地の文から読み取れる細かい描写や、台詞から読み取れるキャラとキャラ同士の距離感・本音・探り合いといったもの。ここらへんを誠実かつ、現在生きているコトバで描ききろう、という作品であるようです。
二行でまとめると何てコトない話に聞こえますが、実際に取り組んだ場合どれだけの苦労があるか、どことなく想像はつくのです。
恐ろしいほど男子中高生向けの『ギャルゲー的な何か』そのままに物語のセットアップ地点を置いておき、実装される読書体験(UXと言ってもいいでしょう)は限りなく遠い処へ持ってゆく。
ここまで目的と手段が真っ直ぐなオハナシは、ここ数年のラノベレーベルではあまり見てこなかったヤリクチです(それゆえに僕のようなひねくれ者が買ってるわけですがそれはさて置く)。
細かいお芝居の描写なるものは、私達素人がやらかせば地の文を冗長にしがちですが、この作家さんの場合、シーン全体が過不足無く流れるようカッチリ組まれている事に、再読段階で気付くハズです。
例えば、映画のように撮影段階で何度も同じシーン単位のシーケンスを繰り返し、数台のカメラで役者の芝居を追い続け、これを編集する事でフィルムに物語を定着させてみせるように。
王道もショートカットも存在し得ない領域で、誠実なトライ・アンド・エラーを繰り返し、過去に幾度となく描かれてきたモチーフに取り組む。
恋愛モノというジャンルに誠実に取り組もうとし、行き着いた結論がこの手法であるのでしょう。
このシリーズが当初計画通りの巻数まで継続できる事を、願わずにはおれません。