第2話
「ふぅ……」
薄暗く、洞窟の中にでもいるみたいな店の中で私は息を漏らす。
周りの人はノートパソコンでレポートを書いていたり、受験生のような子は必死に英語を勉強していて、みんな自分の世界に入っていようで、つい気が緩んでしまったのだ。
大好きなキャラメルフラペチーノを少し飲んだ所で、さっき本屋で見つけてきたハードカバーの本を取り出す。タイトルには「偽りの口」と書いてあり、なんだか少し気になって購入してしまった。レビューを見てみると、どうやら主人公は好きで嘘を言ってしまうのではなく、言わざるを得ない状況ばかりに陥ってしまうらしい。なんだかどこに共感したのか自分にはわからないけれど、どうしても気になってしまった。
私はふふん、と上機嫌で本を読み出す。
私の座っている椅子の周りには窓が無く、時計を見ると既に2時をまわっていた。
だいたい3時間くらいだろうか……、どうも私は本を読むと、その世界にのめり込んでしまい全く周りが見えなくなってしまうようだ。
あまり長居するのも悪いか……。
私はそう考え店を出る。
外に出ると、駅前のロータリーは来た時よりも気温が上がっており、仕方なくお気に入りの黒い日傘で日差しだけでも防ぐ。
日傘をして歩くのは嫌いではない。
顔を見られるというプレッシャーから解放されるし、何しろお気に入りの日傘だから気分が良くなる。
ふふん……♪ん………?
私にしては珍しく上機嫌で駅前を歩いていたのだけれど、何やらすごく騒がしい集団が前からこちらに向かって歩いてくるのが視界に入った。
どうやらそれは同じクラスの人たちで、最も騒いでいるのが茶髪にパーマをかけ、ずっしずっしとあるいてくる
どうしよ……、日傘で隠れて通り過ぎよう…。と極力知り合いとすれ違いたくない私は最も簡単な方法でこの困った状況を切り抜けようとした。
「あれ、宮前さんじゃね?」
ぎくっ…。
「宮前……?凜ちゃん?」
どうやら隠れる前に大能に見られていたらしく、続いて雛菊さんにも気づかれてしまった。
「ぁ、えっと、……こん、にちわ…」
額に汗を浮かべながら私は出来る限り笑顔で挨拶をする。私的には笑顔で答えれば、たいていは何とかなるだろうと考えているのだ。
「ん、宮前さん出掛け?」
「うん、少しカフェで休憩してきた…。」
「さすが宮前さん、カフェとか似合いそうだよね。」
挨拶で終わるかもしれないという私の考えは虚しく散り、神崎くんが話を続ける。
「そ、そんなことないよ……。」
ふふ、と私は微笑み返す、神崎くんは比較的3人の中でも静かで少し気が楽になり、つい本心から微笑みが出てしまうのだ。
「宮前さんに会うなんてラッキー」
あはは、、と今度は苦笑混じりの笑みを返し大能くんの言葉を交わす。
雛菊さんはというと、私に話しかける大能くんと神崎くんを交互に見やり、じっ、、と睨むように私を見てくる。
ひっ、、、雛菊さんの視線が怖い。
すごい怖いなぁ、寿命縮みそうだよぉ…。
「海航!悠も早くいこぉよぉーー!!」
ぷんすかと雛菊さんが2人を引っ張る。
悪い悪いと2人とも笑いながら謝っているが、私的にもすごく助かるので早く行って欲しい。
「えっと、じゃあ私は…ここで…」
そう言って微笑むと彼らはおう、じゃあ、明日なー。と言って歩き去って行った。
ふぅ……。
私はゆっくりと息を吐いて歩き出す。
大能くん達と会ったときはどうなるかと思ったけれど、どうやら嫌われているわけではなさそうで良かった……。
私にとってはああいう明るくて賑やかな人は少し苦手だ。だから話しかけるとすこしびっくりする…。
どこか少しほっとした気持ちで、照りつける日差しの中、私はゆっくりと歩き始めた。
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