(4)
「良いから行くぞ」
これ以上、この会話を長引かせないようにするためか、ルクスが村の中へ向かって歩き始める。
オレとロベルトはその行動に異論はなく、後に続く。
もちろん、それはミリーニャもだった。
しかし、村に入るなり、少しだけソワソワとした様子であたりをキョロキョロと見回し始める。
「どうしたの?」
その行動に疑問を感じたロベルトは、ミリーニャに気を使い、小さい声で尋ねた。
「え? あ……いいえ、なんでもないですよ?」
「そんな風には見えないんだけど……」
「……ご、ごめんなさい」
「謝ることでもないから、そんな気にしないで」
「は、はい……。その……ちょっとこの村で気になることがあるんです……。一つは個人的なこと。もう一つは村全体のことです」
「二つも……あるんだ……」
二つもあると思っていなかったロベルトは少しだけ驚いたような声を出す。
そりゃあ、二つもあるとは思わないよな。
オレ自身、こういう時は一つだと思っていたため、ちょっとだけ驚いてしまう。
そもそも、個人的なことは隠してもいいと思うのだが、その部分も口走ってしまう限り、ミリーニャは素直な性格なんだと分かる。
その話を黙って聞いていたルクスが、
「個人的なことは良いから、この村の気になることを教えてくれ」
と二人の会話に口を挟む。
「そうだな。個人的なことは言いたくないだろうし、村全体の方を話してくれるか? 力になれるかもしれないしさ」
オレもまたルクスの発言に同意して、二人の会話に口を挟んだ。
それを言おうと思っていたのだろう。ロベルトは良い所を取られたような感じになってしまったらしく、少しだけ頬を膨らませていた。
ロベルトの反応を見ていたミリーニャは「ふふっ」と可笑しそうに笑った後、少しだけ真面目な表情になる。
「実は……この村の人たち、原因不明の病に犯されてるんです。症状としては風邪に近い感じの咳とかが出る感じなんですけど、何日かに一回は身体が動かなくなるほど寝込んでしまう。けれど、翌日には何ともなかったように動ける。もちろん、咳とか風邪に近い症状は治らないままなんですけど……」
そして、簡単に村で起こっていることを話してくれた。
ミリーニャの言う通り、周囲の人たちは苦しそうに「ゴホッゴホッ」と咳をしていることを気付いてはいた。が、そんな事実が隠されているとは知らなかったため、改めてその人たちを見る視線が少しだけ変わってしまう。
なんか自体は深刻だな……。
もっと違うことで事件が起きているのかと思ったのだが、病方面だとは想像もしていなかったため、オレはその解決策が力技でなんとか出来ない。それが分かった時点で一つ収穫ではあるのだが、それがなかなか面倒な気がしてならなかった。
そんなことを考えていると、
「なんだ、そりゃ。原因不明? 何かの要因はあるだろ、普通。そのための白魔術なんじゃないのか?」
その説明を聞いたルクスがミリーニャたちの職業の存在意義を含めて尋ねる。
言い方悪いって。
ルクスの言いたいことが分かったが、間違いなく口調が悪すぎるせいで、白魔術師であるユーリさんや見習いのミリーニャさんを貶しているようにもオレは聞えてしまっていた。
だからこそ、ミリーニャも自分が責められているような感覚になってしまったのだろう。
「ごめんなさい。本当に解決策が見つからなかったんです。白魔術師様もそう言ってて……なんとかしたいのに……ごめんなさい」
昨日と同じように卑屈モードに入ってしまう。
瞬間、オレとロベルトはルクスを睨んだ。
この状況が非常に面倒な状態になることを、ルクスが学んでおらず、その地雷をワザと踏んだような気がしたからだ。
「チッ、卑屈になんなよ。白魔術師でも分からないことがあるんだなって確認をしたかっただけだろうがよ。悪かった。だから、そんなに謝るな」
オレたちの視線を浴びたせいなのか、それとも最初からそう言って宥めるつもりだったのかまでは分からないが、ルクスは落ち着いた様子でその言葉をかける。
「は、はい、ごめんなさい。で、でも、本当になんなんでしょうかね……。この病の原因は……」
「一つしか考えられないだろ」
「え? な、なんですか!?」
ミリーニャはその答えがすぐに知りたいらしく、前を歩くルクスの元へ駆け足で近寄り、服の袖を掴む。一刻でも早くその答えを聞きたいと言った様子で。
その行動にルクスもちょっとたじろぐも、すぐに冷静なフリをして、
「答えてやるから慌てるな。てか、落ち着け。そもそも、こんな場所で言えるか。人気が少ない所で教えてやる」
場所が場所だけに教えられないことを伝えた。
ルクスの説明にミリーニャは明らかに残念そうに項垂れ、
「そんな……」
そう言った後、掴んでいたルクスの服の袖を離した。そして、元居た位置まで足を緩める。
それだけ今すぐ知りたかったのだろう。それが目に見えて分かるぐらいの反応だった。
「とにかくさ、知り合いの病気の人まで案内してくれないかな? どんな感じか知りたいし……」
落ち込むミリーニャにそう言ったのはロベルト。
感心がないわけじゃないことを告げるには十分な言葉だった。
「え……あ、はい。もしかして治療出来たりするんですか?」
「う、うーん……治療出来るどうかは分かんないかな? けど、様子を知っておきたいってのもあるし……。もしかしたら、すぐに力になれるかもしれしね」
「……ッ! 分かりましたッ!」
ミリーニャの顔はパァッとすぐに明るくなる。
それは『力になれるかもしれない』という言葉に希望を持ったような感じだった。
期待を持たせるなっての……。
案内するために先頭に移動したミリーニャの背中を見つつ、オレはそう思った。
ロベルトはぼかしたが、オレたちはそれなりに治療系の魔法も習得している。それは異世界での特殊な病気などに対応出来るようにするためにだ。もちろん、それはその世界の人を病気から救う名目もあるだろう。けれど、思った以上に期待は出来ないとオレは思っている。なぜなら、それは必要最低限のものという認識をしているからだ。病状は日々進化し、対策を講じてくる。だからこそ、オレたちが修得した魔法は過去のものと化している可能性が高いからだった。
そんなオレの考えを知らないミリーニャの足取りはいかにも軽そうで、それを見ているのがオレは少しだけ辛くなってしまった。
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