第4話 後悔は所詮、一時だけのモノ

「だああ~!もうっ!なんで理解しないのよ!」

「難しいんだもん!頭良くないんだから!」

「本当に同い年なわけ??」


 厳しい手ほどきを受けている。政治に関する知識だ。やれ、政府組織がどうだのと意味の分からないことを話してくる。

 話を涼子ちゃんから聞いたら、彩ちゃんは成績優秀で18歳で大学を飛び級して卒業しているのだという。


「頭が良かったら浪人なんかしてないんだから!」

「胸張って言うことじゃないでしょ!」

「要は、だ!この国は俺と同じ日本で、当然天皇陛下もいらっしゃる。だけど政治のトップには総理大臣がいるんだろ?それだけ分かれば良いじゃんか~。もう俺優秀な部類じゃないの?」

「な訳ないでしょ!良い?明日もう演説するのよ?しかも推薦人はパパなんだから!絶対に恥とかかかせないでよ!」


 こうして文字通りの夜の特訓が終わった。

 しんどかった。正直、センター試験からの呪縛から解き放たれた安心感がかったのに!


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―――


 よく寝た。

 友人たちは緊張したりすると寝られんばい!って言うけど、。俺は無縁だね。プレッシャーを感じないからね。ついでに言うと罪悪感も。

 だから浪人するんだろうね。

 しっか間取り図渡されてもまず、洗面所から分らないもんね。


 とかなんとか言いつつ、お手伝いさんの手も借りてスーツに腕を通す。

 初めてのスーツ姿は……

 まったく似合っていない。


「なんかさあ」


 と、俺は鏡と睨めっこをする姿を見守る彩ちゃんに話しかける。


「慣れないものを着てる、おぼっちゃまって感じじゃない?」

「何着たって一緒よ、あんたは」


 確かに。

 本当に正論を言うから、この子には何も返せない。


「大丈夫です!結局は、話す内容ですから!見た目じゃありません!」

「そうだから心配なんだよ、涼子ちゃん」


 二人はあとから合流してギャラリーとして参加する予定だ。

 自分は、高そうな車の助手席に座って先に移動する。

 運転手は気さくに話しかけてくれていたが、こっちは腹痛でそれどころではない。


なんだよ……、俺めっちゃプレッシャー感じてるんじゃないの?!


目的地に近いのかも分らないが、渡されていた携帯に電話が掛かってきた。


「やあ、おはよう!」


 軽快な挨拶がすごくいらっとするが、間違いなく泰士さんの声だった。


「いやあ、みんな全然協力的じゃあない訳よ。上はおかんむりね」

「そりゃあそうでしょうねえ!」

「まあまあ、それは良いとして聞きたまえ。立候補者は君と、松永久光まつながひさみつの二人だ」

「二人とは少ないですね」


「あたり前だ。我々、『憲伸党』《けんしんとう》は嫌々だが高坂君を公認候補にしている。つまりは応援しているんだ。そしてそのライバルでもある『民正党』《みんせいとう》は松永候補を擁立したのさ」


 昨日の彩ちゃんの話では、この国は二つの政党がしのぎを削っている。

 一つは憲伸党。これは泰士さんも所属している政党で、歴史もかなり古いらしい。今の総理大臣もこの党に所属している。


 一方で、対立しているのが民正党。こちらは元は、憲伸党だったが数年前に分裂してしまったのだという。党首はかなり若いらしいけど、よくわからない。


「良いかい?松永は父親も議員だった。それも貴族議員だ」

「貴族議員、ですか?」

「ああ、聞いてない?この国は衆議院と貴族院の二つがあるんだよ。衆議院はこうやって選挙をするけど、貴族院は税金の量とかで決まるんだ」

「つまり、松永候補はお金持ちと?」

「まあね。もっと言ってしまえば、地元の人間によく知られているし。権力はあるだろうな」

「なんで彼は貴族院議員ではないんですか」

「さあな、要はボンボンなんだろうね。ま!そこは高坂君!君とは違うところだよね!」


 何を言っているんだこの人は……

 そうして最終打ち合わせをすると、駅前に着いた。

 自分の名前が墨で書かた横断幕も出ており、眩暈がしそうになる。

 あとは時間が来るまで待機だ。


 あと数分。

 いろんな関係者に挨拶をする。


 ポケットに手を突っ込み、カンペの確認をしよう!いや、普段の試験じゃあしないんだけどね!今日は仕方なく、仕方なくね!

 って、あれ?

 ない!


「ああああああ!しまたあああ!」


 車の中だああああ!

 電話が来た時に、ポケットから携帯を出そうとして落っことしたんだ!


「それでは!憲伸党、新人候補者!高坂さんに出てきて頂きましょう!」


 勢いよく、マイクを握るのは党の関係者。

 ちらと用意された選挙カーの横から、聴衆を見ると……

 まるで人がアリのようにいるじゃないか!


 おわった……

 アドリブだ。そう、アドリブでいこう。それか踊ろうか……

 泰士さん、こうなったのもあなたのせいですからね!!

 俺は、意を決して飛び込んだ。

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