(5)

 オレたちはミリーニャに連れられて、ある一軒家の前へと来ていた。

 その家はユーリさんの家と同じように木で造られているものの、ユーリさんの家のような綺麗さは一切なかった。それどころか、ところどころ木にヒビらしきものが入っており、年数を感じられた。つまり修理が必要なところもあるということだが、それを修理していない=お金をあまり持っていないという想像が出来た。

 こういう所も来てるんだな……。

 無料ではないかもしれないが、それに近い感じで検診はしているのだろうと分かると、ユーリさんが実は相当出来た人間であることを思知らされた。

 そんなオレの考えをさておき、ミリーニャはその家のドアを軽くコンコンとノック。それはそのドアさえも簡単に外れてしまいそうなほど、外れかけているからだった。


「すみませーん!」


 ノックだけは聞えないと判断しているのか、声は普段喋る声量よりも少しだけ大きい声を出していた。


「はーい」


 ミリーニャの声は無事に聞こえたらしく、中からドタバタと少しだけ騒がしい足音が聞え、玄関のドア近くまで来て、その足音は止まる。そして、その足音とは正反対のような静けさでドアをゆっくりと開けた。

 顔を出してきたのは少年だった。


「お姉ちゃん、来てくれた……」


 ミリーニャが来たことに対して、嬉しそうな反応をするものの、オレたちも視線に入った途端、


「え、えっと……ど、どちらさまですか?」


 と怯えた声になりながら、オレたちを順番に見た後、ミリーニャを含めた全員に対して尋ねてきた。

 そんな少年の身長に合わせるように屈むと、少年の頭の上に手を置き、


「大丈夫だよ? お姉ちゃんのお友達だから」


 そう言って、少年の頭を撫で始める。


「う、うん。お姉ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね?」

「うん、大丈夫だよッ! このお兄ちゃんたちは信用出来る人たちだから」

「へー……初めまして! ぼく、ボーノって言います。よろしくお願いします」


 ミリーニャの言葉を真に受けた少年ボーノはオレたちに向かって、丁寧なお辞儀をしてきた。

 その行動にオレたちもなんとなくお辞儀をし返す。


「よく出来ましたッ。ボーノくん、偉いよ。ほら、お兄ちゃんたちは挨拶しなくてもいいんですかぁ?」


 ボーノの行動を褒めた後、オレたちへ挨拶を促してくるミリーニャ。

 ミリーニャの言葉にオレたちは一旦顔を見合わせた後、


「オレはカイル。よろしく」

「ルクスだ」

「ボクの名前はロベルトだよ。よろしくね」


 それぞれに適度に挨拶をした。

 たったそれだけでミリーニャは満足したように微笑み、ボーノを見て、


「ちょっとの間だけかもしれないけど、お兄ちゃんたちもよろしくね」


 オレたちの紹介を終わらせようとした。

 が、ボーノはその意味が分からなかったらしく、可愛らしく首を傾げる。


「ちょっとの間?」

「お兄ちゃんたちは忙しい人たちだから、長い間はいられないと思うの。だから、ちょっとの間になると思うんだ」

「そうなんだ。うん、ちょっとの間でも仲良くするね!」

「うん、お願いね!」


 ボーノが素直にミリーニャの言葉に対して、またしても素直に頷く。

 それが嬉しいらしく、ミリーニャもまたボーノの頭を優しく撫でる。

 これ、褒めてほしくて同意してるような感じだな……。

 ボーノにとってオレたちは実際どうでもいい。いや、この言い方には語弊がある。子供故の純粋さから警戒心というものがなく、ミリーニャの友達だからこそ、なんとも思っていない。ただミリーニャに褒めてもられることが嬉しいから、ミリーニャの言葉に簡単に賛同しているように取れて、オレは仕方なかった。

 が、オレはその気持ちを改める。

 オレの心が歪んでるってことか……。

 歪んでいるからこそ、素直に受け止められない。そう思った方が、二人に変な風なことを口にしないと思ったからだ。

 そんなオレとは違い、ルクスは完全に興味がない様子で腕を組んで、その様子を見ており、「早く病人に会わせろよ」という気持ちが表情に出ていた。

 対してロベルトは、二人の様子を本当の姉弟として見ているようなそんな表情を浮かべ、微笑んでいた。

 が、いつまでもこんなことで時間を浪費していられないと思ったのだろう。


「ミリーニャ、そろそろ病人に会わせてもらっていいか?」


 ルクスが少しだけ遠慮気味にミリーニャとボーノの会話に割って入る。

 それを聞いて、ミリーニャはハッとしたように身体を震わせ、慌てて立ち上がり、オレたちの方へ振り返る。


「す、すみません! そうですよねッ。それが目的でしたよねッ!」


 そう言った後、再びボーノの方へ振り返り、


「ボーノくん、お母さんに会わせてもらっていいかな? お兄ちゃんたちが気になるんだって」


 ボーノの母親に会わせてくれるようにお願いしてくれた。

 その回答はオレの予想通り、「うん、いいよ」という回答だった。

 が、ここで少しだけ予想を超えたことは、


「でもね、お母さん、今日は動けない日なの。だから、呼べないんだけど……」


 と一番悪い日だということだった。

 それはオレたちにとってタイミングの出来事であることは間違いなかったが、ボーノのことを考えると少しだけ心が痛んでしまう。

 ミリーニャも少しだけ申し訳なさそうな表情をしつつも、


「中に入ってもいい? ちょっと様子を見るだけだから大丈夫だよ」


 オレたち同様にタイミングが良かったと思っているらしく、声色は少しだけ興奮気味になっているような気がした。


「う……うん、大丈夫だよ」


 さすがのボーノもそんなミリーニャの様子に違和感を覚えつつも、そのことを了承。オレたちを案内するかのように中に入っていく。

 オレたちも「失礼します」と少しだけ遠慮気味に言いつつも、ボーノの後を追い、家の中に入っていった。


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