(11)

「ごちそうさまでした」


 ミリーニャが作った夕食を最後まで食べていたオレが手を合わせ、終わりの言葉を言うことによって、食事の時間が終わったことを告げる。

 食べている最中にミリーニャには伝えたが、ミリーニャの料理は美味しかった。比較対象がA級料理人と比べたら間違いなく劣るが、一般人と比較すると美味いレベル。だからこそ、オレは満足して食べることが出来た。

 それはルクスとロベルトも同じだ。

 一般人が作る料理だからこそ、食べる前は一切期待していない様子だったが、食べると認識が変わったらしく、二人とも美味しく食べているようだった。

 オレたちが食べ終わったことを確認したミリーニャが、


「お粗末様でした」


 嬉しそうにそう告げ、テーブルに置いてあったお皿たちを片付けし始める。


「あ、ボクも手伝うよッ!」


 その行動に反応し、ロベルトもソファーから立ち上がり、近くにあったお皿を重ねて運び始める。


「え? お客さんなんだから、そんなことしなくていいよッ。わたしがするから」

「いいよいいよ。ボクたちは危ない所を助けただけで、村まで連れて行こうとしてくれたり、泊めてくれたりしようとしてくれたんだから。恩が一つ多い気もするしね」

「そんなこと気にしなくてもいいのに……」

「いいから、ボクにも手伝わせてよ」

「うーん……じゃあ、お願いしようかな……」


 ミリーニャは少しだけ悩んだ末、ロベルトの様子から拒否しても効果がないと判断したらしく、素直にその好意を受け取ることにしたらしい。

 ロベルトはミリーニャの後を追い、キッチンの方へ歩いていく。

 オレもまたそれに倣った方がいいかと思い、ソファーから立ち上がろうとした時、


「助け……? いったいどういうことですか? 食事をしている最中にそういう話をするのはやめておいたのですが……」


 白魔術師ことユーリ・アベストロジーが興味深そうにオレとルクスを見る。

 自己紹介だけは食事中に済ませていたが、なかなかその質問をして来なかったことに対して疑問に思っていた。が、空気を読んで、それを遠慮してくれていたことにオレは改めて気づく。

 だからこそ、オレは立ち上がることを止め、再びソファーに座り直す。

 が、その質問に答えたのはオレではなくルクス。


「森でモンスターに襲われて逃げていたところで偶然出会っただけです。だから、助けた。それだけのことです」


 その説明の仕方はあっさりとした物言いだった。そのことが当然であり、当たり前の出来事。だからこそ、深く説明するまでものことではない。そんな雰囲気を醸し出していた。

 なに、かっこつけてんだ?

 その様に思わずそう突っ込みたくなったほどだった。

 しかし、そんなルクスの雰囲気はさておき、ユーリさんは驚き、慌てた様子でイスから立ち上がる。そして、キッチンへ移動して行った。そして、ミリーニャと何か話す声がオレたちの耳に入ってくる。

 そして、戸惑った様子でロベルトがリビングへと帰ってきた。


「ねぇ、何があったの? 急にアワアワしたユーリさんが入って来たけど。というか、なんか頬をぺたぺた触り始めて、『大丈夫ですか?』とか言い始めて、空気がおかしくなったから逃げて来たんだけど……」


 出会った理由を話したことを知らないロベルトは、キッチンで起きている状況を少しだけ教えてくれる。


「森であったことを教えただけだ。それ以外におかしいことは言っていない」


 ルクスのまたあっさりとした回答をしながら、そんな状況になっていることに動揺しているらしく、なんとも言えない表情をしていた。

 それが本当なのか嘘なのかを確認するためにオレを見てくるロベルト。


「本当だよ。それを伝えただけさ」

「そっか。何か訳ありなのかな?」

「かもな。森で出会った時からミリーニャにはおかしいことがあったし……」

「あー……それもそうだね……」


 ロベルトはそう言いながら、ソファーの元座っていた位置に座ってくる。


「俺様たちが関わることじゃないさ。関わると絶対にロクでもないことに巻き込まれるぞ」


 オレとロベルトの会話から、そのことについて考えたり、ユーリさんに聞くと踏んだのだろう。ルクスはそう注意を促す。

 しかし、そんなルクスも顎に手を添え、そのことについて自然と考えているようなポーズを取っていた。


「言った本人がなんでそんな真剣に考え始めてるんだよ。台無しだぞ、忠告が」


 だからこそ、オレはそのことを突っ込まざるを得なかった。いや、この状態だと突っ込んでも怒られることはないと思ったからだ。


「あん? ……かもな。忠告したわりには俺様自身が気になるんだから、これは勇者という職業のさがなのかもしれないな」

「だったら考えても何の問題もないか。解決するには本人に聞くしかないけど」

「……その通りだな」


 珍しくそのことにルクスも同意を示す。

 なんでそんなに気になってんだか……。

 完全に興味を占めているようで、反発する気配の一つも見せないルクスに少しだけオレは寒気を感じ、身体を一度ブルッと震わせる。

 そんなオレたちのやりとりを見ていたロベルトが、


「でも、そんなの聞けるわけないよね」


 とそれに対しての注意を含めた疑問を投げかけてくる。もはやそれは、「聞かないでよね?」と言っているに近い言い方だった。が、表情だけは真面目なものになっており、オレとルクスを睨み付けていた。

 そこまでして真面目な表情になっているロベルトをあまり見たことがなかったオレとルクスは、自然と首を縦に振っていた。


「聞くわけないだろ、常識的に考えて」

「言ってみただけだよ。だから、そんなマジになるなよ」


 そんなロベルトを宥めるような発言しか出来なかったオレたちだが、


「それならいいんだけどさ」


 ロベルトはそれだけでも満足したようで、ホッとした表情に戻る。

 いったいどうしたの、お前らさ。

 ルクスだけでもなくロベルトもまたそんな状況になっているため、オレはなんとなく変な感じを受けてしまう。

 そのため、オレはこの変な空気から逃れたいがためにユーリさんが早くリビングに戻って来てくれることを心の底から望むのだった。

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