(6)

 ボーノに案内されるまま、オレたちはボーノの母親が寝ている場所へ連いて行く。が、それはすぐに辿り着く。

 先ほどまでは玄関のドアで上手く見えないように隠してあったし、オレたちもそこまで意識して家の中を見ようとはしていなかった。だからこそ気が付かなかったが、ボーノの母親はリビングで布団を敷いて寝ていた状態だった。


「お母さん、お姉ちゃんの友達を連れて来てくれたよ!」


 ボーノは母親の隣に座ると、そう言って母親の額にのせてあったタオルを取る。そして、それを水の入った桶に浸し、タオルを絞り、それを母親の額にのせる。

 その一連の行動が完全に手慣れた物であり、オレは思わず感心してしまう。

 母親はミリーニャとオレたちを一通り見た後、


「いらっしゃいませ。すみません、こんな体勢でしか挨拶出来なくて……」


 視線で申し訳なさを伝えつつ、オレたちへ挨拶してくれる。

 そんな申し訳なさいっぱいの母親の言葉に、


「いえいえ! こちらこそそんな状態なのに家に入ってすみません。ちょっと白魔術師様の知り合いの方たちなんですが、その方たちが村の様子や病人の方を見たいと申されて……」


 としどろもどろになりながら、オレたちの説明をし始める。

 そんな説明にオレたちは少しだけ驚きながらも、小さく頭を下げる。というより、他になんて言葉をかければいいのか分からず、反応に困ってしまったというのが本音だった。

 しかし、ここでも先に一歩を踏み出したのはルクス。


「ミリーニャ、俺さ……まずは俺から検診してみてもいいかな?」


 一応、他人の前だという自覚があるのか、敬語を使って、その確認を取る。

 その様にミリーニャは少しだけ驚いた反応を取りつつも、


「う、うん……ぜひ、見てあげて」


 とルクスに許可を出す。

 ボーノは静かに前に出るとボーノに近寄り、両肩に手を置くと、


「ちょっと位置を変わってくれないか? 身体を無理に動かすのは辛いだろう。だから、このまま検診するから」


 そう言いながら、優しくもボーノの許可を取る前にゆっくりと隣にずらす。

 ボーノはその行動に少しばかり戸惑いつつも、「う、うん」と頷き、言われるがまま隣に動く。

 改めてルクスはボーノの母親の前に正座する形で座ると、顔の目の前に右手をかざす。


「大丈夫ですよ、痛い事はしませんから。そのままの状態で気持ちを楽にした状態でいてください」


 母親にそのままでいいことを伝えると、呪文を小声でブツブツと呟き始める。

 その呪文に答えるかのようにルクスの右手は緑色に光り、ボーノの母親を診断し始めたことを証と現れる。

 時間にして一分も満たないぐらいで、ルクスは呪文を唱えるのを止める。それに伴い、緑色に光っていた光りは消える。

 それでミリーニャは診断が終わったことを知り、ゆっくりと母親の前から立ち上がるルクスの顔を見て、声をかけようとした。

 が、それより先にルクスは険しそうな表情を共に首を横に振る。

 つまり、それはルクスでも分からなかったという判断であった。

 マジかよ……。

 成績優秀なルクスでもそのことが分からなかったことにオレは驚きつつも、なんとなくそんな予感がしていたため、ある程度冷静でいることが出来た。

 それに比べてロベルトもミリーニャも驚きの表情を浮かべながらも声だけは出さないように必死に唇を噛み締めていた。


「ロベルト、やってみてくれ」


 ルクスはお手上げと言わんばかりにそう言うと、次に診断する人物を指名。

 さすがにこれは驚きを隠せなかったらしく、


「え!? ボクッ!?」


 少しだけ大きな声を出して、自分を指差す。


「なんだ? 嫌なのか?」

「そ、そういうわけじゃないけど……いいの?」


 そう言ってオレを見るロベルト。

 オレを見られてもなぁ……。

 今回はロベルトを指名したルクスだったが、可能性的にはオレが指名される可能性もあった。というより順番で見る以上、二番手か三番手の違いだけだったため、大した問題ではなかった。

 だからこそ、オレの言う言葉は必然と決まる。


「いいと思うけど?」

「そ、そう? じゃ、じゃあ……言葉に甘えて……」


 オレの許可を聞くことが出来たロベルトはおそるおそる先ほどまでルクスが座っていた場所まで行き、同じように正座をする。そして、同じようにボーノの母親の前に手をかざす。

 ルクスと違い、ロベルトは自分の肉体強化の主とする魔法のため、ルクスのような呪文を唱えるわけでもなく、目を閉じ神経を集中させるだけで手を青色に光らせる。そして、手から生まれたボーノの母親の身体を横切るように線が生まれ、それを頭から足までを行き来し始める。

 しかし、それもまたルクス同様すぐに消える。

 いや、ロベルトが自らの意思でそれを消し、ボーノの母親の真上に翳していた手をゆっくりと退かせた。


「分からない」


 ルクスと違い、自分の能力でそのことが分からないことをロベルトは力なく漏らす。それは自分の意思と違い、自然に漏れた感じだった。


「だ、だよね……」


 ボーノもロベルトの言葉に同調し、そう自然と声を漏らす。

 まるでそのことが最初から分かっていたのか、オレから見えるボーノの目は死んだ魚のような状態で諦めきっていた。

 何度もこうやって診察されてきたのかもな……。

 ボーノの反応を見る限り、なんとなくそんな感じがしてならなかった。

 だからこそ、オレはなんとかしてあげたいという気持ちが心から湧き出てきた。が、感覚的な問題で言うと、ルクスやロベルトの二の舞になるような気がしてならなかった。

 けれど、そんなことは言っていられず、ルクスとロベルト、ミリーニャ、そしてボーノの視線がオレへと向けられ、順番が来たことを訴えかけて来ていた。

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