(6)
休憩に入り、五分経った頃には彼女の方も気分が落ち着いたらしく、オレから離れる。そして、申し訳なさそうに軽く頭を下げ、
「助けていただいてありがとうございます。なのに、怖がってすみませんでした」
お礼を全員へ、謝罪の方をオレとロベルトの方を見ながら行った。
なんとなく体感的にはオレの方がその見る時間が長かったような気がした。それはオレの勘違いかもしれないし、もしくは本当にそうだったのかもしれない。それが本当だった場合、オレを傷付けたと思っているのだろう。
が、そんなことはどうでもよく、立っていることがなんとなく気だるくなってしまったオレは、まずは二人と同じように木に凭れて座ることを優先。
「いいさいいさ、ショックを受けるような倒し方をしたのは間違いないし……」
近くの木に移動しながら彼女をフォローの言葉をかける。そして、木の幹に凭れかかると、「よいしょっと」という声と共に座り込む。
「ありがとうございます」
彼女もまたオレたちに倣い、向かい合うような距離を保つような感じの場所にある木の元へと寄り、木の幹に足を抱え込むような形で座る。
「それで、なんで君は狙われてたの?」
その質問をしたのはロベルト。
『あんな風にモンスターに襲われる=彼女には何か秘密がある』、と思ったらしい。
定番といえば定番の流れではあるため、オレもその発言に少し引っ掛かるところが覚えたが、頭ごなしに否定することは出来なかった。
それはルクスも同じだったらしく、少しだけ呆れたような表情をしていた。
「いえ、わたしはそんな立派な人じゃないですよ。ただの一般人です。あ、『ただの一般人』ではないかもしれません。だって、白魔術師の見習いですから」
そう言いながら、自分の正体を少しだけ明かしてくれる。
だから、モンスターを倒すことが出来なかった。
彼女が戦う意思を見せなかったことに対して、オレは思わず納得してしまう。知っている限り、白魔術師は戦闘に不向きだからだ。だからと言って、戦う術が完全にないわけではない。が、基本的には回復系統が主流になってしまうため、見習いならまだその段階に達してないと予想するには十分な情報だった。
「ったく、戦う術がないのに森に入ってんじゃねぇよ。危ないだろうが」
そう言ったのはルクス。
少しだけ不機嫌そうに言っているのだが、それは彼女のことを心配しているからこそ、そんな風になってしまっているらしい。
「ごめんなさい。でも、この森にしかない薬草もあったので。何より普段からこの森には入っているので、大丈夫だと思って……。油断しちゃってたみたいです。ごめんなさい」
なぜかペコペコと頭を下げ始める彼女。
まるで、相当悪いことをしてしまったと思っているらしい。
そんな行動にオレたちは戸惑ってしまう。中でも注意の言葉をぶつけてしまったルクスが一番戸惑っているらしく、
「お、怒ってないから安心しろって。俺様が言いたいのは、森に入るんだった気を付けろってことだからさ」
珍しく気遣うようなフォローの言葉を慌てた様子で付け加えた。
「それはいいとして、オレたちちょっと近くの町か村に行きたいんだけど、行き方分かるか?」
なんとなくこのままではマズい流れにしかならないような気がしたオレは、話題を変えることにした。
「えっと……町はないですけど、村ならあっちの方に進めば着きます」
彼女は指でオレたちが進んでいた方向より少しだけ左側よりを指差す。
「えっと……なんでしたら、わたしが案内しましょうか? 助けてもらったお礼として……」
そして、少しだけ遠慮がちにそう言ってくれた。
オレたちは一瞬、その提案に対して、相談するという意味で顔を見合わせる。ルクスもロベルトも首を横に振ることはせず、むしろ縦に振っていた。つまり、その提案に乗るというもの。
「じゃあ、お願いしようかな? 案内されるついでに簡単に自己紹介でもしとくか。オレの名前はカイル。よろしくな」
案内される以上はお互いのことを知っておくべきだと思ったため、会話にさりげなく自己紹介を混ぜ込むことにした。そうでもしないと彼女はなんとなく、このまま名前を名乗らずに案内してくれそうな気がしたからだ。
「あ、えっと……わたしはミリーニャって言います。よろしくお願いします」
彼女も自己紹介する流れで、すっぽり被っていたフードを戸惑いながら、ゆっくりと外す。
髪色はオレと同じ金髪であり、目もまた碧眼。違いといえば、金髪の色の濃さぐらいであり、それ以外はなんとなく似ているような気がした。
「そっくりってわけじゃないけど、なんか無駄に親近感を感じるな。同じ髪色だと」
しかし、似ているのはそれだけ。本音としてはどうでも良かったのだが、そんな雰囲気に持って行ってしまった以上、何か言う責任を感じたため、とりあえずそう言っておくことにした。
この言葉を言った瞬間、彼女がオレの後ろに隠れた理由もなんとなく分かってしまう。
それはフォローした言葉通り、親近感が湧いたからこそ、オレの後ろの隠れたことに。
「はい、そうですよね! やっぱり親近感湧きますよねッ」
ミリーニャはまるでそのことを理解してくれたことが嬉しかったのか、落ち込んだテンションから少しだけ上がり、笑顔を作った。
「チッ、二人だけで何盛り上がろうとしてんだよ。俺様はルクスだ、よろしくな」
まるで二人だけの世界を作りかねないと判断したのか、ルクスはぶっきらぼうにだが、自分の名前をミリーニャに伝える。
そんな反応にミリーニャは慌てて、
「ご、ごめんなさい! そんなつもりはなかったんですッ! ミリーニャって言います、よろしくお願いします」
ルクスの自己紹介を受け、ペコペコと頭を下げて自己紹介をした。
さすがにまた先ほどと同じような状況を作り出しかねない雰囲気に、ルクスはまた困ってしまったようで、視線をロベルトへ送る。
助けを求めるぐらいなら威圧的な自己紹介するなよ……。
そう思わずにいられなかったオレは小さくため息を溢し、頭をガシガシと掻く。
対して、助けを求められたロベルトは「えー……」という表情を浮かべつつも、
「ボクの名前はロベルトって言うんだ。よろしくね」
と、簡単にだが自分の名前を教えて、その対象を自分へと変える。
すると、ミリーニャもまたそれにすぐに応えないといけないと思ったのか、
「ミリーニャです、よろしくお願いします!」
同じようにペコペコと頭を下げながら、また自分の名前を名乗る。
なんなんだろうなー、この子。
この反応にやはり違和感を覚えずにはいられなかった。
まるで怒られることに対しての恐怖が強すぎるため、その対処法として即座に謝ることで解決しようとしている。
そんな気はするものの、そこはプライベート。オレは感じつつも、それを口に出すことは出来なかった。なぜなら、そこまでミリーニャと深く関わるつもりはないと、この時は思っていたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます