(5)
「そんな解説をさせる前に、先にそいつを倒せよ。そっちの方が安全に話を聞けるだろうがよ」
ショックを受けているロベルトを無視し、ルクスはそうオレに言ってきた。
「それもそうだな。この現状を見て逃げ出すかなって思ったんだけど、そんな様子も見せないし、さっさと倒すか」
こんな見え見えの発言をしたのは、ワザと逃がすチャンスを再びオレは作るためだった。
その理由は、オレの後ろにまだ彼女がいるため。
倒すだけなら別に何の問題もない。ただ、倒す方法に問題があったのだ。
しかし、オレを標的としているオオカミ男は逃げようともせず、なぜか悠長に口を開こうとしていた。だからこそ、遠慮なくオレは右手の人差し指を空に向かって立てる。それに呼応するかのように地面から無数の突起が生まれ、それがオオカミ男の全身を貫いていく。手足はもちろん身体の大事な内臓器官も貫き、突起に沿い、血は流れ、あっという間に血の水溜りをオオカミ男が立っている場所に作り上げた。
「……ッ!!」
彼女はその光景をオレの後ろからしっかりと見ていたのだろう。言葉にならない声を溢し、完全にオレの後ろに隠れてしまう。
やっぱりなぁ……。
オレの使う魔法は精霊魔法。この世界にも存在している精霊と契約を交わし、それを使役して攻撃するタイプの魔法だ。ルクスのように詠唱をしなくてもいいため、素早く魔法を出せることが最大のメリット。デメリットとしては場所や状況によって使えない属性魔法が出てくることがデメリットだった。しかも、今回はこの世界に着いて間もないため、自分の得意な属性の魔法攻撃で攻撃することしか思いつかず、こんな無残な倒し方を出来なかった。
「何してんの、カイルくん」
そんな無残な倒し方をしてしまったオレに、ロベルトはちょっとだけ怒っているような表情をしていた。
「いや、その、これは……すまん、悪気はなかったんだよ」
「悪気はないにしても、もっとマシな倒し方をしなよ」
「……これからは気を付ける。ごめんな、恐怖を植え付けるような倒し方しちゃってさ」
謝罪の言葉を彼女に送るも、彼女からの返答はなかった。しかし、彼女の身体の震えは握っているオレの服から伝わってくるため、気絶しているわけではなく、恐怖から声が出ないのだと気付いた。
「ったく、ショックを受けさせないような倒し方をしたのは俺様だけか。もっと
ルクスの声色から、少しだけ自慢そうに言っているような感じがした。
それは、自分だけが他人にショックを受けるような倒し方をしていないことから来る優越感だと気付く。
それで気が済むんなら、それはそれでいいんだけどさ……。
優越感に浸るルクスを尻目に、彼女を見る。
しかし、彼女の様子からもうしばらくはこの場所から動けそうにないような気がしたため、
「ちょっとここで休憩して良いかな? オレのせいで彼女が動けそうにないしさ」
二人にそう提案した。
「うん、ボクは構わないよ? ルクスくんは?」
カイルは剣を納刀しながら、その提案を了承。
「俺様も構わんぞ。悪いという自覚があるんだ……おっと……」
そこでルクスはバランスを少しだけ崩してしまう。
それは、頭を踏んでいたオオカミ男の死体が砂に変わり、そのまま風に吹かれるかのように消え去ったからだ。もちろん、その現象はオレたちが倒したオオカミ男も同様だった。倒された順番で消え去り、周囲には戦闘した跡だけが残るだけとなった。
「風、全然吹いてないのに不思議なもんだね」
ロベルトは全く風が吹いていないことに気が付いたらしく、先ほど自分が倒したオオカミ男が居た場所へ近寄り、その場に屈みこむ。
「そういう仕様なんだろ。気にしたってしょうがねぇよ」
その場に何も残っていないにも関わらず、ルクスはその場を意味もなく蹴り、土を飛ばした後、近くの木に凭れかかる。そして、眠たそうに欠伸を一つ溢した。
「それもそうだよね……」
ロベルトはあまり納得いかないような表情をしつつも、現状そのことを調べることが出来ないため、諦めたように立ち上がる。そして、ルクスと同じように近くの木に寄ると、鞘を腰から抜いて、その場に座る。剣を自分の肩に凭れかけるようにして。
かくいうオレは未だにこの場から受けずにいた。
なぜなら、動こうにも彼女の身体が石のように重く、動くことがままならなかったからだ。いや、無理に動こうと思えば動けたが、気が引けしまったこともある。
だからこそ、オレはこのまま彼女が落ち着くまで、このまま立ち続ける羽目になった。
クソッ、オレばかりなんでこんな目に……。
口には出さなかったが、今日起きた自分の災難について色々思うことがありすぎて、心の中で愚痴りながら。
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