(7)
「あ、そうだッ。一つ気になることがあるんですけど、聞いても良いですか?」
そこでミリーニャはオレたちを交互に見ながら、そう尋ねてきた。
「どうしたの? 村に案内してもらえるんだから、質問ぐらい答えるよ? じゃないと失礼でしょ?」
ロベルトが誰よりも先にそう答えた。
その口調はとても柔らかく、恐怖を一切与えようと努力したような感じだった。
それはつまり先ほどの流れから、オレと同じ予想に至ったと気付く。
ルクスはそれが面白くなさそうに見ていたが、あえてそれは見ていないことにした。だって面倒そうな感じがしたから。
「ありがとうございます。皆さんは旅をしてる方ですよね?」
「うん、そうだよ。だから、この辺の地理は一切なくて困ってるんだ」
「何の職業をされているんですか?」
「……それは――」
その質問をされる予想はしていただろうが、素直に答えていいか分からないため、ロベルトは頭を悩ませる。だからこそ、その助けを求めるためにオレとルクスへ助けを求めてきた。
勇者って聞いて、どんな反応するんだろうなぁ……。
素直に喜んでくれるのか、それとも嫌悪を示すのか、もしくはびっくりするのか……考えれば考えるほど、ミリーニャの様子からは想像が付かないため、オレもまた困ってしまう。
そんなオレたちの反応を見ていたルクスは情けないような表情をした後、
「勇者だよ。この世界にいる魔王を倒しに来た」
と、躊躇うことなく自分の職業について答える。
ルクスの躊躇いのない返答にオレとロベルトは「は?」と思わず驚きの声を上げてしまう。
「なんだよ? 普通の答えだろ。いつかはバレんだぞ? だったら、今答えておく方が無難じゃないかよ」
「そ、それはそうだけどさ……」
オレはその返しに納得しつつも、ミリーニャの方へ視線を向ける。
ミリーニャは……目を丸くしていた。
ルクスの言った返答が本当なのか嘘なのか分からず、反応に困っているような状態。が、ルクスが冗談を言うキャラではないと認識しているらしく、発言に困っているようだった。
「え、えっとぉ……疑えないんですけど……な、なんで三人いるんですか? この中の一人が勇者様で……ほ、他の二人は従者さんですか?」
困った末にミリーニャが出した返答は、そう考えても仕方のない返答。
厳密には勇者じゃないけど、三人もいればそうなるか……。
オレがそう考えていた矢先、
「その通りだ。オレが勇者で、後の二人が従者だ」
ルクスはまた迷うことなく、はっきりとそう言い切る。
「なんでそうなるのさッ! ルクスくん、今のは冗談でも許せない発言だよッ!?」
瞬時にロベルトが噛み付く。
それは当たり前の文句。
しかし、その発言に対し、ルクスは悪びれた様子も見せず、むしろイラッと来たらしく、顔を少しだけ険しくなる。
「チッ、本当の事だろうが。俺様が勇者にならなかったら、この中で誰が勇者になるんだ? 一番ふさわしいのは俺様なんだよ」
「そんなことない! 校長先生だって、『成績が下位の人でも勇者になれる可能性はある』って言ってたじゃないかッ!」
「それは成績上位の奴らのやる気を出させるための言葉だよ。あとはお前ら下位を励ますための言葉だ。もし、下位の奴らが勇者になるなんてことが本当にあったとしても、そいつがアホなだけで、俺様はお前たちごときに負ける気なんてしねぇよ」
「なッ!? そんなボクたちをバカにする人が勇者になれるはずがないじゃないか!」
「んだと、コラッ!?」
「何さッ!?」
そんな二人の口ゲンカをオレは眺めることしか出来ずにいた。
そもそも止める気すら起きない。
なぜなら、今回は間違いなくルクスが悪いからだ。そんなものは誰から見ても分かる状況。そんなものバカでも分かるのに、一々口を出して、矛先がオレの方に向けられるのも困るからだ。
まぁ、オレもちょっとイラッて来たしな……。それよりも――。
ミリーニャを見ると、二人が口ゲンカをし始めたことにアワアワと戸惑ってしまっていた。間違いなく、自分のせいだと思い込んでいる状態。
「ミリーニャ……さんは何にも気にしなくていいよ。悪いのはルクスだから」
「え、あの……でもッ!」
「いいからいいから。というより、あいつらうるさすぎ」
うるさいと思えるほどデッドヒートしている二人のせいで、ミリーニャの声が聞き取りにくくなっていたため、一つため息を溢す。そして、目に見えるほどだるそうに立ち上がると、ミリーニャの元へ近寄る。
オレの行動にミリーニャはビクッと身体を震わせる。
それはいきなり近付いて来たことにより、何かされるかもしれない。自分のせいだと感じているからこそ、そんな恐怖を感じてしまったと理解するには十分だった。
「何もしないって。そもそも、あいつらがうるさいから寄って来ただけだし」
ミリーニャの隣に構わず座る。
座っても、ミリーニャは緊張しているようで、座っていた場所から少しだけ距離を取った。
けれど、そのことを気にしたところでしょうがないため、オレは先ほどの続きを話すことにした。
「さっきの続きになるけど、オレたちは三人とも勇者なんだ。なんていうか見習いって感じ? 必要最低限のことは学んでいるけど、勇者としての素質に目覚めてないって状態。だから、誰が勇者とか従者とか決まってないんだよな」
「そ、そうなんですか……。余計なことを言ったせいで……ッ」
「それは違う。何も知らない人がああいうことを聞いたって普通だとオレは思うし、あそこでルクスが余計なことを言ったから悪い。言わなければ、ロベルトだってあんな風に反発しなかっただろうしさ。とにかく気にしないでくれ」
「……は、はい……。ごめんなさい」
「おう。許してるから安心していいって」
そう言いながら、オレはミリーニャの頭の上に手を乗せ、軽く上下に擦る。
その行動はオレ自身も予想外の行動だった。
頭を撫でるなど、最初からするつもりもなく、する予定すらなかった。ただ、無意識にそんな行動が出てしまったからだ。
ミリーニャもまたその行動に驚き、オレの方へ顔を向ける。その顔は赤面していた。
「ご、ごめ――」
悪いことではないのだろうが、ミリーニャのように思わず謝ろうとした瞬間、オレの後ろ髪を何かが通り過ぎ、軽く切り裂く。
「え?」
そして、おそるおそるその何かが飛んできた方向を見ると、そこに居たのは――ルクスとロベルトだった。
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