(2)

「それでみなさんはどうされますか?」


 そして、ユーリさんはオレたちへそう尋ねてきた。

 素直に負けを認めろ。

 そう言わんばかりの言い方で。

 オレとルクスはため息を吐かなかったものの、顔を下に向け、項垂れる。こうすることが唯一の反抗だったからだ


「せっかく案内してくれる人もいるので、その好意に甘えちゃってください。皆さんでしたら、一度行けば行き方は覚えられると思うので。そして、出来たらミリーニャをここまで送り届けてもらってもよろしいですか?」


 ユーリはミリーニャを見て、そう促した後、再びこの家へ戻ってくるように伝えてきた。

 それは、昨日の件があったからこそ言う言葉であり、本来であればそんなことを言ってこないであろうと思った言葉。だからこそ、オレたちへそう言ってきたことに少しだけ違和感を覚えてしまった。

 なんだか、この家にまた泊めてもらうようなフラグが立ったような気がするんだけど、気のせいか……?

 そう思ってしまった理由は分からない。

 分からないけれど、なんとなくそういう暗示をかけられてしまったような気がしてしったのだ。

 オレの感じた違和感を確認するべく、ルクスとロベルトを確認してみる。

 ルクスは『また戻ってこないといけないのか』という疲れた表情を浮かべており、そんな違和感を覚えているような様子は一切ない。

 対して、ロベルトはまるでオレと同じような違和感をあったらしく、ちょっとだけ不思議そうに首を傾げていた。が、こちらもまたオレと同じようにその違和感への解答こたえが見つからないようだった。

 そんなユーリさんの言葉に、


「大丈夫ですよ、そんなことしてもらわなくても。一回案内したのに、送り届けてもらうのは悪いですから。ね、そうですよね?」


 ミリーニャがその提案をあっさり拒否し、オレたちへ同意を求めるような視線で見つめてくる。

 が、オレはすぐにそっぽを向いた。

 先ほどのロベルトのように巻き込まれるのが嫌だったためだ。

 代わりに目があったのはユーリさん。

 ユーリさんは「やれやれ」と言わんばかりの表情で、ミリーニャを見ており、オレと視線が合った瞬間、失笑を溢す。

 オレもまた困った笑みを浮かべたと同じタイミングで、


「その気持ちは分かる、ミリーニャ」


 とルクスがミリーニャの同意に乗った。

 はあ!? 乗るのかよッ!

 ロベルトならば、さっきと同じように反応する可能性があることは想像が付いたのだが、予想していなかった人物――ルクスが反応したため、慌てて視線をルクスへ向ける。

 ルクスは腕を組み、首を何度も縦に振っていた。

 そこで、オレは先ほどの『乗った』と思い込んでいた考えを払拭した。なぜなら、ルクスの反応は――。


「気持ちは分かるが、職業上無理ってことだな。だから、素直にユーリさんの提案を受け入れろ」


 逆の説得に入るパターンだったからだ。

 ルクスが同意してくれた=心強い味方が増えたと思い、喜びの表情になっていたミリーニャの顔色が一瞬にして暗くなってしまう。そして、信じられないような「え?」という言葉を小さく漏らす。


「それ、本気で言ってます?」

「本気以外ないだろ。そもそも、それぐらいのこと別に迷惑だとも思わないからな。だいたい、送ってもらった後、襲われたとか聞いた方が後味悪いだろ」

「……だ、大丈夫ですよ? 本当に」

「昨日、襲われた奴がそれを言うのか?」

「き、昨日は昨日――」

「分かった。そこまで言うなら、案内してもらわなくていい。俺様たちだって、別に恩を売るために助けたわけじゃない。職業的な立場、目の前に襲われてる人が居て見過ごせなかった。そんな理由で助けたんだ。だから、ミリーニャも気にしなくていい。恩返しなんて考えなくていい」

「……そ、そんな……」


 隙を見つける隙すら見つけられないほどの攻めをするルクス。

 それは、先ほどのロベルトのミリーニャを真似した……いや、それを上回るほどの論破だった。

 思わず拍手をしてしまいそうになるオレだったが、あることを思い出す。

 昨日のあれ、『助ける』という感情より、八つ当たりの方が正し……この際は気にしないでおこう。

 すぐさま心の中にソッとしまう。

 この状況上、余計なことを言わない方がいいし、何よりも思って顔に出す方が面倒なことになりかねないと思ったからだ。


「さて、どうしますか? 私としましてはミリーニャのことが心配ですので、素直に説得されてもらいたいのですが……」


 二人のやり取りを見守っていたユーリさんは、ミリーニャに負けを促すように優しい口調でそう尋ねる。

 ミリーニャは困った顔でオレとロベルトを見てきたが、オレは再び顔を逸らすことで、それを拒否する意思を見せた。

 その後、ロベルトを見たのだろう。


「今回はルクスくんに賛成だから……ごめんね」


 素直に同意できないことをミリーニャに伝える。

 味方が誰一人いないと分かったミリーニャは、少しばかり悩んだ表情を浮かべていたが、がっくりと肩を落として、


「分かりましたよぉ。素直にここまで連れてもらってくることを頼みます。だから、案内します。これなら問題ないですよね、白魔術師様」


 こればかりは譲れないという声色でユーリさんに尋ねた。


「それなら大丈夫ですよ。ちゃんとここまで帰れるように、しっかりと案内してくださいね」

「もちろんです! だ・か・ら、村まで案内させてもらいますッ! これでいいですよねッ!」


 そう言って、オレたちを見てくるミリーニャ。

 ミリーニャの表情は少しだけムスッとした拗ねた表情であり、村まで行く道中で愚痴られることが容易に想像出来るものだった。

 なんで、こうなるんだか……。

 オレは「はいはい」と適当に返事を返しながら、現在いまの状況が憂鬱過ぎて、頭を掻いて、気持ちを紛らわせることにした。

 同時にこの原因を招いたロベルトを軽く睨んでおく。解決はしないけれど、少しでも気持ちが紛れると思ったからだ。

 その本人であるロベルトもまたミリーニャの表情を見て、少したじろいでいた。そして、引きつった笑いで返しながら、何か覚悟しているような表情をしているようだった。

 ドンマイだな、ロベルト。

 道中で二人から攻められるであろうロベルトのことを思うと、なんだか可哀想になってしまう。が、助ける義理もないため、こっそりそう思っておくことにした。

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