二章
(1)
翌日、オレたちは朝食を食べ終わった後、村に行く準備をしていた。
いや、準備をするものはない。元々持っていた物がないからだ。だが、オレたちは昨日の夜、話し合ったことがある。それは――。
「あの、ユーリさん。村までの地図かその写し、最悪村までの行き方を教えていただけませんか?」
ユーリさんに村までの行き方を教えてもらうことだった。
「え? それはいったい……」
その発言にユーリさんは少しだけ驚いていた。が、すぐに考え込むような表情になり、
「なるほど、そういうことですか……:」
とオレたちの考えが分かったように納得いった表情へと変わる。
オレはユーリさんの答えが当たっているように首を縦に振って応えた。
それは昨日、寝室に案内される前に言っていた『関わりを少なくする』に由来する。本当であれば、こんなことまでしなくてもいいのだろう。それでもミリーニャの様子を見ている限り、絶対に気になってしまう。ものすごく極端な話ではあるものの、こうする方がいいという考えに至ったのだ。
それはルクスもロベルトも同意してくれた。
だからこそ、こうやって話を持ち出すことも出来たのだが……。
しかし、ユーリさんは少しだけ不安そうにオレたちを見ていた。
「本当に大丈夫ですか? 地図がないもので口でしか説明できないのですが……。村までは大して遠くないため、地図が必要ないのでもってないのです。元々、村の出身者ですから……」
「そういうことですか。それなら、それで手を打ってあるので大丈夫ですよ。確定とは言えませんけど、高確率で辿り着く自信はありますから」
オレが笑顔でそう言った。
その方法は精霊に道を聞き、その指示に従い、進むこと。
昨日の夜、話し合った直後にオレはこのためだけに精霊との契約を急いだ。なぜなら、精霊に村までの行き方を聞けばいいため、ユーリさんにわざわざ聞かなくても済むからだった。
しかし、寝る前に一つ問題に気が付いてしまう。
それは、『ユーリさんかミリーニャに村までの行き方を聞かないと怪しまれる』ということだ。
いくら勇者見習いとバレたところで、いきなり村までの行き方を把握する術はない。だったらどうするか? と考えた結果、ユーリさんに尋ねるという方法を取るしかなかった。
オレが精霊を使って、村までの行き方をなんとかすると伝えていた二人にそのことを朝起きてから話すと、呆れ返っていたのは言うまでもない。
だからこそ、こうやってユーリさんに尋ねている現在も、顔を逸らし、情けない様子でオレを見ている。いや、その視線が嫌というほど突き刺さってきていた。
「ちょ、ちょっと待ってッ!」
そう言ってきたのは――ミリーニャ。
今までキッチンへ移動していたのだが、オレたちの会話が耳に入り、慌てた様子でリビングに戻ってきたような様子で、少しだけ息を荒らしていた。
ミリーニャが言いたいことが当たり前のように分かっているオレは、その制止を聞き流すつもりでいた。
それはルクスも同じだった。
なぜならミリーニャと会話をするということは、その制止に耳を傾け、気持ちを揺らがされてしまう。つまり、逆に説得されてしまう可能性があったからだ。
だからこそ、オレとルクスは無視する選択肢を選んだのだが――。
「ごめんね、ミリーニャさん……」
とそんなことを考えていないロベルトが反応してしまう。
ちょっと待てーッ!
だからこそ、そうやって何も考えずにミリーニャに話しかけてしまったロベルトに驚き、心の中で突っ込んでしまう。
もちろん、この話は昨日の話し合いに組み込んではいない。が、冷静に考えれば分かってくれていると思っているからこそ、話題に出さなかったのだ。
ルクスもまた「あーあ……」と言わんばかりに天井を見上げ、目を手で覆っていた。まるで、この現状を見たくないという様子で。
「『ごめんね』じゃなくて、いったいどういうことですか!? 襲われていたところを助けてもらったお礼をするって約束したじゃないですかッ!」
オレたちの正面に立つと、ミリーニャは完全にムキなった様子で騒ぎ始める。
その言葉にロベルトは困った様子でオレたちを見てくるが、オレとルクスは顔を逸らす。もちろん、助けるつもりがないという行動だ。
そんなオレたちの反応にロベルトは困りながらも、話しかけてしまった責任者として、しどろもどろで説明を始めた。
「だって、そのお礼としては一泊してもらったことでチャラになってると思うんだよ。だから、これ以上は迷惑をかけられないと思ってさ。ミリーニャさんの手料理を食べさせてもらったことだし……」
「それはそれ、これはこれですよ! ロベルトさんたちから提示されたのは村への案内じゃないですか。白魔術師様の家に泊めるように仕組んだのはわたしの独断。だから、気にする必要はないんですッ!」
「いや……でも……ね……」
「『でもね』『そのね』でもないんですよッ! もし、この一泊したことについての恩を感じているのなら、それは白魔術師様に返してください。わたしがしたことはお節介だから、恩を感じるよりも迷惑だと思ってもらっても大丈夫ですからッ!」
「え……えぇ……」
ロベルトはミリーニャが『迷惑だと思っていい』と言う言葉に返す言葉が見つからないらしく、情けない声を漏らしてしまう。
この時点で勝敗は決した。
ミリーニャの勝ち。
だから無視すればいいものを……。
オレは情けなくため息を溢した。
そこまではっきり言い返されてしまえば、オレどころかルクスでさえ言い返す言葉が見つかるはずもなかった。だからこそ、ロベルトが負けるのも必然に近いものだった。
ユーリさんもまたミリーニャがはっきりとそう言い切るとは思っていなかったのだろ。失笑を溢していた。
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