので、僕は傷口を押さえつつ木の陰から姿を現した。
「抵抗する気はないよ」
僕がそう言って抵抗する意思がないことを伝えると、エルフの女性は弓を置いてショートソードを抜き、怪訝そうに近づいてくる。
「本当に抵抗しないでしょうね?」
「本当だってば…」
右腕の痛みに耐えかね、僕は地面に座り込んだ。そして僕がうずくまっていると、エルフの女性は手近な草(おそらく薬草)をちぎって手で揉み、僕の傷口に当ててくれた。…が、痛い!しみる!(涙)
「少しぐらい我慢しなさい」
エルフの女性はそう言うと、自分の腕に巻いていた布をはずして僕の傷口に巻いてくれた。
「これで止血はできるはずよ」
「ありが…」
僕が礼を言おうとした瞬間、彼女は僕の喉元に剣先を向けた。うう…まだ警戒してるのね…。(泣)
「私はまだあなたを許したわけじゃないわ。怪我をしてるから縄で縛ったりはしないけど、あなたには私達の集落まで来てもらう。そして長老様の裁きを受けてもらうのよ」
明らかに僕を敵だと思っているようだ。悪いことしたわけじゃないのに~。(泣)
エルフの集落に連れてこられた僕は、そのまま集落の長老の家へと連れて行かれた。
「長老、森で怪しい人間を捕らえましたので、連れて参りました」
「うむ」
僕を連れてきた女性に長老と呼ばれたエルフは、どこが長老?と疑いたくなるくらい若い。しかし見た目こそ青年だが、気が遠くなるくらい生きているんだろうなぁ。なんせ、長寿のエルフ族の中で、長老と呼ばれているんだから…。
とにもかくにも、長老の前に引き出された僕は、どうしてこの森にいるのか説明させられた。でも、僕には気がついたらこの森で寝ていたとしか説明できないので、包み隠さずありのままを説明した。すると、
「…よく理解はできないが、お前が嘘をついていないということはわかった」
と、長老が僕の言葉を信じてくれたのである。その言葉を聴いて驚いたのは、他でもない僕を連れてきた女性のエルフだ。
「長老!こんな得体の知れぬ人間の言葉を信じるおつもりですか!?こいつは、もしかしたら密猟をしに来たのかもしれないのですよ!?」
驚きの表情で長老の言葉に疑問を投げかける。しかし、長老は静かに彼女に手のひらを向けた。どうやら落ち着けと言っているようだ。
「エレナ、確かにこの少年は素性も分からぬ。しかし、武器も防具も持たず、抵抗する意志すら見せてはいない。それに、この集落に来れば我らの仲間がいる。我らと敵対する立場の人間であれば、わざわざ自らを不利な状況に置く事もあるまい。まして、抵抗するのであれば、ここに連れてこられる前にそうしていたであろう。少なくともここに連れてこられる前は、お前しかいなかったのだからな」
長老にそう諭された女エルフは、納得できないといった表情のまま少し後ろに下がった。しかし…エレナ…?どこかで聞いた名前だけど……どこだったっけ…?
とりあえず、それから自分の名前と、右腕の傷のことをたずねられた。
「それは…」
名前はすぐに答えられたけど、右腕の傷については色々が色々なので即答できなかった。するとエレナと呼ばれたエルフが、下着を見られた部分をうまくごまかして説明してくれた。
「そうか」
長老は立ち上がって近づいてくると、傷の具合を確かめるように僕の腕に触れた。
「ふむ、応急処置しかしておらぬようだな。エレナ、お前が面倒を見てあげなさい」
「ええっ!?そんな!」
明らかに不満そうだ。まぁ、初対面でいきなりパンツ見ちゃったんだから、嫌われてもしょうがないけどさ…。
「お前が負わせた傷なのだから、お前が面倒をみてやるのが当然だろう」
長老はそう続けたが、エレナは猛反発。
「傷の手当ては理解できますが、面倒までみてやれと言うのですか!?こんな得体の知れない人間の面倒を?」
事実だからしょうがないけど、そう何度も『得体の知れない』と言われるとヘコむなぁ…。(凹)
反発するエレナに、長老はさらにこう続けた。
「この男の言うことを信じるならば、この男はどこにも行くあてがないということになる。右も左もわからぬ世界で生きる術も持たぬ者を見捨てるということは、殺すも同然。エルフとして、そのような非道な選択をするわけにはいかん」
この言葉で観念したのか、エレナは僕の面倒を見る事を承諾した。
「ではエレナ、しっかり頼むぞ」
こうして長老の家を後にした僕達は、まっすぐにエレナの家に向かった。
彼女は家に入るなり、僕に向かってこう言った。
「長老がおっしゃるからしかたなく面倒みてあげるのよ。決してあなたに心を許したわけじゃないわ」
そして、エレナは僕に床で寝ているよう指示する。
「そこで大人しく寝てるのよ」
きつい口調でそう言い残し、彼女はどこかへ行ってしまった。
とりあえず寒気がするので、僕は大人しく床に転がっておくことにした。そして、ぼんやりする頭でエレナという名前の出所を思い出そうとした…が、それを完全に思い出す前に、僕は意識を失ってしまった。傷の手当てはしてもらっていたものの、応急処置のみだったので傷が熱をもったのが原因らしい。
そして次に目を覚ましたときには、僕の目の前にエレナの顔があった。
「…う……」
「気がついたようね」
まだ体がだるい。頭もぼんやりしている。
「傷が元で熱を出したのよ。さっき解熱剤を飲ませてあげたから、もうそろそろ効いてくると思うわ」
「あ…りがと…」
僕が礼を言うと、エレナは少し驚いた様子を見せた。本当ならこの反応に興味を示すところだが、あいにくと今の僕は発熱でダウン中。そんなことを考える余裕などないのでした。(泣)
そう思ったのもつかの間、エレナは再び険しい表情に戻ると、僕のそばから離れた。そしてテーブルで何かやっていると、別のエルフの女性が家に入ってきたのである。
「はい。水とトーティの実を持ってきたわ」
「ありがとう、フィオーラ」
フィオーラ…?これもどこかで聞いた名前だが…あっ!そうだ!エレナもフィオーラも、僕が部屋で読んでいた小説の登場人物だ!!するってーと、ここはアーレストの世界!?いったいどーなってるんだ…僕は小説の世界に飛び込んだってこと?しかし、だとすれば、ヒロインのエレナは、これから主人公であるところのレオンと冒険の旅に出ることになるはず。う~ん…途中までは読んでいるからいろいろ知ってるんだけど、ここはそのことを言わない方がいいかもしれない。長老様がこの集落に僕をおいてくれてるのも、この世界のことがさっぱりわからないからなんだよね。つまり、この世界の事を知っているとバレたら、さっさと集落を追い出される可能性もあるってことだ。生きる術がない以上、大人しくしておいた方が無難だよな。
僕がこんなことを考えている間に、エレナはフィオーラから水の入った容器を受け取っていた。
「水、飲む?」
「うん…」
僕がそう答えると、エレナは水の入った容器から、コップ1杯分だけよこしてくれた。それもぶっきらぼうに、僕の隣に置くだけ。手渡しすらしてくれない。
この世界のエルフも、人間にいい印象を持っていない。だからって、ここまで辛く当たる事もないと思うんだけどなぁ…。
「ほら、飲みなさい」
僕は体をひねってコップを手に取ると、フラつきながらも中の水を飲み干した。ふぅ、少し落ち着いた。
「しかし、不思議な事もあるもんねぇ。エレナが人間の世話をするなんて…」
フィオーラがポツリとつぶやく。するとエレナは一瞬表情をこわばらせた後、
「別に、好きでやってるわけじゃないわよ!私だって、こんな人間の面倒なんて見たくないわ。長老の言いつけだから…」
と、怒った。どうやら本気で怒ったらしい。
「ごめん…」
フィオーラはそれでいづらくなったのか、そそくさと家から出て行った。それから少しして、エレナも何を思ったのか家を出て行ってしまった。
結局まともに事態を飲み込めぬまま、僕はエレナとフィオーラの関係を思い出そうとしていた。このエルフの集落において彼女達は若いグループに入り、幼い頃から一緒に遊んだ仲だったはずだ。確か。まぁ、簡単に言えば幼馴染みだ。エレナは気が強いものの本当は優しく、どちらかといえば内向的な性格をしているが、フィオーラは開放的で明るい性格をしてる。それでも2人は凸凹コンビのように仲がいい、と、小説では表現されていたと思う。
とりあえず何もできないので、大人しく床に転がって寝ていると、だれかが入り口に来た気配がした。
「おや、エレナはいないのか?」
この声は、長老様だ。僕がこの集落で生きて行けるようになったのも、このお方のおかげ。粗相がないようにしなくちゃ…と、僕が体を起こそうとしたら、長老様がそれをやめさせた。
「そのままでいい。まだ体の具合はよくなっておらんのだろうからな」
「はぁ…」
すると長老様は僕のそばまで来て、しゃがみこんで僕の傷の具合を確かめた。
「応急手当から、一応薬草は換えてあるようだな。傷はまだ痛むのか?」
「ええ、少し…」
事実、傷口は焼けるような痛みを発していたし、頭もボンヤリしている。こんな痛い思いをしたのは、自転車ですっ転んで腕を骨折したとき以来だ。
「熱があるようだが、解熱剤は飲ませてもらったのか?」
「はい。僕が気を失っているときに、飲ませてもらったみたいです」
「そうか。ならば、一晩もすれば熱も下がるだろう。どうしても傷が痛むときは、我慢せずにこの薬を飲むといい。痛み止めだ」
と、長老様は僕に小さな袋を渡してくれた。中には深緑色の丸薬が入っている。見た目は日本で有名な腹痛の薬のようだが、においはハーブのようだ。
「また様子を見に来る。傷を治すことを、第一に考えるのだぞ」
長老様はそういい残すと、家から出て行った。
その長老様と入れ替わるように、エレナが戻ってきた。
「…まったく、フィオはいつもああなんだから…」
そう言いながら、エレナはいすにどっかと座る。どうやら、僕のことは見えていないようだ。いや、あえて見ないようにしているのかもしれない。そうやってぶつぶつ文句を言いながら、エレナはテーブルに置いてあった木の実を手に取り、その皮をナイフでむいて食べ始めた。そういえば、今日はまだ何も食べてなかったんだっけ。それに気付くと、途端に僕の腹の虫が鳴いた。
「ふん。人間も腹を空かせるのね」
腹の虫の声を聞かれた恥ずかしさよりも、エレナの言葉の冷たさの方が、今の僕にはこたえた。だから、彼女に迷惑をかけまいとして、僕は丸くなって空腹をごまかそうとした。だが、
「ほら、これでも食べなさい」
エレナはむいた果物を食べやすいように切って、なんと僕に差し出してくれたのである。
「あ、ありがとう…」
礼を言って果物を食べようと左手を伸ばすと、右腕に鋭い痛みが走った!いって~!!(痛)
「ぐっ……」
思わず右腕を押さえてうずくまる僕。彼女はそんな僕をよそに、なるべくこっちを見ないようにしながら食事を続けている。
僕がやっとの思いでもらった果物を平らげると、
「この薬を飲みなさい」
と、エレナから薬らしきものを渡された。
「本当ならここから放り出したいんだけど、そんな事をすれば長老様から私がお叱りを受けることになるわ。だから、せめてこの家の中で死ぬことだけはやめてよね」
……こんなに冷たくされたのは、生まれて初めてだ。イジメを受けるって、こういうことなのかもしれない…。
それから、さらにエレナはこう続けた。
「その血だらけの服、着替えなさい。人間の血の臭いが家に染み付いちゃうわ」
と、エレナが僕に服を投げてよこした。
確かに、血だらけの服を着てるってのは気分がいいもんじゃない。僕は包帯をはずすと、傷みをこらえつつ服を着替えた。そして新しい薬草を塗ってもらい、包帯も新しいものに換えてもらう。
「これで大人しくしてる事ね」
やれやれ…。どうやら、彼女は本格的に僕、いや、人間の事を嫌っているらしい。変ににらまれないように、おとなしくしていよう…。
2
太陽の光で目が覚めた僕は、自分にシーツがかけられているのに気がついた。エレナが気を使ってくれたのだろうか。しかし、そのエレナの姿はもう小屋にない。森に木の実でも採りに行ったのだろう。一晩ゆっくり休んだのが良かったのか、熱はひいて右腕の痛みも幾分和らいだ。これなら動き回るのに支障がない。
と、いうわけで、僕は身のまわりを整理し始めた。僕のせいで乱雑になった部分があったからね。そうしていると、エレナが木の実と動物の肉らしいものを持って帰ってきた。
「あら、もう動いて大丈夫なのね」
昨日と変わらない冷たい口調で、エレナが言った。
「うん。まだ少し痛むけど、熱は下がったし、このくらいなら動けるよ。面倒かけっぱなしじゃ、なんか悪いし…」
僕はそう言うのが精一杯だった。彼女のあの冷たい視線の前では、いつものようには振る舞えない。
「ふぅん…」
彼女はそう鼻を鳴らすと、昼飯を食べるかと聞いてきた。
「うん」
一応そう答えてはみたものの、お昼?もう太陽はそんなに高いのか?
「朝は、自分から起きなかったから放っておいたわ」
「そう…だったんだ」
それだけ寝れば寝起きもいいはずだよね。日頃は夜の12時に寝て朝の6時半に叩き起こされてたから、こんなに寝たのは久しぶりだ。
さて、僕の片付けが終わったので、エレナは昼食の準備を始めた。もちろん、今回は僕も手伝ってるよ。僕の分担は果物の皮をむいて、食べやすい大きさに切ること。日本でも普通に見かけるりんごやオレンジに混じって、見たこともないような果物もある。そんな果物と悪戦苦闘しつつ、なんとか果物をむき終えると、エレナが焼いた肉を持ってきた。そしてそれをテーブルに置くなり、
「はぁ。あんたのせいで、2人分の食事の用意をしなくちゃならないわ」
と、つぶやいた。その一言は僕の心に重くのしかかり、昼食の味もろくに覚えていない。あぁ、やっぱり僕はここにいちゃあいけないんだな…。
昼食を終えて、僕は集落から少し外れた空き地にいた。エレナは僕と一緒にいることを快く思ってないようだし、エルフ達からしてみれば僕は部外者だ。
(やっぱり、僕はここにいるべきじゃないんだ…)
でも、他に行き場所はない。多少なりともこの世界のことは知っているから、その知識を活かして予言者まがいの仕事で生きていけるかもしれないが、そんなことをしてこの世界を壊したくはない。はぁ…どうしたらいいんだろ…。
「もう、傷はあまり気にならないようだな」
「あ、長老様…」
「あれほどの傷を受けたというのに、お前はもう傷のことを気にしないほどに回復している。人間とは、かくも生命力に満ちた生き物なのだな」
そう言うと、長老様は僕の横に座った。
「我らが同じような傷を受ければ、命すら危うくなるかもしれぬ」
長老様いわく、エルフは長命ではあるが、その命は決して強靭ではないとのことだった。コップ1杯の血で失血死にいたる場合もあるし、そこから回復するのに1ヶ月近くかかるというのだ。それは知らなかったな~。
「人間の多くはそのことを知らぬ。だから、自分達と同じだと思って襲い掛かってくるのだ。手足に矢が当たったところで、威嚇程度にしか思っていないのだよ。その結果、エレナの両親は命を落としたのだがな…」
へ!?エレナの両親?
「あれは、事故と言うべきかもしれん。二人が森に侵入した人間達に警告を与えた際に、人間の狩人が放った矢が足に当たってしまったのだ。その傷が元で、二人とも命を落とした。人間からしてみれば、急所は外している。しかし、我らにとっては命にかかわる傷だった。人間が我らのことを理解していれば、こんな結果にはならなかったのやもしれん」
長老様の表情がわずかに曇る。長老様は人間とともに妖魔と戦ったこともあるので、人間と不仲になるのがちょっと辛いらしい。でも、それは相当昔の話なので、今集落にいるエルフ達は知らないんだそうな。だから、集落のエルフは人間に対してあまり良いイメージを持っていないんだ。
「しかし長老様…それでエルフが人間と戦うようなことになれば…」
僕は問わずにおれなかった。若い世代のエルフは人間に敵意を持っている。もしも、エルフと人間が戦ったりすれば…。
「…おそらく、エルフは負けるであろうな。たとえ精霊の力を借りられたとしても、人間に数で攻められればひとたまりもあるまい。だからこそ、人間と競いこそすれ、争ってはならんのだ」
それがエルフが生き残る唯一の術であると、長老様は僕に言った。
「しかし、今や若い者達は人間を敵のように思っている。確かに仲間を殺し、住処を、狩場を荒らした憎い相手ではあるが、その思いだけで弓を引けば、必ずや人間はエルフを根絶やしにかかるであろう。一部の権力欲にかられた人間というのはそういうものだ。大多数の人間がそうは思っていなくとも、人間の社会では一部の力ある者がすべてを決定する。そうなれば、我らに未来はない。我らは、人間と手を取り合わねば生きてゆけぬのだよ」
そこまで言うと、長老様は一息ついて目を閉じた。僕と比べれば気が遠くなるほどの時間を生きてきた長老様だ。きっととてつもない記憶を持っているんだろう。その中のなにかを思い出したのかもしれない。
「ユウイチ、私はお前に人間とエルフの架け橋になってほしいのだ」
「ええっ!?」
な、なんだって!?僕がエルフと人間の架け橋になるって?(驚)
「そんな大役、僕には…」
「ふふっ、私の目は節穴ではないぞ。お前が我々に近い心を持っていることは分かっている。お前が人間であり、かつ我らの気持ちも理解できる存在であるからこそ頼むのだ」
「……」
なんだか買いかぶられているような気がするけど…
「お前をここに置いてやるのも、それを考えてのことだ。ユウイチ、やってくれるか?」
長老様が僕に問いかけてくる。正直、どこまでできるかわからない。エレナもあんなに人間のことを憎んでいるんだし…でも…
「…できるだけのことは、やってみます」
「そうか。頼むぞ、ユウイチ」
エレナの家に帰ると、彼女は弓の手入れをしていた。
「あら、帰ってきたの」
素っ気無い態度だけれど、これを変えられるように頑張らなきゃならないんだな。うん。
とはいえ、どうやったら彼女の心を開かせることができるんだろうか…。こんなことやったことないからなぁ…。どうしよ…。
「なによ、そんなところに突っ立って」
おっと、そうだった。入り口にぼーっと立っててもしょうがない。とりあえず中に入ろうか。
僕の傷がほとんど癒えてしまったせいか、彼女の態度はものすごく素っ気無い。どうやって話をすればいいのかも分からない状態だ。
(困ったなぁ…。どうやって彼女とコミュニケーションをとったらいいんだろう…)
床に座って、チラリと彼女の方に視線をやる。相変わらず彼女は弓の手入れをしている。こっちは丸っきり無視だ。もしかすると、このまま放置されるんじゃないかという心配さえ出てくる。(涙)
「…そうだ。今日は僕が夕食の準備をするよ」
静寂を破って僕がそう提案すると、エレナは弓をいじっていた手を止めた。そして、
「あんたが?」
と、疑わしげな表情で言った。
「あんたに何ができるのよ。森のこと、何もわからないでしょ」
「分からないけど、ここに住ませてもらってる以上、なにかやらなくちゃ悪い気がして…。じゃあ、せめてエレナさんが準備するのを手伝わせてよ」
僕の言葉を聴くと、エレナはため息をついて首を左右に振った。
「だめよ。家で大人しくしていなさい」
「でも、手伝いたいんだ」
僕の熱意が伝わったのか、はたまたエレナが折れたのか、彼女は木の実採りに僕を連れて行ってくれたのである。
「ほら、遅いわよ。そんなんじゃ、日が暮れるまでに木の実を採って家に帰り着けないわ」
さ、さすがにエルフ。身の軽さは折り紙つきだ。運動不足の僕じゃあ、まるで相手にならないよ。このふわふわして歩きにくい森の中でも、エレナはすいすい歩いて行くんだもんなぁ…。(泣)
エレナに怒られつつ、なんとか実が生っている木のある所までやってきた。
「いい?私が木に登って実を落とすから、あんたは下に落ちたのを拾うのよ」
「はい」
「拾ってる最中に上を見たら、今度は頭を射抜くわよ」
よほどパンツを見られたことがショックだったらしい。僕も下心があって手伝いを買って出たのではないから、彼女の警告に素直に従う。変なところで彼女の怒りを買ってもしょうがないしね。
そんなふうに木の実を拾っていると、突然バキッという音がした。
「キャアァァァ!」
とっさに上を見ると、エレナが無防備に落ちてくる!?
「わあっ!」
避ける間もなく僕は彼女の下敷きになった、と言うのが正しいのだろうが、一応僕は彼女を助けた形になった。うう…いった~…。(痛)
仰向けに倒れた僕の上にエレナがいる。不用意に彼女を受け止めて、大きなケガがなかったのは不幸中の幸いだったなぁ。彼女にもケガはなさそうだし…。
「う…」
エレナが小さくうめく。気がついたみたいだぞ。
「あ…あんた、私をかばって…?」
その問いに、僕は苦笑いを浮かべて答える。こうなることを意図していたとは言い切れないけれど、彼女を助けなければと一瞬思ったのも事実だもんね。
「私を、かばってくれた……」
エレナは自問するようにそうつぶやくと、立ち上がって服装を整える。ふぅ、やっとどいてくれたよ。いかにエルフの少女といえども、やっぱり重いや。さて、僕も起きようか…って、痛い!右腕が痛い!見れば、包帯に血がにじんでいるじゃないか。あぁ、無茶したから傷口が開いたんだ…。ちっくしょ~。やっぱり縫ってないから、傷の治りが遅いなぁ…。(泣)
「くっ…」
右腕をかばうようにして立ち上がる。これでまたしばらくは右腕が使えないのか…。あ~あ。(泣)
結局木の実採りはそれで終わり、エレナは家に帰るまで、いや、帰ってからもしばらく何か考えている様子だった。だから、僕の右腕の傷はほったらかしなのである。(泣)
出血がなかなか収まらないので、僕は外に出て包帯を外して傷の具合を確かめてみた。ところが、もう腕は血だらけで見るも無残なものだった。これじゃあどんな傷なのかもわかりゃしない。
とりあえず傷口を洗おうと、僕は集落の中で水を探した。人間の村とかなら井戸でもありそうなものだが、エルフの集落にはあいにくとそういうものはなかった。どうやら、水は付近の池などから調達するらしい。
(まいったな~。早いトコ、この出血をなんとかしなくちゃ…)
今は解いた包帯を再び傷口に巻きつけて止血しているけど、利き腕が使えないとあってうまく止血できていない。あふれ出るほどの出血ではないにせよ、血を流しているということに変わりはない。早く止血しないと危ないかも…。(汗)
そうして集落をさまよっていると、男のエルフに出くわした。
「お前は…」
一瞬間をおいて、男は僕のことを嘲る様にこう言った。
「無様だな。このエルフの集落に、人間がいることがそもそもの間違いだ。だれも助けてはくれまいよ」
どうやら長老様の言っていた比較的若いエルフのようだ。言葉の端々に、明らかな僕への敵意が感じられる。
「助けてくれなくともかまわない。せめて、水のある場所を教えてもらえないかな」
「ふん。お前の血で池を汚されてたまるか」
うう、素っ気無い返事…。僕が少しヘコんでいると、
「エクリード、そう邪険にすることもないだろう」
と、後ろから僕を援護してくれる声がした。
「アゼル…」
僕を非難したエルフは、声の主を見るなり罰が悪そうに去っていった。いったい誰なんだ?
「君がユウイチだな。私はアゼル。長老から君に助力するよう、頼まれている」
彼はそう言うと、僕の傷の具合を確かめてくれた。
「これはいかんな。すぐに傷を洗って、薬草をつけなおそう」
「すいません」
「気にすることはない。長老のお言葉だからな」
そうか。この人は長老の言うことを聞いているだけなんだ。そうだとしても、人から親切にしてもらえるってうれしいや。
彼の家の前で傷口を洗ってもらい、薬草を付け替えてもらっていると、
「ユウイチ~」
と、聞き覚えのある声がした。
「エ…」
「エレナ」
僕の声をさえぎるように、アゼルさんがエレナを呼ぶ。おかげで僕は間抜けにも口をぼんやりと開けてしまった。(恥)
「アゼル、あなたがユウイチの傷の手当てを?」
「ああ、そうだ。自分で傷をなんとかしようとしていた彼は、集落をうろついていたときにエクリードにからまれていたのだ。私が通りかかったから良かったようなものの、そうでなければユウイチは集落から放り出されていたかもしれないぞ」
「…そう……ごめんなさい…」
エレナはしおらしく謝った。そして僕の方に向き直り、こう言ったのである。
「私、あなたにも謝らなくちゃ…」
「えっ?」
思わぬエレナの言葉に、僕は耳を疑った。ついさっきまでは僕に敵対心を見せていたのに…。
「私は最初、あなたの事を恨んでたの。あなたが人間だというだけで…」
そうか。やっぱり、長老様の言われたとおりだったんだ。
「しょうがないよ。エレナさんが人間に恨みを持つ理由、長老様から聞いたから…。恨まれても仕方ないと思う。いくら別の世界から来たとはいえ、僕は人間なんだからさ」
僕はあんまり頭が良くないから、何をどうしゃべったら相手の心を動かせるか、なんてわからないんだけど、でも、今がエレナの気持ちを変えるチャンスだと思う。何か言わなきゃ!
「エレナさん、僕、お昼に一言言われて、すごくショックだったんだ。この森を出て行こうと思ったし、僕がこの世からいなくなれば…なんて考えたりもした」
僕がそう言うと、エレナははっとなった。何を感じたのかはわからないけど、服の胸のところをぎゅっとつかんで切なそうな顔をしている。
「でも、そのときに長老様が悩みを聞いてくれて、そして教えてくれたんだ。エレナさんの過去の事を…。そんな事があったら、人間を恨んでも仕方ないよね。僕だってそんな目にあったら、きっとエレナさんと同じことをすると思う。それとね、長老様はこの集落の行く末の事も話してくれたんだ。エルフは、子供を産む事に人間ほど執着しないから、人間がその勢力を伸ばすのについてゆけない。だから、エルフだけで今のように森を守り続けることは、これから先難しくなるだろう、って…」
僕がそこまで言うと、アゼルさんが後を続けてくれた。
「現に、フィオーラを最後に新たな命は生まれていない。このままでは人間の勢力に押し流され、我々は生きるべき森を失う事になるだろう。そうならぬように、人間と交わりを持たなくてはならないということだ。分かるな?」
アゼルさんの言葉に、エレナは静かにうなずく。
「そうなった時、人間に対する不信感や敵対心を持ち続けていたのでは、人間との交渉はうまくいくどころか、関係断絶という最悪の結果を招きかねない。人間と敵対関係になれば、数で圧倒的不利な我らに勝ち目はないだろう」
「長老様は、そこまで見越して、僕にひとつの頼み事をされたんだ。若いエルフ達から人間への敵対心を取り除いてくれ、と。僕に対する敵対心をなくせば、人間への敵意も減らすことができるんじゃないか、ということみたいなんだ。それを聞いたとき、僕は命をかけてやり遂げようと思った。どうせ、自分の世界に帰れるのかわからないし、この世界で死んだとしても惜しんでくれる人もいない。なら、少しでも世話になったこの森のエルフ達の役に立とう。そう思ったんだよ」
思い当たることは全部言った。これでエレナの気持ちが変わらなければ、僕はもうエレナのところにいられないだろうなぁ…。
でも、そんな心配は不要だった。エレナが、
「知らなかった…。私は一方的にあなたを敵と思っていたのに、あなたは私達のことをそんなに…」
と言って、僕の手を握ってくれたのである。
「私が木から落ちた時も、あなたは身を挺して私を守ってくれたわ。私はあなたに、あんなひどい扱いをしたのに…」
彼女の目から涙がこぼれる。よかった…。彼女は僕に心を開いてくれたんだ…。
「人間にも、ユウイチのように心ある者はいる。同族で争い、互いを欺きあうだけの存在ではないのだよ、エレナ」
「うん…」
かくして、僕はエレナの心を開くことに成功したのである。しかし、まだこの集落には人間に反感を持っているエルフ達がいる。でも、エレナやアゼルさんの協力があるのなら、きっとなんとかできるさ!
3
エレナが心を開いてくれてから一週間(曜日の概念があるのかは知らないけど)が過ぎた。彼女と一緒の生活にも随分慣れたし、フィオーラみたいに人間に対してわだかまりを持ってないエルフともけっこう仲良くなれた。持ち前の器用さを活かして、日用品の製作や家の修理を請け負ってきたからね。それが集落の中での僕の評価を上げているらしい。エルフって生活に必要なものはだいたい自分達で作っちゃうんだけど、物に執着しないからこだわって作る事はないみたいなんだよね。だから、用さえ足せればそれでいい、みたいな道具が多い。例えばスプーン。液体がすくえればいいからって、取っ手とかは荒削り。すくう部分にしても、もう少しどうにかなるだろ、おい、みたいな形をしているものがよくある。僕はそういう部分にこだわりをもって作るから、僕の作った道具は使いやすい、ということになるらしい。そんなわけで、エルフの村では器用な人間として名が売れてしまったのである。技術・家庭科が3だったこの僕が。(笑)
ところで、今日から弓の修行を始めるらしい。森の一員として暮らすのなら、いざというときには森を守るため、仲間を守るために戦わなくてはならない。長老様にそう言われて、僕はこの森で一番の弓の名人であるヨセブに師事することとなった。
「ユウ、そろそろ行くぞ」
「はい」
アゼルさんに連れられ、僕はヨセブを訪ねた。森一番の弓の達人と聞いて少し緊張していたが、彼はまだ400年程度しか生きていない若いエルフだったのだ(この世界のエルフの平均寿命は1300年~1500年。エルダーと呼ばれる古い種族のエルフになると、永遠に生きるとも言われる)。聞けば、エルフは若い頃にしか武器に頼った戦い方をせず、年をとると精霊の力を使って争いを避けるようになるらしい。
「君がユウか。長老から話は聞いているよ」
「よろしくお願いします」
挨拶をすませると、アゼルさんは何処かへ行ってしまった。
「さっそくだが、弓がどういうものかは知っているかい?」
異世界の人間だと紹介されているから、そういう知識の確認から入ったんだろうな。
「ええ、知ってますよ」
「じゃあ、話は早い。まずは弓を作るんだ」
へ?作る?(惑)
「あの…弓を作るんですか?」
「そうだよ」
ヨセブはあっさりと答える。
「己に合った弓を使う事で、実力のすべてを出すことが出来る。手の長さに合わない弓なら使いにくいし、力に合わない強さの弓なら技術が身につかない。どんな弓でも、使っていればうまくなるというものではない」
ふぅん…。そういうものなんだ。
「だから、自分に合った弓を作ることから始める。僕達が使うのは、一本の枝を使って作るものなんだ」
なるほど。ファンタジー世界で言うところの『セルフボウ』というやつだな。日本で言うと『丸木弓』か。弾性とねばりのある枝に弦を張って作る簡素な弓だが、自分で手軽に作れるというのが強みだ。もちろん、手軽に作れるものだから、射程距離や殺傷能力はたいしたものじゃないけどね。
「森の木を使うんだから、当然精霊の許しをもらわなくちゃならない。今日は弓にする枝を探して、それを成形するところまでやることにしよう」
よもや弓を作るところからやるとは思わなかったが、それはそれで楽しいかもしれない。(喜)
かくして森に入った僕は、ヨセブの先導でトリネコの木がある場所まで歩いて行ったのである。最近になって森歩きにも多少慣れたものの、やはりエルフに比べると遅いんだよなぁ。もう少し体を鍛えた方がいいのだろうか…。
「ようし。ついたぞ」
見れば、そこには見事なトリネコの木が立っていた。
「この木の枝をもらうんですか?」
「ああ、そうだ。この木は、僕が知ってる限りでは最も質のいい木だ」
ヨセブはそう言うと、目を閉じてなにやら不可思議な言葉をつぶやき始めた。
この言葉、エルフの間では『精霊語』と呼ばれるもので、精霊と会話する際にはこの言葉を使わなくてはならないらしい。僕もこの言語を学ぶように言われているんだけど…なかなかねぇ……。(苦笑)
ヨセブが精霊語でしばらく呼びかけていたが、一向に精霊が姿を見せる気配はない。
「おかしいな…」
さすがにヨセブも首を傾げた。普通なら最初の呼びかけで姿を現すはずなのだ。
「君がいることで、精霊が警戒しているのかもしれない。精霊語は使えるかい?」
「いえ、それが…」
情けないことに使えないんだよねぇ~。(泣)
「じゃあ、心の中で精霊に出てくれるよう祈っていてくれ。精霊は心を読むから」
そして、ヨセブが精霊語で呼びかけをすると共に、僕は少し後ろで精霊に出てくれるよう心の中で祈った。
(トリネコの精霊よ、どうか出てきてください。お願いします)
こうして呼びかけること数分、ようやくトリネコの精霊が姿を現してくれた。精霊やニンフの例にもれず美人で、すごくおしとやかなイメージだ。
精霊が姿を見せると、ヨセブが何か話し始めた。もちろんヨセブは精霊語で話しているから、僕にはなんのことやらさっぱりわからない。しばらく後ろで控えていると、精霊がこっちに近づいてきた。そして僕の目をじっと見つめる。な、なんだろう?こんな美女に見つめられたら、変に緊張してしまうな。(汗)
『あなた、植物の痛みを考えたことある?』
なっ!なんだ!?頭に声が!?
僕が突然のことにうろたえていると、ヨセブがポンと肩をたたいて、
「精霊が君に話しかけているんだ。精霊語が話せないからと説明したから、共通語で話してくれているんだよ」
と、事情を説明してくれた。そうか。精霊は言葉を音として発するのではなく、直接意識になげかけるんだった。だから耳を通さずに頭に声がしたんだな。
「ど、どうすれば?」
「大丈夫。共通語で語りかければ、理解してもらえるよ」
そうか…。よぉし。
「植物の、痛み…ですか?」
『そうよ。植物だって痛みを感じるわ。あなたはそう考えたことはある?』
トリネコの精霊にそう問われ、僕は悩んだ。植物をいたわりはするものの、痛みまで考えたことはなかった。だけど、嘘をついてもすぐにバレると思ったから、僕は正直に答えることにした。
「いえ、考えたことはありません」
これで認めてもらえなければ、僕専用の弓はあきらめるしかないのかもしれないなぁ…。
待つことしばし。トリネコの精霊は目を閉じて小さくうなずき、
『…正直なのね。いいわ。これからはその痛みが分かる様に努力してね』
と言った。どうやら僕の事を認めてくれたらしい。トリネコの精霊はその後に、自分の宿り木で作る弓では無闇に他の命を奪ってはならないという条件を出してきた。
「どうしましょう?」
「いいじゃないか。彼女の条件を飲まなければ、いい弓は作れない。狩りをするにしろ、必要のない命を奪うわけではないからな」
と、いうわけで、僕はトリネコの精霊の条件を飲むことにした。トリネコの精霊はにっこり微笑んでうなずき、自分の宿り木の中へと姿を消した。そして、一本の枝が僕達の目の前に降りてきたのである。
『この枝を使って、弓を作りなさい。きっとあなたの満足できる弓ができるはずよ』
ものすごく神秘的な儀式を終え、僕とヨセブは無事に弓となる枝を持って集落へと帰ったのでありました。はぁ…トリネコの精霊、美人だったなぁ……。(惚)
枝をもらって集落に帰ると、エレナとフィオーラが迎えに来てくれていた。
「どうだった?」
「うまく枝をもらってこれたの?」
2人ともまるで僕のことを子供扱いするんだから…。大丈夫だよと答えはするものの、なんとなく釈然としない。
「エレナ、フィオ、ユウも子供ではないのだから、そう心配することもないだろう」
ヨセブが援護してくれるものの、
「だって、ユウは私のところの居候なんだもの。心配するのは当然よ」
「そうよ。見るからに頼りないんだもん」
とほほ…。フィオに思いっきり言われてしまった。(泣)
そうなんだよね~。僕、どことなく頼りないとよく言われるんだよ。エレナ達もそう思ったらしく、なにかにつけて僕をフォローしようとしてくるんだ。も~、僕だって16歳なんだから、多少のことは自分でできるってのに…。(凹)
でも、フィオの場合は少し違うらしい。前にアゼルが言ったように、彼女はこの集落で最後に生まれたエルフだ。つまり、彼女より年下はここにはいないという事。そこに年下の僕が来たものだから、僕のことを弟かなにかと思っているんだそうな。そりゃ、僕も一人っ子だから気持ちは分かるけれど、何かある度に子ども扱いされてたんじゃ、ちょっと情けないよなぁ…。
ともかく、もらって帰った枝はヨセブの指導の下、削ったり曲げたりを繰り返し、ようやく弓の形になってきた。でも、使えるようになるにはもう一手間加えて一晩おかなくちゃならないらしい。だから、今日は枝をもらって弓を成形するまでしかできないんだそうな。
かくして、なんとか自分の弓を手に入れた僕は、それから1ヶ月の間、ヨセブのもとで弓の修行に明け暮れたのでありました。そしてようやくヨセブから合格点がもらえるようになったある日、その訪問者はやって来たのでした。
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