(10)
オレたちはミリーニャの案内の元、森の中に一件しか存在しないであろう家に辿り着く。
その家は木で造られた家であり、屋根に一本の煙突が作られていた。簡単に言えば、絵本などで見たことのある質素な家。
「ここです、わたしが住んでいる家は!」
ミリーニャは「じゃじゃーん」というBGMを後ろで流しているかのようなテンションで、オレたちへ紹介してくれる。
そんなハイテンションな紹介にオレたちは対応に困ってしまっていた。
なぜなら、そんなハイテンションで盛り上がられたところで、泊まることを許可してくれたことに対しての申し訳なさの方が強かったからだ。
それともう一つ気になることがあった。
それは、この家の明かりがすでに点いていること。つまり、誰かがこの家にすでに住んでいることを示していた。
「あのさ……一緒に暮らしている人は大丈夫なの? ボクたちがミリーニャちゃんの独断でここに泊まることを決めたことに対して……」
そのことにロベルトは改めて申し訳なさと遠慮を込めた言い方で尋ねた。
オレとルクスもそれに同調し、首を縦に振る。
「そういうことはちゃんと一緒に暮らしている人と話して、それから決めた方がいいぞ」
ルクスはその腕を組み、ちょっとだけ真剣な目付きでミリーニャへ提案を出す。その目付きが睨み付けるような感じになっていたが、あえて突っ込まず、
「そうだな。それは大事だと思うから、とにかく話して来い」
オレもまたその提案に乗る。
その提案にミリーニャはちょっとだけ沈んだような声で、
「はーい。ちゃんと話してきます。……結論が出るまで逃げないでくださいね?」
返事してきた後、オレたちの考えを見越したかのように忠告の言葉を付け出す。
少なくともその方向で考えていたオレとルクスは身体をビクッと震わせる。
ロベルトは逆に「あ……」とその手があったことを今さら思いついたような反応で、納得してしまっていた。
「とにかく行ってきます」
ミリーニャは少しだけオレたちに勝ち誇った顔になるも、同居している人にそのことを伝えるのは心が重いのか、すぐに浮かない表情になってしまう。が、そんなことを言っていられないため、玄関の前にある階段を上がっていく。そして、玄関の前に着くと二回ノックし、ドアを開ける。
「ただいま帰りましたッ、白魔術師様」
と嘘で塗りたくりの声色で明るく振る舞う。
「おかえりなさい。どうしたのですか? 声色が普段と一オクターブほど上がっていますが? もしかして、何かありましたか?」
しかし、その嘘は長年一緒に住んでいるからか、すぐに見破られてしまっていた。
その言葉にミリーニャはあわあわとした様子で、
「え? そ、そんなことありませんよッ! 普通です! 全然普通ですよッ!」
必死に否定し始める。
バレバレすぎるだろ、それ……。
隠していることがありますと言わんばかりの否定の仕方にオレたちは自然と呆れ、ほぼ同時にため息を溢していた。
そのため息の反応したのか、それとも偶然玄関の方へやってきたのか定かではなかったが、玄関からひょっこりと白髪混じりの茶髪の男性が顔を出す。そして、自然と目と目があってしまう。
「お客様ですか?」
分かっているであろうが、改めてそのことをミリーニャへ視線を下ろし、尋ねた。
「はい……あの……あの方たちを泊めてあげたいんですけど……よろしいでしょうか……」
「泊める……何かあったのですか?」
「じ、実は――」
「いえ、今は止めておきましょう。時間的にもこれから村に行くのも時間がかかりますし、時間も遅い。理由を聞かなくても、泊めてあげるのが一番でしょう。さぁ、みなさん入ってください。暗くなると危険ですからね」
白魔術師はそう言って、オレたちへ手招きしてきた。
その時点でオレにはその優しさに甘えないという考えは思いつかず、言われるがまま一歩を踏み出す。
オレが一歩を踏み出したことがきっかけとなったのだろう。ルクスもロベルトも同じように付いて来た。
それを確認した白魔術師は、
「ミリーニャさん、食事の順二をしてもらってもいいですか? 今日は人数が多いので、多めに頼みますよ?」
ミリーニャの方へ顔を向け、食事の準備を頼む。
オレたちの宿泊の許可が下りたことに対し、ホッとしたような表情をしていたミリーニャはハッとして、すぐさま敬礼のポーズを取った。
「はい、分かりましたッ。今日は腕によりをかけて作らせて頂きます!」
そう答えた後、奥へ消えるように駆け足でミリーニャは消えていく。
階段を登りきったオレたちを出迎えるために、玄関のドアの横に立っていた白魔術師は階段を登りきると同時に、
「いらっしゃい。今日はゆっくりして行ってくださいね」
と客人としての声をかけてきてくれる。
「お邪魔します。今日は――」
先頭で上ったオレがそれに応えようとした最中で、
「今日はお世話になります。いきなり押しかけるようにして来てしまい、誠に申し訳ございません。今日だけで大丈夫ですので、よろしくお願いします」
オレを押し退け、ルクスがお礼を述べながら頭を下げる。
この野郎ッ。
お礼の言葉を言うのは別に良いのだが、押し退けてまで言うその図々しさに呆れながら、オレも同じように頭を下げる。
ロベルトもルクスの行動に困った表情を浮かべながら、同じように頭を下げた。
「詳しい話は後で聞かせてもらいますね。何かあったからこそ、ミリーニャさんがここに連れてきたんでしょうから」
まるで悲しみに濡れたような水色の瞳でオレたちを順番に見た後、微笑む。そして、中に入るように手を促す。
その指示に従い、「お邪魔します」の言葉を言い、中に入る。
中ではドタバタと食事の準備をするミリーニャが、忙しなく動いている音が耳に入ってくるだけだった。
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