第6話

朝よりか幾分暖かさが増していた放課後、特に部活動をしていない私はみんなより足早に教室を去る。別に茉莉達と話したくないわけでは無いが、帰り道に友達とカラオケ行くとか、何人かでそのまま映画に行くとか、わーわーきゃーきゃー騒いでいて、まるでこの教室は盛り時期の動物園。そう、私はあくまでそんな動物達の飼育員役なのでその輪には入らない。っていう設定。今日も男女めぐって盛んだなぁ、なんて思いながら1人客観的に眺めるだけ。

廊下に出るとちらほらと部活に行く者や帰宅する者が歩いていて、その緩やかな流れに私も溶け込む。今日は駅ナカの本屋さんで事前に目をつけていた新しい本を買う予定なので少し気が弾んでいるのか足取りが軽く、もういっそ鼻歌でも歌ってしまおうかって言うくらいには楽しみなのだ。みんなが放課後友達とカラオケとかで楽しむのと同じで私も楽しいんでいる。そう、だからみんなと私は同じなのだ。……ん?これだと私も動物圓の動物達と同じになっちゃうみたいだからやっぱ違う、私が上という事にしておこう。

なんてくだらない考えを頭に巡らせながら歩く。



─知床茉莉は困っている。

「あー、あはは……」

そんな苦笑しか出て来ないくらいに困っている。どうしてこうなった。

放課後、私が帰ろうと立ち上がると既に凛は教室にいなくなっていたので、仕方なく1人で帰るかぁ、と考えていた所で、クラスの中で結構イケてる男女がカラオケに行くらしく、まつりんも行こー!と、言われたのだが……。

はぁ………こんな事なら来なきゃ良かった…。教室で話した限りでは、男子3人女子3人でわいわいやろうって話だったのに、いざカラオケに来てみたらジャンケンで3人事のグループにしようと男子が言い出し、挙句の果てには私のルームは男子2人と私1人になってしまった。私はこういうのが嫌いなの。なんでこんなに男子って女子と少人数で遊びたがるのかなぁ、なんだかそうやって女子と遊ぼうと頑張っちゃってる所がちょっと結構本気で無理。

カラオケに来てから結構立ったな、後何分だろ……とスマホをすがる思いで取り出す。液晶は4:30と、来た時からたったの、たったの30分しか過ぎていないという残酷な現実を映し出す。

「知床って歌上手いよなー」

「わかるわー、もうこれ歌手デビューじゃね?」

……いらっ。

「ふふ、そんなことないよー?みんなも上手じゃん」

なんて言って、ニコニコする。

実際、歌が上手いと言われれば嬉しいし、ちょっと本心で微笑んでしまう所もあるけれど、70%は作り笑いだ。

中学校から男子ってそう。3年生くらいになった途端、高校生に近くなったからかいきなり大人振る奴とか、悪いことしてはしゃいでる俺カッコイイみたいな勘違いさんとかばっかりで、高校生になれば少しは変わるかなとか思ったけどやっぱりたった1年では何も変わっていなかった。

「ちょ、一緒にこれ歌おうよ知床さん!」

「え?……あぁ、うん、わかったー」

差し出された機械の液晶には最近テレビで良く流れているラブソングだ。

見た瞬間に頬が引き攣ったのが自分でも分かったが、極力顔に出さないようにと、笑ってみせて結局断れずに歌う。

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