第9話 太陽だって楽したい

「だーかーらー!あんな放送を引き受けたりしなきゃ良かったのよ!」

「ま、まあまあ。割とさ、ほら心に響いた!って人はいたでしょう?ね!ほら、スマイル!アルカイックスマイル!」


 その夜、二人はおお揉めに揉めていた。


「まあまあ、そう言わないで!仲良くいきましょう!」

「だあれのせいでこうなってんのよ!」

「彩!父さんはなあ!そんなこと言うようになって悲しいぞ!あ、まあ反抗期的なことがなかったんだから、ちょっと成長したのかって嬉しさもあるわけだが」

「そんなの関係ないでしょう!!」


 理由は簡単。

 例のテレビの生放送はすったもんだだった。

 約3分で、自分のアピールをするのだが、自己紹介と勘違いした俺は意気込みなんぞよりも、好きな涼子ちゃんの料理を答える始末。

 政策論争では、「経済」「外交」「選挙制度」の三つのテーマをそれぞれ話すのだが、やはり県議会議員としての誇りなのだろうか、松永さんの言葉にはみんなが頷いていたりした。

 俺はやっぱり、感情!素直さ!これをアピールしたのだが……それがどう支持されるのかはわからない。


「まあ、冷静になりなさい。私も高坂君の話を聞いていた。やはり政策面では甘いところはあったし、この世界の制度に即していない部分もあった。もっと言うならば、間違いもあったくらいだ。しかし、それでも君がこの世界に来て間もないことくらいはみんな分かっている」

「でもパパ、だからこそそんな人には任せたいなんて思わないんじゃない?」

「そうだねえ。そういう層が何割くらいいるのか……。でも邪道な話をするとだね」

「邪道な話?」


 思わず、首をつっこんだ。

 食事を終え、そのままリビングで椅子に腰かけたまま座る。

 俺の左隣が泰士さん。向かいが涼子ちゃん。その左に彩ちゃんといった具合だ。

 食器は片付けられていて、今は紅茶を飲みながらの作戦会議兼反省会となっている。

 涼子ちゃんは、あたふたと泰士さんと彩ちゃんの顔を交互に見ている。

 その仕草がなんとも小動物みたいで可愛い。


「ああ、邪道な話だ。この選挙区はやはり憲伸党の支持勢力が強いんだ。つまり、何事も問題がない場合だけど、高坂君は既にリードしている状態と言って良い。でも相手は現役の県会議員で、彼自身の評判は良い。ここでイーブン。しかし、松永候補には、父上の評価が付きまとう。その評価は良くないからね。やっぱり僅かの差で、高坂君に軍配は上がるんだよ」


「ってことは、今はリードしているんですかね!」

「そんな甘くないわよ」

「え、そうなの?」

「ああ。やはり実務能力を考えるならば松永候補にすべきだろう。そう考える人たちも、たくさんいるはずだ」

「で、でも……譲さんが言っていた、あの演説ではすごい支持があったみたいだから……」


 涼子ちゃんは、そう言ってフォローしてくれる。

 相変わらずのメイド服。今日は少しスカートがふりふりになっていた。


「そうだね。あれはかなりのインパクトがあった。それは事実だ。だからこそ、面白いと思っている。ここまで肉薄できたのも、やっぱり高坂君だからだよ。いやあ~、人を見抜く力に長けてるのかなあ!」


 そう泰士さんは笑っているが、彩ちゃんは対称的だった。

 額に手をやって、はあ~~とため息をついた。


「もう、時間はないのよ!これからはもっと外で活動するから!過密スケジュールよ!良いわね!」

「高坂君!頑張って!期待しているよ!」


 俺はそのスケジュール表を見て度肝を抜かれた。

 分刻みの時間で、一日に4か所を回るというものだった。

 もう時間はない……。

 やれるだけはやろう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る