ギニーアンドガールズワルツ

門棚 祝

ギニーアンドガールズワルツ

 秋、日が暮れるのが少し早くなる季節の午後四時、下校の鐘と共にアナウンスが流れる。

グラウンドで遊んでいた少年達や教室でお喋りしていた少女達はその鐘の音と共に帰路へとつく。

 ガランとした誰もいない教室の中、一人下校の準備をしていた小学六年生の押切 瑪瑙もその一人だった。瑪瑙以外誰もいない放課後の薄暗い教室は昼間の賑やかさを失い、その雰囲気が瑪瑙を震えさせる。

瑪瑙が鞄に教科書を入れ、教室を後にしようとしていた時だった。


「めーのちゃん」


 一人の少女が瑪瑙に話しかけた。


「りっちゃん?」


 瑪瑙を呼んだのは内藤 律、彼女は瑪瑙と同じクラスの友人で女子にしては身長が高く明るく発言力のある生徒で瑪瑙の親友だ。律は続けて言葉をかける。


「一緒に帰らない?」


「うん、いいよ」


 正直、瑪瑙は薄暗い帰り道を一人で帰るのが少し嫌だった。そんな中、律に声をかけられ、少しホッとする。そして仲良く校門を出る事となった。

 下校時、他愛も無い話で盛り上がっていた時、突然、律が切り出した。


「……ねぇ、知ってる?」


「何を?」


 瑪瑙は疑問を投げる。

そこで律がニヤリと笑う瞬間を瑪瑙は見逃さなかった。


「今さ、噂になってる話。「サライ」だよ。子供をさらっていく変人で、顔の皮が剥がれてるんだってさ、怖いねぇー」


 律はニヤニヤしながら話す。瑪瑙がこういう話が苦手なのを知ってのことだ。


「えー、そんなのただの噂だよ……」


 瑪瑙は強がっていたものの内心びくついていた。そしてそれをお見通しなのか相変わらず律はニヤニヤしていた。


「もう、私がそういう話苦手なの知ってるくせに!」


瑪瑙は少しふくれっ面になりながらも抗議する。


「あはは、ごめんごめん。でもそういう時は常に『冷静に臨機応変に』だよ。そうすれば怖いものなんて無くなっちゃうさ」


 律は笑いながら助言を述べる。そして前を向くと個人経営で喫茶店をやっている女性を見つけた。

いつも帰り道に通っているので二人とも顔見知りでもあった。その女性は表で枯葉を掃いていた。


「あ、おばさんだ、こんばんはー」


「こんばんは」


「あら、今晩は、今日も寒いわね」


「はい、風邪ひかないように気をつけます」


「そうね、それと気をつけて帰りなさいね」


「はーい」


 瑪瑙と律は挨拶を終え、その女性へと手を振った。その女性もニコニコしながら手を振り返した。




  ※    ※    ※




「私こっちだから、それじゃあね、めのちゃん」


「うん、じゃあね、りっちゃん気をつけてね」


 ここで二人は別かれた。

四時とはいえ、薄暗くなってきている中、瑪瑙の頭の中では、先程の噂が頭から離れなかった。

怖かった。怯えながら帰る。


「もしもし」


「!!」


 体がビクンと跳ねる。瑪瑙の後ろからいきなり誰かが話しかけてきたのだ。


(怖い怖い怖い怖い怖い)


 頭が警報を鳴らしている、「振り返ってはいけない」と後ろの人の気配が異常にまで感じられる。

瞬間、頭に衝撃が走り、意識が遠のく。倒れかけた所に後ろの人の大きな腕が瑪瑙の体を支えた。静かに

意識が遠のいていく中、帰ったはずの律の姿を確かに見かけた。


「放せ、この変質者!!」


 律は思いっきり睨みつけブザーを持ちながら叫んだ。

そこで瑪瑙は




   ※   ※   ※




―――暗転



 気が付けば目の前は真っ暗だった。体を動かそうとしても縛られているのか動かす事が出来ない。

分かる事といえば、椅子に体を拘束されているという事と開口具を付けられているという事だけだ。

 そこへ聞き覚えのある声が聞こえた。


「こんな事してタダですむと思うんですか!?」


 律の怒声が聞こえた。そして続けて言う。


「私達の帰りが遅くなり、親は心配します。そうすればいずれ警察が動きます!」


はたして誰と話しているのだろうか、目隠しをされている瑪瑙には分らなかった。


「警察ねぇ」


声がした。男の声だ。


「分ったなら早く私達を放しなさ」


「君は随分と賢いけどお喋りな子だねぇ、そして今自分が置かれてる立場が全く分っていない」


「?」


 突然、鈍い音がした。連続した鈍い音、そして律ちゃんの曇った声。

しばらくその音と律の嗚咽が聞こえた。


「ふぅ~、お友達がどんな素敵な顔になったか見せないとね」


 男はそう言い瑪瑙の目隠しを取った。

周りには、ボロボロの一つのベット、タンス、テーブルとイス、シンクに小さな冷蔵庫。

そして


「!!」


 目の前には顔がパンパンに腫れた律の姿があった。


「……あ」


 声が漏れる。


 律の姿が見えると同時に男の姿が見える。

男は顔に豚のマスクをした巨漢だ。

 そして余りにも変わり果てた友人の姿とその男の姿に呆然とした。


「さぁ、もっと素敵な顔にしてあげようか」


 そう言い律ちゃんへと近寄っていく豚男。

律は放心状態だったが、かすかに声が聞こえた。


ごめんなさい


ごめんなさい


ごめんなさい


 瑪瑙はすっかり気が動転してしまい、頭が真っ白になった。


「おほっ、さっきまでの威勢はドコへ言ったのかな?」


 豚男はひょうきんな声を出して言う。

そして律を縛っていた手のロープをほどき、片手を掴み


「タルタルは好きかな?」


 豚男が問いかけるが、瑪瑙は言葉を忘れてしまったかのように黙った。


「おいしくなる為の道具だよ」


 そんな瑪瑙を無視し、豚男は電動のひき肉機を取り出し、テーブルへと置いた。

律は今から自分が何をされるのか理解したかのように血の気が引いた。


「い……いや!いや!いや!ごめんなさい!ごめんなさい!!」


 律は拒絶し、つたない声で謝るが、豚男は無慈悲にも律の手を、スイッチの入れたひき肉機へと突っ込ませた。

 ひき肉機の出口からから血がビュルッと出る。

それと同時に血と肉と骨がどんどんとミンチになっていく。

 律は獣のような声をあげ足をばたつかせていた。

その異様な光景に瑪瑙は粗相をしてしまった。

 丁度手首がミンチになったあたりに豚男は律の手をミキサーから引き抜いた。

律はゼェゼェと息を荒げていた。

 手首がない律を豚男は止血し、血のにおいが漂う部屋の中、ミンチになった律の肉を調理用漏斗に入れる。

 そして、瑪瑙に近寄り、調理用漏斗を瑪瑙の口に無理矢理突っ込んだ。


「お友達の味はどんなかな?」


 瑪瑙はそれを拒絶したが、豚男はそんな瑪瑙の頬にフォークを突き刺した。


「んん!」


フォークが瑪瑙の頬からぷらぷらしていた。そしてその隙をついて豚男は調理用漏斗を瑪瑙に咥えさせペットボトルに入った水を口に流し込んだ。

血生臭と息ができなく嗚咽を堪えるが、酷い血と肉の臭い。耐えられるものではない。

ようやく律のミンチを全て飲み、そこで瑪瑙は息を荒げながら激しく嘔吐した。

涙と鼻水が止まらないまま嘔吐を続ける。

その姿を見てか豚男は満足げに律と瑪瑙に目隠しをし、開口具を取り外しドアの開く音がした。

 ようやく嘔吐が止まり、呼吸が整ってきた瑪瑙は律に話しかける。


「りっちゃん、りっちゃん!!」


 瑪瑙は律に声をかけるも律は放心状態で返事は返ってこなかった。

狂気を孕んだ豚男に捕まってしまったこれからの運命に瑪瑙は考えを巡らせた。




   ※   ※   ※




 「……ん……」


 朝方、瑪瑙はぼやけた視線で周りを見渡した。

どうやら眠ってしまったらしい。

 こんな状態でも人は眠りにつけるものか。

そんな事を思いながら瑪瑙は部屋の気配を感じようと静かに息をする。

 律の息がかすかながら聞こえるが、かける言葉が浮かばない。

自分が置かれている立場を考えると、普通、友人の事など構ってはいられない。

 だが瑪瑙は律の心配をしていた。これから自分に降りかかってくる悪夢も知らないで。


「……ママ……パパ……助けて……」


 静かに息をしながら律は呟く。


「りっちゃん……」


 こんな律の発言は普段見られない。


「うっ……めのちゃん」


 律が話しかける


「何?りっちゃん……」


律は目隠しを自力でとり、瑪瑙へ近づき、瑪瑙の目隠しを取り、椅子に拘束された瑪瑙を解放した。


「……めのちゃん……よく聞いて……私が時間を稼ぐから、ここから逃げて警察へ行って……」


「でもそうしたらりっちゃんは!?りっちゃんはどうなるの!?」


「……大丈夫……私はどんな手を使っても生きて帰るからね……」


律は笑顔で答える。その目には涙が滲んでいた。そして続けて


「めのちゃんが助けを呼んでくれれば私も助かるしね……」


「りっちゃん……」


――――私が頑張れば、りっちゃんを助けられる。


「うん、わかった!」


瑪瑙は涙目で答えた。


「それじゃあ」


 その時だった。

ミシリミシリと何かがこちらに向かってくる音がした。


「!!」


 律は急いで瑪瑙に目隠しをし、そして自分にも目隠しをした。

瞬間ドアが開く音がした。


「おはよぅ、良い天気だねぇ」


部屋に豚男が入ってくる。


「さぁて今日は何をしようかな」


豚男は今からする行為を楽しんでいた。


「……子供相手にそういう事しか出来ないくせに」


律は挑発する。


「おやおや、昨日あんな目にあってもそんな口を利けるなんてねぇ」


 豚男は静かに言う。


「今日はソーセージにしようか」


豚男はそう言うと、律をテーブルに寝かしつけ固定した。


「それじゃあ始めようか」


 律は豚男を睨み付けた。そんな律を無視し豚男はヘソのあたりに深くペティナイフを刺し、そのまま横に切れ目を入れた。


「んぐっあああああああああ!!!」


 麻酔も何もしていない状態での行為だ。律に激痛が走る。その声を聴いた瑪瑙はまた酷い事をされているものだろうと感じた。

 豚男は律の腸の一部を抉り出し、有刺が付いた短い棒に腸を絡ませ、棒を回転させた。


 言葉にならない声と共にどんどんと律の腸が有刺のついた棒に絡まり、引きずり出されていく。

目隠しされたのが幸運だったか、瑪瑙はその姿を見ずにすんでいた。

 豚男は作業でもしているかのように淡々と棒を回し続けた。そして棒にある程度絡まった腸を見て豚男は腸をペティナイフで掻っ切った。

 ヒューヒューと律の息使いが瑪瑙に聞こえる。

豚男はとどめと言わんばりに律の腹を横に切り裂き、律の呼吸は段々と静かになり、そして聞こえなくなった。

 豚男は絶命したのを確認し律の首をペティナイフで切断し、とれた首をテーブルに置く。

そして何も言わずに部屋を後にした。

 瑪瑙はそのチャンスを見逃さず、体を動かし目隠しを取ろうとした。目隠しや拘束は律がゆるくしてくれたようでおかげで簡単に取れた。


「今がチャンスだよ!りっちゃ……」


 テーブルに置かれた律の首と切断された体が瑪瑙の目に入る。


「……うっ」


 死体を見たショックからか瑪瑙は嘔吐し、それと同時に友人の死に涙した。

律はもう助からない。そんなショックと次は自分がそうなる番だという事に瑪瑙は頭を巡らせた。


――――早くここから脱出しなければ


 瑪瑙は覚悟しドアへと向かう。


――――これから、警察へ行き、事のすべてを話すんだ。


考えにふけって律を見つめながらドアを開けようとしていたがドアノブが捕まらない。


「おかしい」


瑪瑙はドアノブへと目をやった。


 「!!」


 そのドアにはドアノブが無かったのだ。


 「……そんな……なんで!?」


 焦りと恐怖が瑪瑙を襲う。

冷静になろうとすればするほどパニックを起こしかけた。


 「ドアノブ、ドアノブは!?」


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい


 辺りを見渡してもそれらしいものは無い。


 「りっちゃん……」


 瑪瑙は涙を流しながら律を見る。その時、何かが光ったように見えた。瑪瑙は律の死体に近寄り、その光ったものを確認する。


 「ドアノブ……」


 ドアノブは律の腹の中に入っていた。


 「あ……あぁ……」


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


 瑪瑙は律の体からドアノブを取り出し、ドアへと向かいドアノブをセットし、ドアを開いた。


――――ようやくこの悪夢から解放される。そして警察に行きこの事と場所を教えなければ。


 目の前に真っ白な光景が映った。


「え……?」


 ドアを開けた目の前にあったのは廊下でも無く外でもなく真っ白な壁。

呆気にとられている瑪瑙の耳に豚男の笑い声が聞こえた。


 「驚いた?悲しくなった?絶望した?」


 絨毯が盛り上がりその下から豚男が顔を出す。


 「そのドアは、はずれなんだよ」


 柑橘系のペットボトルのジュースを飲みながら豚男は楽しそうに言う。

そして瑪瑙のいる部屋へと入ってきた。


「さて、次は君の番だけども、準備があるから少し待っててね」


 豚男はジュースをシンクに置き下へと戻った。

瑪瑙は絶望に打ちひしがれ涙をこぼしていたが、これから始まる自分の運命を考え、泣くのを止めた。


 「冷静に臨機応変に」


 律から教えてもらった言葉を呟く。

瑪瑙はこの部屋に何があるか、周りを見渡した。

 テーブルには律の死体。それ以外特に何もない。

この部屋には窓もない。壁にはタンスとベット、タンスとベットには特にこれといったものはない。

 そうするとシンクだ。

シンクには洗い物に使うスポンジ、たわし、タオル、食器、そして豚男が飲んでいたジュースとオレンジの洗剤。




※   ※   ※




 「さぁて君が好きな料理はなにかな?」


 豚男は床のドアを開けっぱなしにし部屋へと入ってきた。

瑪瑙は沈黙し、豚男を睨み付けた。


 「おほっ、いいねその顔。でも怖くて声も出ずって感じだね」


 豚男はジュースを取りそれを一気に飲み干した。


 「!!」


 それと同時に激しい嘔吐と痙攣が彼を襲った。


「うぇ……てめぇ……何しやがった……このクソガキ……」


 瑪瑙は柑橘系のペットボトルのジュースにオレンジの洗剤を混ぜ込んでおいたのだ。

膝をついて嘔吐に苦しんでいる豚男を無視し瑪瑙は開いている床のドアへ勢いよく移動する。

 そしてまるで屋敷の様な広い家を駆け出口を探し見つけ、屋敷を後にした。

外はもうすでに暗くなっている。だがその場所は学校の近くの山だ。

 こんな所にこんな屋敷があったとは知らなかったが、この山へは、よく律や他の友人と遊んでいたので地理は問題無い。知っている道を見つけ、あとは全力で走るのみ。


――――もう少し、もう少しで学校辺りに出る。


 その時だった。


「クソガキャあああああ、待ちやがれぇぇぇ!!」


 豚男が瑪瑙を追ってやってきた。


「うわああああああ!!」


 瑪瑙は走るスピードを上げた。それでも豚男は追ってくる。全力で走ってきているのか、豚のマスクが外れ、スキンヘッドの素顔があらわになる。

 走りに走り、個人経営をしている女性の店までたどり着きそうになったがそれでも豚男は追ってくる。


――もう駄目だ


 山道を全力で走り体力も尽きた。後は天運に任せるしかない。

そんな事を考えていたが、小さな希望が見えた。

 個人経営している女性、おばさんが庭の手入れをしていたのだ。

瑪瑙は必死にそこまで走った。


「たたたたた助けてくださいっ!!」


 瑪瑙は必死に助けを求めた。だがおばさんは


「あらあら、大変ね。でも、もう大丈夫よ」


 と一言いい、邪魔な枝を鉈で叩き切っていた。

なんとも呑気な人だ。

 そして豚男がとうとうその庭にまで入ってきた。


「うわああああああ!!」


 瑪瑙は叫ぶ。

豚男ははぁはぁと呼吸を荒げて瑪瑙の手を掴もうとした瞬間だった。


「えい」


 おばさんの持っている鉈が豚男の頭にめり込み豚男は倒れた。


――――助かった


 瑪瑙は全身の力が抜けその場で倒れた。




   ※   ※   ※




――――寒い。


 瑪瑙は寒さと手の痛みと痺れで薄らと目を開いた。


「!!」


 目の前には自分を追ってきた豚男がいた。


「うわあああああああ!!」


 思わず叫ぶ。

だがよく見ると豚男は絶命しているらしく、全裸で手をフックに貫かれ吊るされていた。

 周りを見ると豚男のように吊るされている死体が何体もあった。


「っ」


 急に両手に激痛が走る。どうやら瑪瑙本人も全裸で吊るされているようだ。

瑪瑙は訳が分からなかった。だがそこへこちらに向かう足音が聞こえた。


「!!……おばさん……」


 瑪瑙の前に現れたのは瑪瑙を救ってくれたはずのおばさんだった。


「あら、もうお目覚めかしら」


 悠長に女性は言う。


「なにこれ、どういうことですか……?」


「あなたを襲った彼はギニー、彼は誰にも見つからずに肉調達の役割だったのだけれどね」


 女性は笑った。


「こんなに人目に出てきちゃったから処分したの」


「……私を助けてくれたんじゃないんですか……?」


「いいえ」


 冷たく女性は答える。そして続けて言う。


 「残念だけど、見てしまい聞いてしまったもの。生かして帰すわけにはいかないわ。ただでさえ最近変な噂が流れているのに、これじゃあ商売あがったりだわ」


 女性は「やれやれ」と両手でジェスチャーをした。


「噂って、まさか『サライ』の噂!?でもおばさんの顔の皮は剥がれてないし、そんなウソですよね……?」


「あぁ、その事ね」


 そう言うと女性は顎に手を持っていき、まるで昆虫が脱皮するかのように顔のマスクを取った。


「っ!!」


 瑪瑙は絶句した。マスクを取った女性の顔の左側の皮が剥がれていたのだ。


「そんな……」


「これで分かった?私があなたたちの言う『サライ』よ」


「それじゃあ……私これからっ」


 瑪瑙が言いかけた時だった。おばさんはペティナイフで瑪瑙の頸動脈を切った。

勢いよく首から血が噴き出す。


「あっ……あっ……」


「怖かったでしょう、痛かったでしょう。だから楽に殺してあげる」


 瑪瑙の意識は薄れていった。




   ※   ※   ※




 「ここのお肉、おいしくてまた買いに来ちゃったわ」


 小太りの中年女性が店主に話しかける。


 「あら、ありがとう。」


 店主は素直な気持ちで言葉を返す。


 「どこ産のお肉なの?私すっかりハマっちゃったわ。教えてくれない?」


中年女性の言葉に店主は「ふふふ」と笑いながら


 「企業秘密よ、それにここに並んでいるお肉は」


――――全部、特別制だから。


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