(3)
あれから三十分ほどオレたちは歩き続けた。
しかし、それでも町や村が視界に入ってくることはなかった。というよりも、それを示すような立て看板もない。それどころか、整地された道にすら出ることなく、木という木が乱雑に生える光景ばかり。
しかも、この状況で誰も話そうとはしなかった。
三人いて、誰も話しかけようとしない理由は一切分からない。けれど、話しかけられるような状態でもなかったため、誰も話しかけようとはしなかったとしか言いようがなかったのだ。
でも、そろそろ限界だな……。
他の二人は分からなかったが、オレのメンタルが悲鳴を上げ始めたため、
「ふぁあああ……山奥すぎて、なかなか人里見つかんねーなー……」
欠伸をしつつ、大きく伸びをしながら、思った以上に見つからないという意味を込めて、口に出した。
瞬間、オレの前を歩く二人の身体がピクッ震えたのを見逃さなかった
しかし、二人の反応は同じでも、オレが感じ取れる範囲では全く異なる意味の反応だったような気がした。ルクスの場合、そのことに触れて欲しくなかったような反応。ロベルトの場合は、「やっちゃった」というこれから来る嵐に怯えるような反応だった。
え、何か地雷踏んだ?
ロベルトの反応から、そんな気しかしなくなり、その爆発源となりそうなルクスを見つめる。
すると、ルクスはオレの方へゆっくり振り返り、
「そうだな。なかなか見つからないな」
と、目が一切笑ってない笑顔でそう返答してきてくれた。
「そ、そうだな。ちなみに独り言だから反応してなくても大丈夫だったんだけどさ」
「独り言、ねぇ……」
「そそ、独り言独り言」
独り言と言えば独り言であり、誰かが反応すればそれはそれでいいやと思っていたオレは、慌ててそれを独り言だったと言い訳することにした。そうでもしないとルクスから何を言われるか分からない。そんな恐怖がオレを襲ってきたからだった。
「そんなわけないよな? 分かってんだよ、コラッ!」
しかし、そんな言い訳も一切通用していなかった。
ルクスの表情は一瞬にして、鬼に近いようなものへ変わり、オレへ詰め寄り、胸倉を掴んできた。
「本当だって! マジで深い意味はなかったって!」
「ウソ吐け! 『オレが進もうとした方の道が良かったんじゃないのか?』って思ったりしたんだろうがよッ!」
「……え?」
あ、それもあるかも……。
その一言がきっかけとなり、オレはその考えもあるな、と納得させられてしまう。
「……本当に思ってなかったのか?」
ルクスもまたオレの反応から、本当にそのことを考えていなかったことに気が付いたらしく、鬼のような表情から「しまった」という表情へ変わっていた。
「そもそも、オレが歩いて行こうとした方向にも町か村があるなんてことはないだろうし、全然考えてなかったな」
「そうか……。深読みしすぎたか……」
そう言って、オレの胸倉を掴んでいた右手の力がフッと抜け、そのままダランと下がる。そして、オレに背中を向けるようにして、ゆっくりと進んでいく。
相当ショック受けてるなー……。
けれど、オレがなにかのフォローをかけたところで、逆効果であることは分かっていた。だからこそ、ロベルトへ助けを求めるように顔を向ける。
オレたちのやりとりを静かに見ていたロベルトは、無事に事が沈静化したことにホッとしているようだった。が、オレがロベルトを見たことにより、流れを察したらしく、顔の前で手を横に振り始める。それが自分では無理という意味。
分かってるけど、頼むって!
それでもなんとかしないといけないと思ったオレは、同じように顔の前に手を吸い長に立て、軽く頭を何回か下げてみせる。
「えー……」という嫌々そうな表情を浮かべながら、ロベルトはルクスの背中を見た。
オレもつられて、ルクスの背中を見ると、その背中は自分から墓穴を掘ってしまったことにショックを受けているようだった。
ロベルトは小さくため息を吐きながら、オレを少しだけ睨み付けてきた。そして、覚悟を決めたようにルクスへ話しかける。
「ル、ルクスくん……元気出そうよ。失敗や勘違いは誰でもあるんだからさ」
「……」
「ボクだってそういうことあるしね。他人の気持ちなんて簡単に分かるようなものじゃないからしょうがないよッ!」
「……」
「カイルくんだって怒ってないんだし! ね、そうだよね?」
そう言って、オレへ振ってくるロベルト。
ルクスが無反応のため、その状況に耐え切れなくなり、オレに振ることしか出来なかったらしい。
しかし、振られてくる覚悟自体は前もって準備出来ていたオレは、
「そうだぞ! 気にすることなんてないからさ! ロベルトの言う通り、失敗は誰でもあることだしさ! 元気出そうぜ!」
励ますように明るい声で――先ほどのことは全然気にしてないという気持ちを込めて、そう言った。
そこでルクスの足は止まる。そして、今まで落ち込んでいたかのような雰囲気から、一気に怒りに満ちたオーラが身体全体から噴き出す。
なんでだよッ!?
そんなツッコミをする内心と同時に、オレはこの事態にやはり怯えてしまっていた。
ロベルトも同じように反応をしながら、オレを恨むような目で見て来ていた。フォローをしなければ、こうやって巻き込まれることはなかったはずなのだから、当たり前の反応だった。
そして、ユラリとこちらへと振り返りながら、ルクスは口を開く。
「下手くそなフォローをありがとうな。そして、打ち合わせしたかのような行動に、俺様が気付いてないとでも思ったか。お前ら、ちょっとだけ痛い目に合わせてやる」
「はぁ!? なんでそうなるんだよッ!?」
オレがツッコミを入れるも、ルクスは無視し、代わりに理解出来ないような言語を呟き始める。
それはルクスが使う魔法――呪文を唱えるタイプの魔法だった。
知識としてそのことは知ってはいるものの、言語自体を理解していないため、オレにはどんなタイプの魔法を使うのか分からない。故に恐怖は呪文が進むにつれて、恐怖は倍増されていくばかり。
ロベルトも使う魔法のタイプが違うため、同じように怯えており、顔は恐怖で引きつっていた。
しかし、オレたちの頭の中に逃げるという選択肢は生まれることはなかった。
なぜなら、追いかけてでも一撃は食らわせることが容易に想像出来たからだ。下手をすれば、今唱えているものよりも強烈な物が来る可能性もあった。だからこそ、素直に攻撃を受けた方がマシだと理解したのだ。
そんな時だった。
まるでオレたちを救うようにして、一人の女の子がルクスの真横から現れ、ルクスに体当たり。
ルクスが唱えていた呪文は途中で中断され、
「なッ!?」
目を丸くしながら、驚きの声が漏らす。そして、その女の子を反射的に抱えるようにして、その場に倒れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます