(7)
オレはゆっくりとボーノの母親の前に移動すると、二人と同じように正座して座る。そして、母親をじっくりと見た。
んー、特に変なところもないんだよなー……。
体調が悪いからこそ顔色が悪い。
それは当たり前のことであったが、顔に出来物があったりなどの変化もなく、肉体的にもおかしいところはないのはルクスとロベルトの診断から分かりきっている。だからこそ、オレが診断したところで何も見つからないと分かりつつも、
「すみません、ゆっくりで良いですから何回か深呼吸をお願いします」
と母親に指示を出す。
母親も苦しいためなのか返事はなかったが、オレの指示した通りに深呼吸をし始める。
同時にオレはこの大気に存在する精霊に脳内である指示を出した。
その内容は『この人の身体の中に入り、悪い所があったら教えろ』というもの。
精霊は精霊使いだけに視える光の粒子という形で、ボーノの母親の顔の前でクルクルと二回ほど回って、その内容を了承し、吸うタイミングで母親の中に入る。
オレはその間何もすることはなく、ただ様子を見守ることしか出来なかった。
時間として一分ほど。
ボーノの母親が吐くタイミングで外へと出てくる。
そして、オレの耳元までやってくると、『何も変なところはなかった』とオレだけに聞こえる声で伝えてくれた。
やっぱりなぁ……。
分かりきっていたことだけにオレは小さくため息を溢しながら、肩を落とす。
「駄目だった?」
そう聞いて来たのはミリーニャ。
その声に反応し、オレはミリーニャの方を向く。
すると、そこには最後の希望と言わんばかりの表情でオレを見つめて来ていた。
が、現実は残酷なもので正解はその逆。
だからこそ、一瞬その返答に躊躇してしまうも、言わないことの方が悪いという感じがしてしまったため、
「ごめん、やっぱり分からない」
と首を横に振りながら、そう返事した。
きっとオレの返答は分かっていたはずなのに、ミリーニャはがっくりと肩を落とす。が、慌てた様子で背中を伸ばすと、
「だよね、大丈夫! ちゃんと分かってたから!」
ショックを受けたことを隠すようにフォローしてきた。
なんだかな……。
その白々しい励ましにオレは再び反応に困ってしまう。
だからこそ、話しの相手をボーノに変える。
ボーノもまたオレたち三人が分からないことを分かっていたのかもしれない。全く期待すらしてない表情でオレと視線を合わせる。
「ごめん、分からなくて」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか……。早く治療法を見つけないといけないな……」
「うん、早く見つかるといいね」
「ああ……」
「それよりもういい? お母さんをゆっくりさせてあげたいから」
役に立たないオレたちが邪魔だと言わんばかりに、少しだけ冷たい言い方でボーノはそう言ってきた。
「ごめんな」
そんな冷たい言葉にオレたちは従うことしか出来ず、オレは二人に視線を送ることで合図した。
ルクスもロベルトもオレの合図を受け、ちょっとだけ重そうな腰を上げ、玄関の方へゆっくりと歩いて行く。
その時、一つ気が付いたことがあった。
それは二人とも悔しそうにしていたこと。
ロベルトは合図を送った時、すでに悔しそうな表情をしていたため、すぐに気が付くことが出来た。しかし、ルクスに至っては平然とした表情で気にしていないように見えた。まるで分からなくて当たり前という表情。が、利き手である右手はしっかりと握り拳を作っていた。血が出てもおかしくないぐらい思いっきり。
やっぱりプライドが許さなかったのか……。
本来であればオレも悔しい気持ちでいっぱいになっていたが、ルクスも同じ感情を想ってくれているというだけで少しだけ気持ちに余裕が出来たような気がした。
「ちょ、ちょっと待ってよッ!」
オレたちが次々と外へ出る中、ミリーニャはそう言いながらオレたちとボーノを交互に見ていた。が、結論としてこの場に残っても自分が力になれることはないと判断したらしく、オレたちを追い、外へやって来た。
そして、外に出るなり
「ごめんね、わたしが変なことを言ったせいで」
と謝ってきた。
そんなミリーニャにルクスが小さくため息を溢しながら、ミリーニャの方へ身体を向ける。
「謝る必要ないだろ。俺様たちも悪かったんだよ。ボーノに期待させたのが……。チッ、なんとか原因を見つけられると思ったんだがな……。とにかくこの場から離れるぞ」
そう言いながら、ボーノの家まで来る道を戻り始める。
ロベルトは困ったようにオレを見て、反応を伺ってきたため、
「そうだな。この場に居てもしょうがないし。それにこの場から離れないと居心地も悪いからな」
ルクスの意見に賛同し、ルクスの後を追った。
「うん、分かった」
ロベルトはオレたちの意見に不満はないらしく、オレの横に並ぶように歩き始める。
一回視線を送ると、ロベルトはボーノの家が名残惜しそうに何度かチラチラ見ていた。
気になるよなー……。
その行動はオレも同じだったが、なるべく振り返らないようにしていた。それは、自分の無力さが嫌というほど痛感出来る行為だったからだ。
それでもなんとなく後ろを見ると、ミリーニャが地面を見ながら、大人しくオレたちの後を付いて来ていた。
また落ち込んでるんだのか……?
昨日の感覚を覚えたオレはミリーニャがまた落ち込み、「ごめんなさい」と何度も口走っているようなきがしてならなかった。
けれど、これもまた同じ気持ちのため、声をかけることは出来ず、ただ情けない気分で先頭を歩くルクスに大人しくついて歩くことが精一杯だった。
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