(8)

 オレたちはルクスの後ろを文句も言わずついて歩いて結果、なぜか村の入口まで戻って来ていた。

 別に行く当てもなかったため、ルクスがどこに移動しようが構わなかったのだが、さすがに村の入口まで戻るとは誰も予想していなかった。


「なんで、ここまで戻ったんだ?」


 だからこそ、オレはルクスのそう質問をし、その場で足を止める。

 それに従い、足を止めたオレを少しだけ追い越した後、同じように足を止めた。どうやら、そこで村の入口まで戻ってきたことに気が付いたらしく、ハッとした様子で。


「あ、本当だ……」


 ロベルトも今さらながら、そのことに気が付き、そう漏らした。

 オレの言葉に反応したルクスは、ロベルトやミリーニャと同じように歩みを止める。そして、面倒くさそうに頭を掻きながら、オレたちの方へ振り返る。

 なんかいつもと様子が違うな……。

 振り返り、オレがルクスを見た瞬間、そう感じ取ることが出来た。


「どうかしたんですか? 目がなんか真剣になってますけど……」


 ルクスの変化にミリーニャも気が付いたらしく、おそるおそると言った様子でそのことを尋ねる。


「ちょっと色々あってな」

「色々……。それって、ボーノくんの母親のことですよね。それしかまだ行動してないですし……」

「うるせぇよ。そのことで色々考えたって話だ」

「ご、ごめんなさいッ」


 口が過ぎてしまったことに対し、ミリーニャは謝罪の言葉を口にした。

 それがルクスの調子を崩してしまったらしく、気が抜けてしまうようなため息を溢してしまったため、


「んで、色々考えたって何を考えたんだ?」


 間髪入れず、そのことについて尋ねた。


「んあ? ちょっとユーリさんの所に戻って、この世界の医療知識を学ぼうと思っただけだ。だから、俺様はここまで戻ってきた」

「医療知識を学ぶ!?」

「なんだ? そんな驚くことかよ」

「驚くことだろうがよッ! なぁ!?」


 オレは自分がそのことに対して驚いたことが間違っていないという確認をするために、ロベルトとミリーニャを見る。

 二人とも案の定、驚いた表情をしており、オレの言葉に首を縦に何度も振り、頷いてくれる。

 そもそもオレの言葉で隠れてしまっていたが、二人とも「えー!?」と驚いた声を出していた。


「と、ともかくなんで、そんなことを……」


 ロベルトがルクスの機嫌を損ねないようにおそるおそる尋ねると、


「俺様たち全員が役立たずだと思知らされたからだよ」


 とボーノの母親を診察した時に何も出来なかったことが悔しかったことを口に出す。が、それだけで終わらず、続けざまにこうも口にした。


「お前らに医療知識を学べって言ったところで時間がかかるだけだろ。だったら、この中で一番可能性がある俺様が学ぶことにしたんだよ」


 それはオレたちが役立たずであることを言っているようなものだった。

 さすがにオレはその発言にイラッとしてしまう。

 事実は事実なのだが、そんな言い方をしないでもいいのではないか、と思ったからだ。

 ロベルトもそれは同じだったらしく、かなりの不満顔を見せていた。


「そういうわけでミリーニャは俺様がユーリさんの家まで送る。お前らは好きにしていいぞ」


 ルクスはオレたちの不満を気にした様子もなく、言いたいことだけを言って振り返り、そして歩き出す。その背中からは、『ミリーニャ、早く来い』と口には出さずともそう言っているような気がした。いや、そう感じ取ることが出来た。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよッ!」


 ルクスの有無の言わさない行動にミリーニャは困ったようにルクスの後を追う。が、オレたちのことも気になるのか、チラチラとオレたちの方を見て来た。

 その場に残されたオレたちは二人の後ろ姿を見ながら、


「「どうする?」」


 とタイミングを合わせたわけでもなく、同時にこれからどうするかについて、同時に口に出す。

 まさかタイミングが合うと思っていなかったため、オレとロベルトはお互い一瞬びっくりし、顔を似合わせた後、苦笑を溢し合う。


「ロベルト、お前はどうしたい?」


 改めてオレがそう質問すると、困ったように首を傾げる。


「カイルくんは?」


 そして、答えが見つからなかったらしく、そう問いかけしてきた。


「結局のところ、オレたちも行く当てがないんだよな。ユーリさんの所に戻るしか……。ルクスみたいに医療知識を学ぶか学ばないかは別としても」

「そう……なるよね……」

「つまり、二人の後を追うしかないな……」

「うん、分かった。でも、そうしたらルクスくんがどんな反応するかな?」

「……きっとロクでもない反応をしてくれるだろうよ」


 ロベルトの答えに対し、オレはあっさりルクスの反応を想像することが出来た。

 『なんで付いてくんだよ? 俺様は俺様の考えに従ってるんだから、お前はお前たちで好きにすればいいだろ。真似するな』

 違うかもしれないが、こんな言葉が返ってくるのだろう。


「きっとその通りだと思う」


 ロベルトもまた似たような反応が想像したらしく、困ったように苦笑いを溢す。も、それ以外の選択肢も見つからなかったのか、


「とにかく行こうよ。ボクたちが道に迷っちゃうかもだし」


 そう言って、足早にルクスとミリーニャが歩いて行った方向へ歩き出す。


「そうだな」


 オレもまたそれに同意し、ロベルトの後を追い始める。

 ただ、道に迷うことはないんだけどな。

 ロベルトが言った不安なことだけは心の中で否定した。

 それはこの村に来るためのルートを大概は覚えたこともあったし、何よりも精霊にもそのルートを聞きながらだったため、間違える要素が何一つなかったからだ。

 けれど、そんな野暮なことを言う必要性もなかったため、そのことを心の中で呟くことに留めておくことにした。

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