(2)

 その場から慌てて離れ、落ちてきた物から距離を取り、改めてそれを確認。それは鞘に入った状態の剣だった。

 剣は相当高い所から落ちて来たらしく、鞘の先は地面に埋まっていた。


「マジかよ……」


 オレから漏れた言葉は驚きの言葉。

 それはに対してではなく、、そのことに対しての驚きだった。

 そんなオレの驚きの言葉とは正反対に――。


「これって……ッ!」


 ロベルトは嬉しさの感情が入った驚きの声を上げ、その落ちてきた物に近寄り、慌てたように引き抜き、抱き締める。

 そう、この剣はロベルトが学校で愛用していた剣。


「ったく、驚かしやがってよ……」


 さすがのルクスもこれが敵の奇襲だと思ったらしく、瞬時に身構えていたのだが、すぐにそれを解き、不機嫌な様子でまた地面を蹴っていた。


「とにかく良かったな、クソ校長が気を使って送ってくれてさ。これで足手まといにならずに済むな、落ちこぼれ」

「うん! ルクスくんやカイルくんみたいに役に立てるね!」

「……そうだな」


 嬉しさがルクスの皮肉な言葉を上回っているのか、ロベルトは一切気にしている様子はなかった。

 それがつまらなさそうにルクスは、後ろ髪がガシガシと掻いて、そのストレスを発散し始める。

 二人のやり取りを見た後、オレは少しだけ期待を込めて、空を見上げた。

 それは、ロベルトの武器が届いた=他にも何か送って来てくれるという気がしたからだ。


「期待しても無駄だと思うぜ? たぶん、もう何も送って来てくれねぇよ」


 しかし、それはルクスの冷たい一言で、一瞬にして霧散してしまう。


「なんでそう思うんだ?」

「送って来るなら、剣だけじゃなくいっぺんに送って来てくれると思うからだよ。今回はロベルトの使う魔法の特性上、いつも使ってる武器がいいだろうという判断からの配慮。そんな気がするんだよ」

「言われてみればありそうだよな、それ」

「チッ、こんな制服じゃ防御力がないに等しいってのによ」


 舌打ちをしながら、今オレたちが着ている制服の袖を引っ張るルクス。

 オレたちが着ている制服は本当に普通の服と同じ素材で出来ている。その上から対物理・対魔法の防御魔法がかけてあるものの、それは気が休まる程度のもの。だから強力な一撃の前ではないも同然だった。

 そんなルクスの一言にロベルトは、


「そう……だよね……。ボクなんて近接攻撃が主だから、二人より余計に危ないと思う……」


 先ほどの嬉しさが一瞬にして消え去り、ズーンと一気に落ち込んだ。

 そんな状態だからこそ、オレは二人にある提案をすることにした。


「どうするよ。ルクスの言う通り、また何かを送られてくる気はしなくなったけど、もしかしたらがあるかもしれないから、もう少し待ってみるか? それとも、もう先に進むか? 現状、この二択しか思いつかないけど、二人はどうしたい?」


 その提案に対してルクスの回答は早かった。


「先に進もうぜ。期待するよりも自分で行動した方が、あとで後悔しないと思うからな。もし、二人が残りたいなら残っても良いぜ? 俺様は先に進む」


 そう言うと腕を組み、オレとロベルトを交互に見始める。

 ここで本当なら先に進みそうな雰囲気はあるのだが、一緒に旅に出る仲間としての意識があるらしく、オレたちが答えるのを大人しく待ってくれていた。


「ロベルト、お前はどう思う?」

「え、ボク?」

「オレは質問した側なんだから、ロベルトに先に答えてもらわないと困るだろ?」

「あ……それもそうだね……んーと、ボクは――」


 ロベルトもまたルクスと同じように腕を組み、そして目を閉じて唸り始める。が、そう時間が経たないうちに――。


「ボクもルクスくんと同じで先に進んでいいと思う」


 ルクスと同じ答えを出した。


「そう思った理由は?」

「んー、別に移動したとしても校長先生なら、なんとか出来ると思ったからかな? ルクスくんの言う通り、もう送って来てくれないかもしれないけど、ボクたちが移動しててもそこを感知して送って来てくれそうな気がするんだよね」

「その考えもあるな」


 ロベルトのその言葉にオレは素直に納得することが出来た。

 そもそも校長という役職を貰っている以上、それぐらいのことは出来ないはずが踏んだのだ。


「へー、落ちこぼれの割には良い事言うじゃないか。確かにその通りだな」


 ルクスもまたロベルトが考えていたことを納得し、目を丸くして驚いていた。

 そんな反応をすると思っていなかったオレたちもまたルクスの発言に驚き、ロベルトに至ってはちょっとだけ恥ずかしそうに頬を掻いて照れている始末。


「ま、結論として先に進むってことになったから、とりあえず近くの町か村を探しに行きますか」


 オレからすればどっちでも良かったため、二人の意見に従うことにした。もちろん、誰もどこに町か村があるか分からないため、適当に進もうとルクスの横を通り過ぎようとした途端――。

 ルクスに右肩をガシッと掴まれる。


「なんでお前がリーダー気取ろうとしてんだよ。その立場は俺様のポジションだろうが……ッ」

 そんな発言と共に凄んできた。

 いきなりそんなことを言われると思わなかったオレは狼狽ろうばいしてしまう。


「そ、そんなつもりは――」

「いいんだ、気にすんな。最初に言わなかった俺様が悪いってことにしといてやる。だが、もう言ったんだ。良いよな?」

「……もちろんだ。リーダー」


 その圧力に耐え切れなかったオレは速攻で白旗を上げることに決めた。いや、元々そんなつもりはなかったため、やりたい人がやればいいと思っただけでもあったが……。

 もちろん、それはオレだけではなくロベルトにもかけた言葉だった。

 そのことを瞬時に理解していたロベルトは、ルクスがロベルトへ顔を向けると同時に、


「うん! リーダーはルクスくんしかいないよッ!」


 脅される前に白旗を上げる。

 その発言にルクスは満足したように、オレを掴んでいた手を離す。そして、オレが進もうとしていた方向とは真逆の方へ歩き始める。

 「俺様についてこい」という言葉も指示もなかったが、オレとロベルトは無言でその後ろをついて歩いた。

 ただ、歩き始めると同時にロベルトが、ルクスが掴んだ肩とは反対の左肩をポンポンと軽く叩いて来た。それは「どんまい」という意味。

 その意味にすぐに気が付くことが出来たオレは、少しだけロベルトの励ましに感謝し、


「ありがとな」


 と、ルクスには聞こえないほど小さい声――もしかしたら、ロベルトにも聞こえなかったかもしれないぐらいの小さい声でお礼を言っておくことにした。


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