三章
(1)
そんなわけでオレたちは再びユーリさんの家まで戻って来ていた。
オレとロベルトがルクスに合流した途端に、オレたちが想像した言葉を吐かれたのは予想通りの結果ではあったが、その時だけで他は文句を言われることはなかった。
ただ、ミリーニャはオレたちが合流した途端、何か一悶着が起きると思ったらしく、心配そうに見ていたが、特に何も起きなかったことに安堵した表情を浮かべていたのが印象的だった。
そんな心配もなくなったミリーニャは、家の前まで着くと誰よりも早くその階段を登り始める。
オレとロベルトはそれに付いて行こうとしたのだが、そこでルクスがその場に立ち止まったことに気が付き、
「どうした?」
と声をかけながら、オレも反射的に歩みを止める。
「俺様はユーリさんに医療知識を学ぶって名目で戻ってきたが、お前たちはどうするんだ? 三人も学ばなくていいだろ。っていうか、お前らは邪魔だから俺様一人で良い」
オレの質問に対し、ルクスはオレたちがここに戻ってきた理由について尋ねてきた。
もちろん、オレには戻ってきた理由なんてものはない。あるとすれば、村にいてもすることがないため、ルクスに付いて戻ってきたに過ぎないのだから。
それはロベルトも同じなのだろう。
オレがロベルトを見ると、ルクスに言われた質問に対しての反応を伺うと似たような反応をして、困り果てていた。
即座に反応がない時点で、オレたちの行動が分かったのだろう。ルクスは、
「そういうことだ。することがないなら、さっきの村で情報収集としろ。それ以外、どうせすることないんだろうしな」
そう言うと、ミリーニャの後を追いかけるように階段を登り始める。
オレとロベルトはまたも悩んでしまう。
最初からルクスと同じように医療知識を教えてもらうつもりは毛頭ない。いや、こう言われることは分かっていたからこそ、そのことを除外していたのだ。
が、改めてルクスが医療知識を学んでいる間にすることと考えるとなかなか思いつくはずもなく――オレは困り果て、後ろ髪をガシガシと掻いた。
「あ、そうだッ!」
同じように考えていたロベルトはハッとしたような表情を浮かべ、良い考えが思いついたという様子で平手にした左手の上に右手でポンッと叩く。
「ん? 何か思いついたのか?」
明らかにそのことを聞いて欲しそうな雰囲気だったため、オレはその思いついたことをロベルトに尋ねる。
するとロベルトはオレより先にすることが思いついたことが嬉しいらしく、軽く笑って見せた。
「ボクはユーリさんとミリーニャさんのお手伝いをするよ。ボクたちも泊めてもらうことは確定だろうし、ルクスくんのことで迷惑をかけるだろうしね」
「ああ、それがあったな」
「あ、言っておくけど、これはボクがやるからカイルくんは何もしないでいいからね?」
「……マジかよ」
「うん、二人も手伝ったら気を使うでしょ?」
「いや……まぁ、そりゃあな……」
「だからボクだけでいいよ」
そう言って、ロベルトは振り返り、ルクスと同じように階段を登り始めようとしたところで――ビクッと身体を大きく仰け反らせる。
その理由は目の前にミリーニャの顔があったためだった。
「そんなことしないでいいんですッ。それは私の仕事ですからッ!」
そして、ロベルトのアイディアを即座に否定した。
「え? え? で、でも……」
ミリーニャがそんな風に否定して来るとは到底思っていなかったロベルトは動揺を隠せないらしく、アワアワし始める。
その様子を見ながら、オレは小さくため息を吐いた。
まぁ、頑張ってくれ。
オレはロベルトから『アイディアを取るな』と言われた立場であるため、助ける気にもならず、ルクスを追いかけるかのように階段を上り始める。
ルクスはミリーニャが下に降りて行ったため、階段の途中で止まり、ロベルトとミリーニャのやり取りを見守っていた。
そして、オレが同じ位置までやって来た時に、
「お前は何か思いついたのか?」
とオレの今後の行動について尋ねてきた。
「いんや、全然思いつかない」
「ったく、何かはしろよな」
「分かってるよ」
「別にお前が何をしようが、お前の勝手だけどな」
「……意外とどうでもいい感じなのね」
「他人に構ってる人はないだけだ」
「だよな」
これからが大変になることをしっかりと把握しているルクスの目は、少しだけ焦りを覚えているようにさえ見えた。
それは勇者としての『村人を救う』という使命が、そうさせていることが手に取るようにオレは分かる。が、それをフォローする言葉をかけたところでルクスは素直に受け入れることはない。だからこそ、これ以上言葉をかけることは止めておいた。
さて、本当にオレはどうするかな……。
そう思いながら、階段の下で言い合いをしていた二人が急に静かになったため、そちらへ視線を向けると、二人とも会談を上って来ていた。
二人の表情は対照的でロベルトは満面の笑み、ミリーニャは少しだけ悔しそうなものになっていた。
表情をみるだけでどちらが言い合いに勝ったのかすぐに分かったが、あえてそのことをロベルトに尋ねてみた。
「どうなったんだ?」
そんなオレの質問に対し、ロベルトは勝利のVサインを出しながら、
「ボクも手伝いをすることになったよ。力仕事は男がした方がいいからね」
ともっともな理由でトドメを差したことを伝えてきた。
「そっか。ミリーニャも落ち込むなよ。少しは楽が出来るし、その分白魔術の勉強の出来る時間が増えるんだしさ」
オレはミリーニャへフォローの言葉をかける。
するとミリーニャは自分のメリットがあることに気が付いていなかったらしく、ハッとしたように悔しそうな表情から少しだけ笑顔に変わった。
「そ、それもそうですねッ」
「そういうことだから落ち込むなよ」
「はい、ありがとうございますッ!」
ミリーニャはオレの隣までやってくると、自分の気付かなかったことを気付かせてくれたことが嬉しかったらしく微笑んできた。
別にそんなことを望んだわけではなかったため、なんとなくそれが恥ずかしく感じてしまい、オレは思わず顔を逸らしてしまう。
そのタイミングで少しだけ不機嫌そうな声で、
「ほら、いつまでもここでグダグダしてる場合じゃないだろ。行くぞ」
と容赦なく玄関の呼び鈴を鳴らした。
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