第6話 鯛では海老を釣れない
あれから、憲伸党の県支部に行った。
こっぴどく叱られるのだと思っていたら、意外と職員の人たちは快く迎えてくれた。県支部の支部長室に通された。
名前は、
もともと、星家は弁護士業をしていたのだという。そこから、政治家に通さんの曾祖父が転身してからは代々、弁護士と議員を両立している名家らしい。
こういったところも、非常に自分の世界の日本と変わりがない。
ただのパラレルワールドなんだな、と実感した瞬間であった。
「まあ、座ってよ。それと安達さん、どうも御足労かけましたね」
「いえいえ。じゃあ、後は宜しく頼みましたよ」
って、いっちゃうんかい!
という目つきをした。しかし、向こうは閣僚なのだ。致し方ない。
「高坂君、また夜に話せたら、ね」
「はい……」
ふかふかなソファーに腰かける。
半身沈んでしまうんじゃないか?これは……。
正面には綺麗なガラスで出来た楕円形の机。縁には唐草文様のした木彫りが付いており、職人の技術が詰まったようなものだった。
その先にまた卓がある。これが支部長席なのだろう。
星さんは席を立つと、自分の座るソファの前まで来た。
やや小太りではあるが、眼鏡の向こうからは温和なおじさんという印象を感じる。
「今日の演説。最後の言葉。直接ではないけど、聞かせて貰ったよ」
「は、はい……」
「なかなか、良いんじゃないかな」
え?
これは……謝罪に行くっていうから……。
怒られるんじゃあ、ないの?
「我が党とて、君が言ったことは正しいと思っている。だけど、よ。この世界中で、それを実現している国はないの実情なんよ」
「つまり、選挙する権利があるのは限られた人だけ、と?」
「うむ。そうなる。仮に考えてほしい。もし、今それを解禁したとしたら。当然、女性票や無党派層、異世界から来た人たちを支援する組織は、みんな民正党に投票する。そうすれば、我々は与党ではなくなる。当然、それが民意なのであれば仕方がない。だけど、よ。彼らの政策は他にもある。そこは譲れないところもあるわけなんよね」
要は、今それを良しとすれば憲伸党は弱体化する。そして、政権が取られることで、さらに政治は悪くなるということなのだろう。
「でも。我が党にも、君みたいな意見をする人間もいる。こんなに大々的に宣言した人はいなかったがね!」
そう言うと、星さんは笑い出した。
「なるほど、良い目つきをしている。君はこの国に来て日が浅い。しかし、これは武器になる。発想が自由に出来る。人の心に寄り添えて、柔軟な考えを出来る君は、政治家に向いているよ。あの人が認めただけはあるね」
「そう、でしょうか……。結局は迷惑を掛けただけなんじゃ」
「そんなことはない。みんな、この世界に来てすぐの君が我が国の全てのシステムを把握しているとは思っていない。つまり、彼らは何を見ているのか?それは人柄だよ。真心。君はそれを見せただけなんよ」
それからは、君は政治家にならなければいけない!と力説された。
謝る必要もないと言われた。
部屋から出ると、彩ちゃんがやはり腕組をしながら待機していた。
そこに職員が割って入る。
「僕!感動しました!あんな堂々と言えちゃうんですもん!」
「私もです!高坂さん!絶対当選してください!」
てんやわんやだった。
しかし、安心したこともある。
ここの国の人たちは温かく、ちゃんとした政治家もいるのだということ。
何より、自分は間違っていなかったのだということだった。
「ぼさっとしてないで。帰るわよ」
「ああ、うん。涼子ちゃんは?」
「先に帰って夕飯の準備をしてくれてるわよ」
「じゃあほら、行くわよ」
本来ならばこの子は、泰士さんに付いていなければならない。
それを、ここで待たせていたのは泰士さんの考えだろう。
階段を降り、車に乗る際に見た彩ちゃんの横顔は、少しにこやかだった。
俺の勘違いかもしれないけどね。
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